話其の拾伍/桃鬼同舟での到着
鬼達と桃太郎達を乗せた舟が鬼ヶ島の船着き場に着く。
島に居た鬼達が数人程、集まって来る。
「あれ?どうしたんだ!?随分と早いじゃないか」
集まって来た鬼の一人が言った。
「誰か菊どんと桜ちゃんを呼んで来てくれないか」
一番体の大きな鬼が舟から降りて言った。
「俺が行って来る」
集まって来た鬼の一人がそう言って、その場を離れる。
そして、次々と舟から鬼が降り、桃太郎達も舟から降りた。
飛んで来た雉も桃太郎の所へ降りて来た。
「誰を連れて来たんだ?」
集まって来ていた鬼の一人が訊いた。
「顔を見てくれよ。
何年か前に行方不明になった菊どんの子供に間違いない」
舟から降りて来た鬼の一人が応えた。
「本当に菊どんにそっくりじゃ。俺達鬼の、
男の子は父親と女の子は母親と生き写しになるからなぁ」
「菊どんの子供に間違いないな」
集まって来ていた鬼達が桃太郎の顔を見ては、
思い思いに言う。
桃太郎はどうしたらいいのか判らずに戸惑うばかり。
そんな桃太郎の様子を見て、
一番体の大きな鬼が桃太郎に声を掛ける。
「今、お前の両親を呼びに行ってるから」
「両親って言われても」
桃太郎は更に戸惑うだけだった。
「そうだよな。お前にとっては。
でも、親の方からしたら大変な喜びになるから、
会ってやっては貰えないだろうか?」
一番体の大きな鬼が桃太郎に伺った。
「それは構いませんが、俺は鬼の皆さんに
お願いしたい事があってやって来たんだけど」
桃太郎が一番体の大きな鬼の伺いに応えると共に、
自らの用件を訴えた。
「解ってるって。後でちゃんと長の所へは連れて行く。
菊どんの子供を無下に追い返す訳にはいかないからな」
一番体の大きな鬼が桃太郎に応えた。
「その菊どんって方が俺の父親なのでしょうか?」
今度は桃太郎が一番体の大きな鬼に訊いた。
「そうだ。菊どんは動物達を守る隊の隊長だ。
だから、お前の友達とは顔見知りかもしれないな」
一番体の大きな鬼が応えた。
「そうなんだ」
そう言って、桃太郎は動物達の顔を見回す。
「あの鬼がそうなのかな!?」
猿が思い出すように呟いた。
犬と雉も声には出さなかったが、思い出しているようだ。
「そう言えば、言い忘れていたけど、
俺は人間を懲らしめる隊の隊長をしている岩だ」
一番体の大きな鬼が桃太郎達に向かって自己紹介をした。
「岩さんですか」
桃太郎が確認をした。
「いや、鬼の世界で男には"さん"ではなく"どん"を付ける。
だから岩どんと呼んでくれ」
岩どんは桃太郎にそう求めた。
「判りました」
桃太郎が応えた。
周囲の鬼達は桃太郎と岩どんのやり取りを見聞きしながら、
思い思いにおしゃべりをしている。
もうすぐ桃太郎の父親だという菊どんが、
此処へとやって来るらしい。
桃太郎は少なからずの期待もあったが、
それ以上に大きな不安に包まれてもいた。