話其の漆/本当だった犬猿の仲
犬に先導され、鬼ヶ島へ向かう桃太郎。
この峠を越えた先に海があるらしい。
そこから舟に乗って鬼ヶ島へ渡るか、
干潮になるのを待てば、
歩いて鬼ヶ島へ渡る事も出来るという話である。
そして、もうすぐで峠も越えようかというところ、
突然に目の前に猿が現れて道を塞ぐ。
犬が立ち止まる。
桃太郎も立ち止まって、現れた猿に声を掛ける。
「ちょっと通してくれないかな」
「お前に用はない。通りたかったら、
とっとと通ればいい。俺はそっちの犬に用がある」
猿が鬼の言葉で応えた。
桃太郎は少しびっくりしたが、犬の件があったので、
いくらもしないうちにすんなり受け入れる事も出来た。
「俺!?何の用があるんだ?」
犬も鬼の言葉で応えた。
「何、しらばっくれてやがるんだ。人間の下僕のくせに
俺様に無断で此処を通ろうなんて、勝手が過ぎるぜ」
猿が犬に難癖を付ける。
「そっちこそ何言ってやがるんだ。色々と誤解があるが、
先ず何より、俺がわざわざお前に断り入れなきゃ
ならない理由は、これっぽっちもないね」
犬も負けずに応戦する。
「だから此処は俺様の縄張りだと言ってるんだ。
その縄張りで人間の下僕であるお前に、
でかい顔されるのは勘弁ならない。
だから難癖を付けている。それが判らないのか!?」
猿が開き直って犬に言う。
「なるほど。承知の上での難癖という訳か。
だったら言わせてもらうが、俺の事を人間の下僕と言う、
お前の方こそ人間の出来損ないみたいなもんじゃないか」
犬は猿に強烈な皮肉で応えた。
「何ー!もう本当に勘弁ならん!」
猿は怒り心頭のようである。
すぐにでも犬と猿の喧嘩が始まりそうであった。
正に一触即発である。
それにしても、人間の間では仲の悪い事を犬猿の仲と
例えたりもするが、それが単なる例えだけでなく、
事実でもあるかのように思える場面であった。