話其の拾/旅は道連れ
峠の途中で桃太郎の帰りを待つ犬と雉。
「ところで君とあの鬼はどういう間柄なの?」
雉が犬に訊いた。
「それは何ともややこしい質問だな」
犬は苦笑しながら、そう応えた。
「ややこしい?」
「さっき猿に説明するのにも苦労したから」
「どういう事?」
「先ず、あの鬼は鬼ヶ島の鬼達を退治しに向かっていた」
「それは本当なのか!?鬼なのに鬼退治?」
「あの鬼は人間に育てられた鬼で、
その人間達の為に鬼退治をするつもりだったらしい」
「あの鬼は人間の味方なのか!?
だったら信用出来ないじゃないか」
「ところが、あの鬼に関しては、そうでもない」
「どういう事?」
「俺もさっき会ったばかりなのだが、俺が人間の非を
問うたら、すぐに鬼退治を思い止まった」
「じゃあ、鬼退治は止めたんだね」
「いや、そういう訳でもない」
「え!?どういう事?」
「あの鬼は退治するかどうかの前に
鬼ヶ島の鬼達と話し合いをしたいと言い出した」
「話し合いなんか出来るの?」
「それはわからないけど、話し合いを望んでいる相手に
こちらが一方的に攻撃する訳にもいかないだろ!?」
「それはそうだね」
「そうしたら、
あの鬼に鬼ヶ島までの道案内を頼まれちゃってね」
「なるほど」
「あの鬼は俺が案内しなくても鬼ヶ島へは
向かうのだろうから、だったら事の顛末を見届ける為にも、
と案内を引き受けた、というところかな」
「それで、話し合いが上手くいかなかったらどうなるの?」
「あの鬼と鬼ヶ島の鬼達とで争いになるんじゃないのかな」
「その時に君はどうするつもりなの?」
「それが難しい」
「何が?」
「先程までは争いになった場合には
鬼ヶ島の鬼達に加勢しようと思っていた」
「今は違うの?」
「先程、あの鬼は君の攻撃から猿を庇ったよね」
「そう言えば、何であんな事したんだろう?」
「本当にそうなんだよ。だって俺とあの鬼は
猿に行く手を邪魔されて、ちょうど争いを始めようと
してた時に、君に先を越された形だったんだ」
「そうだったんだ」
「とにかく猿を庇った理由はわからないが、
あの鬼はいい奴だ」
「君の話を聞く限りはそうだね」
「だから、今は迷っている。争いになったらどうするか」
「ねぇ、俺もついて行っていいかな?
俺も事の顛末を見届けたい」
「いいんじゃないかな。旅は道連れ、とも言うし」
犬と雉はこうして話をしながら桃太郎の帰りを待つ。