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その意志を覚悟と呼ぶ





「つまり――――――――私も一緒についていくわ!!」

「はあッ!?」


打てば鳴るような勢いでそう返す奈落は、目を白黒させていた。

突然来訪したかと思えば意味のわからない事をまくし立て、

挙句、彼女は正気を疑うような台詞を吐いた。

非合法の壊し屋に刑罰執行軍が同行するなど、未曾有の事件だ。

そもそも彼女の中でどう論理が展開したのか、見当もつかなかった。


が、冗談を言っているようにも見えない。

奈落の困惑など知った事かとばかりに、ヒセツは早口に続けた。

まるで、そうしなければ言葉が霧散してしまうとでもいうように。


「考えたけれど、それしか方法がないのよ。私が求めてるのは言葉ではなく実感だか。

真実と向かい合う実感を得たいのよ。

だからいま模範解答をもらっても、それは納得に至るものじゃない。

行動を共にして、私は私の望むかたちで私の納得を得るのよ」


「さっきからべらべら喋ってるが、テメエの納得なんざ知らねえよ。

悪いが、俺にはお前と行動するつもりは毛頭ない」


刑軍と行動を共にするなど、いつ寝首をかかれるかわかったものではなかった。

だがその態度は彼女の予測の範疇だったのだろう、ヒセツは怯む事なく続けた。


「そう言われると思って、考えてきたわ。交換条件ってやつよ。私はアンタと行動する限り、壊し屋・奈落の罪を不問とする。加えて、最大限の協力を惜しまない」

「俺が簡単に、それを信じるとでも?」

「一昨日アンタが言ったんでしょうが。刑罰執行軍之心得第九条之三項」

「成程」


奈落は規約を心中に浮かべる――

刑罰執行軍に所属する者は虚言を弄してはならない。

ヒセツが刑軍の規約に拘泥している事は、最初の襲撃の際に明白になっている。

彼女の言には嘘偽りもなければ、誇示もないのだろう。

吟味する奈落を後押しするように、ヒセツはまくし立てる。


「アンタがルードラントに関わってるって事は、薄々気付いてる。昨夜の様子を見てると、壊し屋・奈落はルードラントの破壊を目標にしてるみたいだった。――違う?」

「――なかなか聡明だな」


探りを入れるヒセツに、奈落は肯定の意志を見せる。

ヒセツの表情がわずかに驚きのそれへと変わったところを見ると、当てずっぽうだったのだろうか。


「それなら――それでも、私は協力するわ。ルードラントの破壊を。刑罰執行軍としても、昨日のような狼藉を見過ごすわけにいかないもの」


再考してみれば、ヒセツの申し出は決して横柄ではない。

むしろこちらに有利な条件だとさえ思える。

彼女は「最大限の協力」に対して、「自らの納得」以外に報奨を要求していない。

彼女の実力は刃を交えた奈落自身が保証するし、上手く利用できれば体のいい戦闘要員に徹してくれるのではないか。

パズに目配せすると、彼は肩をすくめた。


「ふむ……」


不確定要素は多い。

こちらの身を狙う刑罰執行軍を信用するなど、それこそ正気の沙汰ではない。


だが、それでも彼女の眼は、信じろと訴えてくるのだ。


子供だな、と奈落は思う――知識を得ようと、初めて問いを放つその姿を見て。

疑問に対して、容易く真摯になれるその姿を見て。

自然と、奈落は眼を細める。

まるで眩い光を向けられたかのように。

そして細められた眼の先に、彼女は立っている。

成程、と思った。

それで十全なのだ。


「――いい働きを期待してるぜ」





ヒセツは得る――誤解に埋められた真実の一端を掘り当てた、その手応えを。

その感触は心地よいもので、彼女は笑顔を浮かべ、しかし鋭く叫びを返した。

未だそのほとんどを罪の底に隠された、やがて曙光浴びるべき真実の全容へ。



「当然でしょ!」



叫びは届き、そうして、対立は同盟となる。




彼らは同じ道を辿り行く、各々の目的――


真実に救いを、真実に破壊を与えるために。





次回より第三章です。

後手後手だった奈落達が、先手を打たんと奔走を始めます。



続きを気にしてくれる方、偶然ここに辿りついた方、

いらっしゃいましたら、評価いただけましたら幸いです。

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