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強さと弱さ

非合法の壊し屋・奈落。

彼はルードラント製薬会社の破壊と、双子の娘の救出を、

依頼人・トキナスより請け負う。


ルードラント製薬会社が不可解な炎上を迎えてから一日。

夜。奈落はラナを狙う男と対峙する。


疲弊したヒセツ、重傷を負ったラナを背に守り、

奈落は男との攻防を開始する――。



「我、御するは原典より在るもの――対象を貫け光刃」

「守衛の化身、守護の現出、護法の立法」


奈落は男の魔術に応じ、守護魔術を詠唱し、盾の使い魔を召喚する。

光と盾、両者が激突した。


轟音が爆ぜ、大気が震える。


びりびりと震撼する中、程なくして攻防に決着が訪れる。

大気が安寧を取り戻す頃、光は闇に溶けるようにして霧散し、盾だけが残っていた。


「我、御するは原典より在るもの――希求された光渦!」

「競り合う児戯、阿吽、左右の断罪」


「我、御するは原典より在るもの――天上落下の牙!」

「闇の奔流、黒の夜明け、暁と曙光に嫌われし彩り!」


「我、御するは原典より在るもの――破綻した芸術の末路をッ!!」

「刹那の雷同、果てなき付和、折れ得ぬ矛!」


繰り出される幾重もの魔術と魔法の攻防。

夜の色を跳ね返す光の刃の重なり合いが続く。

男の放つ魔法を奈落が迎撃していく。


拮抗する力の衝突は、相殺という形で収束していく。


やがて、攻撃が奈落に届かない事を認めたか、

男は詠唱の口を閉ざした。


「やるじゃねーか……」

「俺に勝とうなんざ十年早えな」


つまらなそうに、奈落。


「その差も不満だが、ここまでみてーだな。野次馬の数がやべー事になってる」


彼の言の通り、ヒセツの狼煙に気付いた住民が、続々と集結していた。

公園を囲むように集まった人の気配は、少なくとも五十を数えるだろう。

非合法の壊し屋と、ルードラント製薬会社の人間。

その両者ともが、人目に触れる事を好まなかった。


「だな。ばいちゃ。ルダは置いてけよ?」

「それは出来ねー相談だなぁ」


ならぶっ壊す――そう言葉を続けるはずだった口は突如として――

緊張に引き結ばれた。


既視感にも似た感覚。


禍々しい気配が魔手となって奈落を抱いた。


ゾクッ……と、電撃のごとき悪寒が全身に走りぬける。


半ば強迫観念に支配されるかのように、瞠目する瞳で、素早く人込みに視線を投げた。

何ら根拠はない、ただの直感である。

が、奈落は経験で培った己の勘に身を委ねたのだ。


果たしてそこに、隻腕の英雄は立っていた。


先日、壊し損ねた対象が、十年来の仇敵が、再び奈落の前に現れた。

その事実は、奈落に理性を失わせる。

ラナもルードラントもヒセツも仕事もかなぐり捨てて、思考が怨恨に占拠される。

闇に呑まれるようにして、周囲のその他一切が消失した。


「カルキ・ユーリッツァ……」


そしてそこに隙が生じる。

口の端を吊り上げたのは、ルダを脇に抱えた男。

素早く早口に、魔法を詠唱した。

奈落の眼前で、しかし気付かれる事すらなく。


「我、御するは原典より在るもの――閃光を!」


弾けた光は全てを包む。





閃光の白に埋め尽くされた視界の中、ヒセツは思う。


――どうしようもない、と。


圧倒的な力を持った奈落をその眼にしながら、彼女の感想はその一語に尽きた。

閃光が弾ける寸前、奈落は何かの気配を感じ取り、忘我に陥った。

それが状況を一転させた。

その気配を、ヒセツも確かに感じてはいた。


だがそれは、恐怖を感じるほどのものではなかったはずだ。


気配の主が強大な力を持っていたであろう事は察しがつく。

それほどの濃密な気配だった。

だが束縛し、支配するほど、禍々しいものだっただろうか。


だからヒセツは思う。



――ああ、この人は、どうしようもなく弱いのだ、と。





次回より三章――ではなく、

転章を挟みます。


正義は権利の中にしかなく、権利は正義の中にない――。



続きを気にしてくれる方、偶然ここに辿りついた方、

いらっしゃいましたら、評価いただけましたら幸いです。

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