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間話(1)

 時は少し遡る。

 どことも知れない場所に存在する、雷雲に覆われた岩山。その頂上に聳え立つ機械仕掛けの古城内で、一人の男が声を荒げた。

「うぬぬ……どういうことだ!? なんなのだあいつは!?」

 個室程度の広さのモニタールームに怒号が響き渡る。奥の大画面に映し出された映像を、一人パイプ椅子に腰かけた大男が苦虫を噛み潰した表情で眺めている。左目に傷がある強面で、髪は鬣のように逆立ち、肉体は屈強な戦士を思わせるほど筋肉質で引き締まっている。

 モニターにはどこかの寂れた公園と、そこで会話をしている四人の男女が映っている。

「せっかく憎き東條健を異世界へ追放したというのに、なぜ妙な奴が出てくるのだ!? しかも同じ現象をまた起こそうとしているだと? おのれええええええ、ふざけおってがぁぁぁぁぁ!」

 怒りのあまりテーブルを殴って罅を入れる大男に、「ミジメだな……」と、背後から失笑が零れた。

「今の今まであれほど自信満々だったのに、急に血相変えてどうしたのかな? ミスター・レオ」

 くつくつと皮肉げに笑うは、顔に包帯を巻いて異常なほど厚着をした男だった。

「スタートはよかったが、やはり思惑通りにはいかないらしい」

「……なにをしに来たのです?」

 振り返った大男――ミスター・レオを包帯男が冷え切った目で見下す。

「どうやら東條健を異世界に追いやって終了、という簡単な話にはなりそうにないが。レオ、本当にサポートは不要だったかな?」

「私を嘲笑いに来たのですか?」

「それもあるが、私は君の為を思って手伝ってやろうかと言っているんだ。腐っても元幹部、同僚じゃないか。手を取り合ってもいいだろう? あ、君は誰の手も借りないんだったな。失敬、失敬……」

「……そんなに言うなら自分で行ってみろ……ッ」

 奥歯を噛み締め、必死に怒りを抑え込んで唸るミスター・レオ。するとそこに――

「やめておけ」

 と新たに黒装束の男が部屋に入ってきた。

「「社長!?」」

 驚愕する二人に、社長と呼ばれた黒装束の男は厳しく鋭い視線を突き刺す。

「ミスター・レオは先程『そんなものは必要ない』と啖呵を切ったんだ。ここで泣きつくなど、元幹部としてありえないとは思わないか?」

 言われ、ミスター・レオはまたもぎりっと歯噛みした。

 だがすぐ気を取り直して、言う。

「当然、この程度のハプニングで私の計画は崩れたりなどしません。奴らの会話を聞く限り、あの現象は『入れ替わり』を起こすもの。だとすれば入れ替わったあの異世界人の小僧を始末すればよいだけの話だ」

「そうか。では、そいつもお前が一人で始末するんだな?」

 黒装束の男の問いに、ミスター・レオは鷹揚に頷く。

「なに、東條健に比べれば大したことはないでしょう。問題はありません」

 ミスター・レオはモニターの映像を切り、一礼して部屋を立ち去った。

「俺の計画は完璧だ。狂いなどない」

 最後に呟いた彼の言葉は、誰にも聞かれることはなかった。


        ※ ※ ※


「さて、どう転ぶかな……」

 レオが去った後に部屋を出た黒装束の男性は、廊下を歩きながら懐からサングラスを取り出してかける。一般的な真っ黒いものではなく、琥珀色のものだ。

「本当に今回の作戦を彼に一任してしまってよかったんですか?」

 黒装束の男の斜め後ろにくっつくようにして歩く包帯男がそう問うた。

「別に構わないだろう? 彼は自分の力でやると言ったんだ。やれるところまでやらせてみてもいいんじゃないか?」

「しかしですね……」

「敵を恐れていては何も始まらないぞ」

 包帯の男が口を塞ぐ。と、そこにメガネをかけた秘書風の女性も混ざり、トリオになった。

「社長、レオさんがもし失敗すれば例のアレを渡すおつもりでしょうか?」

「いや、彼はそれをもう持っているはずだが……」

「え?」

 やや心配げに眉を顰める秘書風の女性。

「……どうせ奴は散る運命だ。気にしていても仕方ないだろう? わかったら持ち場につけ」

 サングラスのブリッジを持ち上げて、黒装束の男は二人の部下に呼びかける。

「さて、俺はこれから大事な取り引きがあるんでね。しばらくの間席を外す。戻るのは、早くて明日になるだろう」

「承知しました」

「もし何か起こったら、すぐに報告しろ」

 包帯の男と秘書風の女性が首を縦に振る。二人に仕事の話をした後、黒装束の男はその場から去っていった。

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