話其の弐/閃光と共にやってきた赤ん坊
お爺さんとお婆さんは自宅へ帰って来ると、
大きな桃をリヤカーごと、庭に運んだ。
そして、二人で地面に桃を下ろした後、
お爺さんはリヤカーを片付ける。
お婆さんは台所へ包丁を取りに行った。
そして、先に包丁を持って庭に戻って来たお婆さんは、
お爺さんが庭に戻って来るのを待っている。
お爺さんが庭に戻って来ると、お爺さんが桃を押さえ、
お婆さんが桃に包丁を入れていく。
大きさが大きさなだけに一筋縄ではいきそうもない。
二人共にそう思っていたのだが、いくらも包丁を
入れないうちに、突然、桃から閃光が放たれる。
お爺さんはたまげて、後ろへ転がった。
お婆さんもたまげて、尻餅をついている。
そして、二人は数瞬の間、目が眩んだ。
視力の回復と共に桃へ視線を向けると、
桃は真ん中からぱっくりと割れていた。
二人はその桃を覗き込んだ。
すると、またまたびっくり。
桃の中で一人の赤ん坊が笑っていた。
「ほんと、おったまげてばかりだわい」
お爺さんは驚きを素直に口にした。
「それにしても、随分と胆の据わった子だねぇ」
お婆さんはこのような状況の中で泣いたりせず、
笑っている赤ん坊に感心したようだ。
「とにかく、ワシらにとってはまたとない贈り物じゃ」
「そうだねぇ。神様にたんとお礼を言わないとならないね」
この老夫婦には子供がいなかった。
そして、お爺さんが赤ん坊を桃の中から取り上げた。
赤ん坊は変わらずに笑っていた。
「可愛らしいのぉ」
「爺さんや、名前はなんにしようかしらねぇ?」
「そうだのぉ、桃から生まれたんだから、
桃太郎でどうだろう?」
「そうだねぇ。アタシは何でも構わないよ。
爺さんが決めておくれ」
「じゃあ、お前は桃太郎じゃ。婆さんにも挨拶せんとな」
そう言うと、お爺さんは桃太郎をお婆さんに渡した。
桃太郎をあやしながらお婆さんが言う。
「本当に全然、泣かない子だねぇ」
桃太郎はずっと笑い続けていた。
「将来は立派な人物になるのかもしれないな」
お爺さんもそんな桃太郎に感心をしたようだ。
「立派かどうかはともかく、元気に育ってくれたら。
アタシはそれで十分だよ」
お婆さんは桃太郎の顔を覗き込みながら、
優しく桃太郎に語りかけた。