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帰路と報告

非合法の壊し屋・奈落。

彼はルードラント製薬会社の破壊を、依頼人・トキナスより請け負う。


謎の失踪を遂げたルードラントの足取りを掴むべく、

奈落と情報屋・パズは火災跡を訪れる。


そこで床一面に描かれた何万もの文字群――魔紋陣を発見するが、

その真意を掴めぬまま、調査は中断を余儀なくされる。



一方、火中から救われて以来昏倒を続けていた少女、ラナが、

唐突に意識を取り戻した――。



日は地平線に沈みかけ、街並みを赤く染めていた。

そろそろ商人も、早いところでは店を閉め始めるだろう。

それぞれの住居では夕食の準備に取りかかり、出勤した家主もやがて玄関の戸を叩く。


午後六時を、三十二分過ぎていた。


沈黙を余儀なくされた奈落とパズ、そして梟は、火災現場を後にし、帰路についていた。

ルードラント製薬会社を囲んでいた壁は、今も尚そびえている。

守るものもなく。


その城壁に沿いながら、先行するのは饒舌なる梟であった。


「ほほほけ。使い魔を使い魔と一括りにするのは業腹でな。動物を動物と、植物を植物と呼称するのと同じだろォ、のォ」


パズは彼の言にしきりに相槌を打っていた。

職業病なのだろう、情報屋である彼は知識の吸収に熱心だった。


「魔術にも種類が?」

「ほけ。人間どもは我々を八つに大別しておる。魔法と同様に破壊のための決壊魔術、使い魔自身が武具となる具象魔術、読んで字の如く治癒魔術と守護魔術、この四つがポピュラーでな。あとは対象者に感応するタイプの干渉魔術、それから滅多に見られるものではないが召喚魔術と還幻魔術と呼ばれるものがある」

「召喚魔術? どれも召喚魔術じゃないの?」


問われ、羽ばたきながら梟は首をぐりんぐりんと奇妙に回す。


「ほっけけ。視点が違うな賢くも愚かなる小童。召喚魔術は、使い魔自らが召喚を行う魔術でな。

ちなみに還幻魔術は、魔術師が最も恐れる魔術である。のォ、奈落?」


問いの矛先を向けられ、奈落は面倒そうに頷いた。


「魔術には召喚呪文の他に、契約呪文ってのがあってな。使い魔と主従の契約を結ぶのに必要な呪文なんだが、こいつが他人に知られると厄介でな」

「厄介?」

「契約呪文は、同時に解約呪文でもあるんだよ。つまり契約後に誰かがもう一度詠唱すると、使い魔との契約が切れちまう。ンで、その解約呪文を強制的に発動させちまうのが還幻魔術って事だ。俺も見た事ねえけどな」


奈落の言を受けて、パズは眼を細めてくっくっとおかしそうに笑みを浮かべる。


「もしそんなのに出逢ったら、奈落さんは魔術師でなくなり、そうなると壊し屋も続けられなくなり、ただの可哀想な人に――」

「やかましい」


と奈落が応えると同時、パズは宙を一回転して豪快に転倒した。

奈落が片足をパズの足に引っ掛け、その足を跳ね上げたのだ。


「いったぁー……っ」


唐突な攻撃に受け身も取れなかった。

派手にぶつけた尻をさすりながら、パズは全身をいたわるようにゆっくりと起き上がる。


「本当に容赦ないね、奈落さんは」

「お前の口ほどじゃねえよ」


と、奈落。

彼はパズを置いてさっさと先行し、背を向けたままだった。

代わるようにして側に寄ってきたのは梟だった。


「ほけけ」


と鳴きながら、鳥類にしては太い二足を用いて、パズの足元から見上げてきた。


「ほけ。外傷はなさそうじゃのォ、口の過ぎるケルトの眷族」

「ん、ああ大丈夫」


パズは苦笑しながら答えた。

実際、痛みはあるが、外傷というほど大袈裟なものでもなかった。


「それより、魔術のうち残り一つは?」


尋ねると、梟は大仰に感心の声を上げた。


「ほっ! 負傷してなお知識を希求するか貪欲なる小童。お主は、いずれその小さき体躯に知識の蔵を築き上げるであろう、この老いぼれのように。ほっけけけ!」

「うん。で?」


取り合う事なく、パズは先を促す。


「ほけ。ツンツン小童にも言える事だが、お主らもう少し対話を楽しむべきだろう、のォ? まあ良い。魔術の話だが、答えはつまらぬぞ。残る一つは総合魔術でな。つまり、七つに分類できない、その他の魔術であるでな」

「その他って、ほとんどやっつけじゃないか……」


肩すかしをくらった気分で、パズは梟を眼下に睨む。

もちろん、彼を責めたところでお門違いなのはわかっていたが。

ほうほうほう、と梟は不器用にさえずった。



壁沿いに歩く事五分、二人と一匹は奈落邸に帰り着いた。


奈落はいつものように玄関の扉に手をかけ――なかった。


彼は気配を捉える。


活動する者の気配はシルヴィア含め二つ。

奈落は小さな眠り姫の事を脳裏に描きながら、今度は玄関の扉を開けた。

家主の帰宅を察知していたらしい、視線の先ではシルヴィアが玄関に三つ指をついていた。

彼女は無表情に、どこを見据えるでもなく浅く頭を垂れる。


「おかえりなさいませ奈落様。おや、パズ様とトリビア・ジジイも一緒なのですね」

「ほけけけ! 誰がジジイか、愚かなる鉄面皮」


ばさばさと翼をはためかせて、梟が反論する。

奈落は辟易して半眼となる。

そういえば昔からこの二人の仲は、まさに犬と猿のそれだった。

シルヴィアは埃を払うように手を振って、梟を牽制する。

梟が離れるとのを確認すると、何事もなかったかのように立ち上がり、踵を返した。

奈落がブーツを脱ぐと、シルヴィアが肩越しに振り向く。


「ご報告があります」


起伏のない平坦な声。だが奈落は、常とは違う響きを鋭く感じ取った。


「ああ、外で何となく気付いた。――起きたのか」

「ええ。いまは寝室にいらっしゃいます」

「そいつァ僥倖だ。聞く事が山ほどあるからな」


彼女はトキナスとルードラント、両者に関わっていた可能性が高い。

八方塞を打開するのに、彼女の情報は強力なカードとなるに違いなかった。


「ええ。彼女は有力な情報提供者となるでしょう。そして私は問いましょう。

尋問にする? 拷問にする?

それとも――わ・た・し?」


無視した。

足早に寝室へ向かおうとする奈落に、シルヴィアは静かに語り続ける。



「奈落様は放置プレイがお好みの様子。そうであるならば小さな声で、こそこそと」



次の彼女の言葉に、奈落はその意志に反して、足を止めざるを得なかった。




「実を申しますと、ご帰宅前、ラナ様には私がいくつかを問うておきました。

そしてそれらに対する回答は驚いた事に全て同様――

何も覚えていない、との事でした」




「――――――――何だと?」






次回、奈落はロリコンに目覚めるのか……!?

ではなく。

次回、奈落とラナは言葉を交わし、その先に何を見出すのか。



続きを気にしてくれる方、偶然ここに辿りついた方、

いらっしゃいましたら、評価いただけましたら幸いです。

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