3日目 (その2).金城
例の警告がある登山道の入り口に到着するとそこには早朝にもかかわらず一人の男がいた。
無論その男は安価主ではない。安価主は先ほど富士山の頂上にいたばかりなのだ
いくらなんでもすぐに下山できるはずがない。ではこの男は何者かそれは案外簡単に判明する。
「おや?こんな早朝にどうしましたか?お二人さん」
向こうからこちらに声をかけてきたのだ。そりゃあ富士山とは言えこんな季節外れの早朝に来る人は珍しいのかもしれない。
「いえ、ちょっと人を探しがてらドライブをしていましてね。そちらは?」
俺は、当たり障りのない答えを返す。
「おや?もしかして探しているのは安価主という人物ですか?」
男は俺らの目的の人物をあっさりと当てるつまり……
「もしかしてあなたも安価スレの方ですか?」
「ええ、どうやら同じ考えの方のようですね、安価主さんがどんな人か気になり、せっかくの休日だからと富士山まで来たというわけです。あっ!申し遅れました私は金城と申します」
「ああ、どうも俺は山川、こっちは後輩の木本です」
匿名掲示板の住人同士が自己紹介するなどおかしな話だが、ここであったのも何かの縁だ奴が来るまでまだ結構な時間があるのだから話し相手がいれば退屈することもないだろう
「私は金曜の夕方ごろからあの掲示板を見始めたのですが、あなたは、いつ頃あの掲示板を見られたのですか?」
「私が見始めたのは本当に最初の頃ですね、金曜の朝ですその時はまだ住人もほとんどいませんでした」
「おお~同じころから見始めてる人だ~」
木本が楽しそうにそう言う。その光景は売れてない頃からのアイドルのファン同士が互いをたたえ合う姿にかぶって見える気がしないでもない。が、実際には特に大したことではない。いやそもそもたとえ自体もそんなに大したことではないのかもしれない。
そして、少しの間金城との話を楽しんだその時わかった事なのだが俺がヤギ汁と書き込んだ時ハブ酒の案を出したのはこの金城だったらしい。まあ双方安価にはならなかったわけだが(正確には俺のは安価にはならなかったものの安価主によって実現された)
そんな雑談をしているうちに次の安価の内容が決まろうとしていた。