疑義の正体を穿つ
果たして、奈落は即答した。
◇
内心で、ラナは奈落の洞察力に舌を巻いていた。
その一言一句は、聞けば確かに納得出来る。
起こった事実と起こらなかった事実とを総合して、状況に裏打ちされた真実を掘り起こしていく。
自分には到達できなかった真実に、彼は着実に近づきつつある。
それに、ルダにまだ意志が残されているという事実も、大きな励みだった。
魔法の直撃によってラナ自身は見ていないが、ルダは涙を流していた――傷ついた自分のために。
奈落は言葉を続ける。
刻限が五時間であるというラナの見解を、覆そうと。
「支配が不完全である以上、ルダには僅かでも抵抗の意志が残ってる。なら、その反抗の意志はどうすれば最大限の効果を発揮するか」
「召喚呪文の詠唱を遅らせる……ッ!!」
思わず、ラナは身を乗り出して答えていた。
彼女の双肩に置かれていた手が離れ、シルヴィアは一歩、後ろに下がった。
奈落はラナの回答に満足げな笑みを浮かべ、ご名答、と短く賛辞を贈る。
「改めて問うぜ、ラナ。ルダが詠唱にもたついているなら、刻限はあと何時間後だ」
「ルードラントの支配がどの程度なのかにもよりますけど――」
僅かとはいえ膨らんだ希望に、ラナは胸を高鳴らせた。
いまも絶望の渦に翻弄され、息も継げずに苦しみ喘いでいる。
その事実は変わらない。
だが、水面に見えていた希望の光が、ほんの僅かとはいえ大きくなったのだ。
それは水底へ誘い込む渦からの、脱出への第一歩だった。
「少なく見積もっても――あと十時間は大丈夫だと思います!」
笑みの差したラナの表情は、しかし次の刹那に色を失う。
「さて、そういうわけだ。
これから俺らはお前のアジトを探り当てて――壊す。
十時間以内にな。
方針も固まったし、もういいんじゃねえか?
――なあ、裏切り者?」




