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1話 定

ここまでお読み頂き感謝します。

軽伊 邸努です。

ここからがこの物語の始まりです。


では、ご覧下さい—

第一章   定







2012年8月下旬






 不快だ。実に不快感。

夜中にまわる、今は…、今は何時だ。もうすぐ日付が変わる頃か。公園にわざわざ足を運んだのだ。




予想は的中し、組の坊主らが夜遊びに夢中になっている。公園のそば入り口にある一本の木に隠れ、様子を見る事にした。



薄暗い公園に、何人いるのか数えている。組にそろっていなかったのは、確か、4人だったはず。何度数えても5人いる。稼ぎのない坊主らはご立派にみな煙草を手にしている。



「殺してやる」



ボソッと溜息をつく。

夜中にも関わらず近所に迷惑がかかっているとの警察からの苦情をうけて駆けつけたのだ。おまけに未成年が法律を破り煙草を手にチャラチャラ騒いでいる。自分が言えた義理でもない事だった。



騒がしいと言うより耳障りなのは多分携帯から流れている音楽だ。狭い公園の隣はすぐに人家だからかそれはうるさいと言われるに決まっている。いつもの問題児に身元を調べられ、ヤクザの子供達だと分かった警察は「やめさるように」との一言だった。組内はまたあの問題児らで大騒ぎになっている。あたまを悩ませ、何度も言いつけを破る子供に怒り奮闘している。『暴力で解決してはいけない』とのルールがあり、組員らが何度叱った事か、計り知れない。そのルールを決めた張本人が今まさに、子供らを迎えに来ていた。

不快だった。途端に女の子の声が耳に入ってきた。


「公平くん!やめてよっ!」



どこかで聞き覚えがある声だった。その娘はなにかを抵抗している。



「いいから、ちょっと吸ってみ?」その言葉を聞いただけで何を無理強いしているのかを悟ると、公園の方に歩き出す。

 全身黒いラフなスーツのポケットから煙草を一本取り出そうと火をを付けようするがライターを忘れてしまった事に気がつくと迷いなく遅いテンポで公園に入って行った。


子供らがたまっているベンチに駆け寄ると、子供達がぞっとした目でその男を見つめた。まるで恐ろしいものでも見ているかの様な表情で唾を飲み込む。1人多いと違和感があったのは確かで、先ほど何かに抵抗を見せていた女の子が組の子、一人に腕を掴まれている。頭が見えるとすぐに女の子を掴んでいる手を離す。女の子は子供たちと同じ制服を身に纏っていて、同じ学校だという事がわかった。その女の子、彼女は泣く様子もなくただ子供らしい怒りを露にしている。彼女もまた向かってきた男に視線をやると、他の子らが静まり返った事に驚く。


「今夜からお前ら全員、警察に世話になると良い」


日が暮れた事にも関わらず、黒いサングラスを掛けている赤毛の男性がにっこり笑う。一切の光に反射しなくとも凍り付く視線だけは感じられた。夜遊びをしていた子供たちは一斉に煙草を捨て踏みつける。まさか、組と会社を率いる頭が来るとは思わなかったのか、それともこの人が指示を出せば本当に警察に突き出されると思ったのか言葉も出せずにいる。1人としてむの字も発する様子を見られない。頭はこの中で一番年上の高校3年にもなる菊池公平だけを見ている。公平は彼女の腕を掴み煙草を進めていた子だった。組の中でも1位を争う悪ガキだと噂されているが、真の強い子供である事から、将来は公平に期待を抱いている。さぞしも期待を持っているのは今日この晩迎えにきている頭のみで、組員には好かれていない。

真も強ければ、自我も強く、ひたすら頭を睨んでいる。誰だろうと公平には構わなかった。




「何が言いたいんですっ一希さん」


やはりこの中での、ボスは俺だと言わんばかりに堂々と言葉を返した。

怖いのか恐れ多いのか、公平は大量の汗の雫をたらしはじめる。頭はまた笑顔を浮かべた。

(こういう子供が必要なんだ)

とサングラスの中の瞳を開き、光る視線を皆に向ける。


「私の言っている事が分からないのか」

サングラスの男は厳しい口調で言うと、再び公平に首を向ける。これはもはや疑問形ではなく叱り気味に口にする。

組の子の中、4人のうち1人が声を上げた。




「一希さんっ!ごめんなさいっ!今すぐ帰りますんでおれたち!」



1人声を発したと同時に、皆急ぎながら帰宅の準備を始めた。

公園に広ばり散らかっていたお菓子のゴミや、今が時期の花火を楽しんだのだろうその残骸を慌てて片付け始める。


公平は舌を鳴らし、自分なりの威嚇を現したと思えば、さっきまで腕を引っ張り無理強いをしようとしていた彼女に、なにやらコソコソと話していた。サングラス越しに映る彼女はよく見えなかった。


サングラスは関係ない。視力がいいはずが、顔がぼやけて見えてしまう。公平は馴れ馴れしく彼女の髪をなでている。長い黒髪を耳に掛けてあげている様子を伺う。邪魔がなくなった耳に公平の口が近づくと、彼女もよそよそしく下を向きながら、公平の返事に頷きながら答えていた。サングラスから見る景色は薄暗いに違いなかったが、その二人だけ、やけに暗く見えた。餓鬼の後始末を手伝う気にもなれず、なんとなくポケットに手を突っ込む。すると先ほど無くしたと思っていたライターが指先に触れる。瞳の先の風景は見る度に呆れさせられ、この多忙な男を苛つかせる。

いつの間にか煙草を手に、煙を吐いていた。一本吸い終わる頃には子供たちも片付けが終ったらしく、一希の前にぞろぞろと集まる。一希は引き攣る笑いを見せた。




「なんだよ…」



反抗の眼で睨みつける子供らに、見せつける様に最後の煙を吸う。



「一希さんずるい!人には怒るのに…」





次の呼吸で吐く予定だった煙が、笑い崩れる身体の衝撃で消えてゆく。同時に1人が怒鳴った。

「ここ笑う所じゃないですよ!」



サングラスをかけたままの喜怒哀楽が見えない男がいきなり噴き出す勢いで破笑する。これほど可笑しい事はなかった。この子達は自分らが未成年だと言う事を理解した上でこの事を口にしているのか。奇麗に並んだ歯列を見せながら、崩れる事のない透き通った声で爆笑っている。子供たちは悔しそうな表情をまげなかった。ゴミや水が入ったバケツやら、分担し、重い荷物を持っている前で、実に美味しそうに煙草を吸っている男が腹立たしかったのかもしれないが、男には微塵も関係がなかった。






「おまえらを相手にする気も起きない。帰れ」





愚痴をこぼしながらだらだらと歩き出す子供達につれサングラスの男は監視するように最後の1人が過ぎるまで今いる場から動こうとしない。

不満そうな顔をしかめ遅い動作で4人が公園を後にした。










 


「えっ……?」





ノドカの前に赤毛のとても美しい男が立ちはだかった。





その男はその場所から一歩も動かずに腕だけがノドカの目前の道に塞ぐ。













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