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第10話 手掛かり

 異世界に帰る方法についての情報収集。

 と言ってもなにを訊けばいいのかさっぱりわからないわけで、俺たちはたこ焼きを売りながら客とテキトーな世間話を繰り返していた。


「お隣の山下さんとこ、オメデタなんやってー」

 と教えてくれたおばさん。お隣の山下さんって誰やねん。

「ううぅ、今日も鬼上司に叱られたんだ。僕のせいじゃないのにぃ」

 と落胆した表情で呟くサラリーマン。愚痴なら余所で零してください。

「おい兄ちゃん、これ入っとるタコ小さいんちゃうか? あぁ? こら代金返してもらわなあかんなぁ」

 といちゃもんつけてくる強面の不良。あとでシメる。

「でさぁ、その時ドルフィンがオルカの野郎をワンパンでぶちのめしてさぁ。かっこよかったんだよなー!!」

 となにやら体験談らしきものを熱く語る青年。最早なに言っているのかわからない。


「ダメだ。全っ然それらしい情報が集まらない!」

 完売するまで粘ってみたが、やはりそう上手くはいかなかった。

「そらそうやろうな。わしも異世界がどうこうっちゅう話、リアルで聞いたんは兄ちゃんの件が初めてやし」

 屋台の片づけをしながら市村が言う。こうなるとあのライオン野郎をぶちのめして聞き出す以外に方法はないのかもしれない。あー、あととばりさんが例の水晶を解明してくれるとか。

「ところで兄ちゃん、意外とたこ焼き焼く手際よかったやん。まあわしと比べたらまだまだやけど……どないや? 異世界に帰らんとわしの店で働かへんか? 今なら給料弾みまっせ~」

「ハハハ、それはできない相談だ。俺は自分の世界で待ってなきゃならないやつがいるんだ。だから、いつまでもこっちの世界にはいられない」

 それに俺の帰りを待ってるやつだっている……よな? いる、はず。いる、と思う。いたらいいなぁ。

 心の奥で段々と不安になっていく俺を、市村はなにを勘違いしたのかニヨニヨした笑みで見ていた。

「ほほ~う? 待ってるやつっちゅうんはつまり、コレか?」

 右手の小指だけを立ててみせる市村。

「ぶっ!? ち、ちげーよそんなんじゃねーよただの幼馴染だ!?」

「へへへ。ほーかほーか、幼馴染か。よーわかった」

「な、なんだすんなりわかってくれたな」

「フラグだけ立っとるっちゅうことやな。まあ、頑張りや」

「全然わかってなかった!?」

 この野郎、ニヨニヨしやがって……。

 なにか、なにかやつに仕返しできるネタはないか? あるなら至急俺宛にお便りください!

「よっしゃ、こんなもんでええやろ」

 片づけを終えた市村はぐっと背伸びをし、

「おい兄ちゃん、そないな隅っこの方でなにしてんねん? 行くで?」

 呆れた表情で俺にそう言った。

「行くって?」

「こっからが情報収集の本番や。一般ピーポーに聞き込みしたってなんかわかるわけあらへんやろ? せやから知り合いのエスパー連中に片っ端から聞いて回るんや」

 エスパーに? そういえば市村はこの大阪付近がホームグラウンドのエスパーだとか言ってたな。ナニワのなんちゃらって。

「シェイド戦然り、常日頃と異常を相手しとるアブノーマルなやつらや。なんかわかるかもしれへんで」

 俺をこの世界に招いたのはシェイドだ。そのシェイドと戦っている連中ならなるほど、それらしい情報を持ってるかもしれん。

 だが――

「だったら最初からそうしろよ!」

「えらいすんませーん!」

 俺は無駄にたこ焼き焼かされてたってことになる。


        ※ ※ ※


「異世界に行く方法? ぷっ、なんやねんいきなりそないな突拍子もない話……いや待て、そういえば」

「なにか知ってるのか?」

 大阪在住のエスパーさんたちに聞き込みを開始して四件目、ついに手応えがあった。

「あー、いや、異世界に行く方法とはちゃうんやけどな」

「なんでもいい。教えてくれ」

 そこから帰る糸口が見つかるかもしれないしな。

 伊東英機いとうひできと名乗ったエスパーの青年は記憶を探るように顎に手をやる。

「二ヶ月ほど前やったかなぁ、京都の山奥でシェイドと戦った後のことや。突然隕石でも降ってきたようなドッカーン! っちゅう音がしてな、そこへ行ってみると奇妙なもんがあってん」

「奇妙なもの?」

「せや、ゲームとかで出てきそうなこう、ファンタジー的な機械っぽいなんちゅうの? ……口ではよう説明できひんわ。写メ撮っとるさかい。ちょい待っとき」

 わしゃわしゃと頭を掻いた伊東さんが携帯を操作して俺に見せる。山奥らしい景色をバックに、それは確かに写っていた。

「これは……」

 ファンタジック且つ機械的なフォルムをした鳥居のような建造物。RPGとかに出てくる古代文明の遺跡の一部を再現しましたと言われれば信じてしまいそうなそれを、俺は見たことがあった。

「人工の『次元の門プレナーゲート』か!?」

 俺が前に見た物に比べて少しデザインが違っているが、間違いない。これは俺の世界――かどうかまでは判定できないが――にあった物と同じ人工的に世界間を繋げることのできる装置だ。「こいつなに言うとるん?」「すまんな。こいつ中二病患者でな、症状がちょっと重いみたいなんよ」やかましいぞそこの二人!

「伊東、わしにも見せろや!」

 市村に携帯をふんだくられたが、もうしっかり目に焼きつけたから構わない。なんでこの世界に人工門があるんだ?

「昔この辺に神社でもあったんちゃうんか?」

 訝しげに市村は眉を顰める。

「この世界には機械の鳥居があるのか?」

「んなもんあるわけないやろ。お前はアホか」

 ならテキトーなこと言わないでほしい。

「これ、近くまで行ったんだよな? 動いたりしなかったのか?」

「ちょっと触ってみたけどな~~~~んにも変化なかったわ。ただ先客がいたくらいで」

「先客?」

「坊さんちゅうか、風来坊ちゅうか、渡世人ちゅうの? そんなんみたいな怪しいやつやったけど普通の人間やったと思う。少なくともシェイドやあらへん」

 風来坊っぽい怪しいやつ、か。関係ないと思うが、一応気に留めておこう。

「これがあった詳しい場所と行き方を教えてくれないか?」

「ええけど、もうなくなってるで? 先週も行ってみたんやけど影も形も残ってへんかったし。たぶん誰かに回収されたんやと思うわ」

「そうなのか?」

 なんか当たり前のように喋ってるけど、この人なんの用事があってそんな山奥まで頻繁に足運んでるんだろう? 趣味なのかな?

 ていうかそれより、人工門が消えてただと?

 あんな巨大な物体、車も入れないような山奥で普通の人間があっさり回収できるとは思えん。できたとしてもニュースになるだろうから、たこ焼き売りながらやった世間話の話題に上るはずだ。

 誰かが隠してるんだ。あのライオン野郎か? それともその風来坊が?

 なんにしても行ってみる価値はありそうだ。

「市村さん、俺、京都に戻ろうと思う」

 情報を提供してくれた伊東さんに礼を言って立ち去ってから、俺は市村にそう提案した。

「もうええんか? わしの知り合いはもうちょいおるで?」

「空振りだった時にまた頼むよ」

「せやったらわしが代わりに聞いといたる。元々わし一人で情報収集するつもりやったしのぉ」

 ドンと自分の胸に軽く拳を打ちつける市村。この人は振る舞いこそ軽薄だけど、かなり頼りになるな。不破さんとはまた違った兄貴って感じだ。

「とりあえずは、とばりさんちに顔を出して……あっ」

「どないしたんや?」

 立ち止まった俺を市村が怪訝そうに見る。携帯は使えるからなんとかなるだろうけど、それより知ってる人に聞いた方が早いな。

「市村さん」

 俺は務めて真摯な態度で市村を振り返り、


「大阪駅まで、案内してください」

「お、おう……」


 プライドをかなぐり捨てて深々と頭を下げた。今は異世界で迷ってる場合じゃないんだよ。


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