幕
「ddjjjjjjjjjggggggg!!」
人の口では成し得ぬ、超高速での詠唱に応え、使い魔が顕現する。
土竜のようなそれは大口を開け、頭上の瓦礫をあっさりと呑みつくした。
ラナが埃を払うように手を振ると、それに合わせて使い魔は姿を消した。
ぱらぱらと落ちて来る砂礫の音を除いて、周囲には水を打ったような静寂が満ちていた。
奈落達は一様に、目を丸くしてこちらを凝視している。
もう、後戻りは出来ない。
だから全てを――話そう。
◇
「――ほっけけええええッ!!」
静寂の均衡を破ったのは、二階から転げ落ちるようにして現われた梟の大喝だった。
奈落はその悲鳴じみた声で我に返った。
なぜか梟は息も絶え絶えで、満身創痍の体だったが、いまはそんな些事に傾注する余裕はない。
ラナがどうやら使い魔を召喚したらしい事についても、この場で言及するわけにはいかない。
まず真っ先に行うべきは、全員でこの場から撤退する事だ。
奈落は素早くロビー全体に目を配り、敵の位置を確認し――右手を大きく掲げた。
「茂みの霊の片足!」
三拍子よりも詠唱を短縮したのは、威力よりも即効性を求めたからだ。
奈落の召喚した不可視の使い魔は、ロビー全体に広がる無数の手足でルードラントの刺客を上段から押さえつけた。
それだけ巨大な使い魔であり、彼らからしてみれば、突然重力が増したように感じるだろう。
「シルヴィア!」
その頃には、全員が冷静を取り戻していた。
掛け声に応じ、シルヴィアはラナの手を引いてこちらへと走り寄ってくる。
奈落はパズとヒセツにも目を向け、短く叫んだ。
「脱出だッ!」
次回より第四章。
嘘の供述が発覚したラナの正体とは。
暗躍するトキナスの正体とは。
そして――ようやく明かされるルードラントの目的に、
奈落は驚愕し、怒りの声を上げる。




