月を見上げなくても
初投稿です!
sideA
「好意をさ、好き以外で伝えるとしたらどうする?」
また始まった、と思った。目の前にいる幼なじみはたまに変なことを言い出す。
「それって月が綺麗ですね的なやつ?」
僕の言う言葉に満足そうに頷いて、答えを待っている。キラキラとした瞳で見つめているが、生憎僕は漱石ではない。急に言われても困るのだ。うんうんと頭を悩ませていると、幼なじみは雪見だいふくのパッケージを開けてモチモチとした塊を美味しそうに頬張っていた。
「うーん、君になら雪見だいふくを一個あげてもいい、とか……?」
脳みそから捻り出した答えを口にすると同時に、幼なじみからはブフォっという爆発音のような音が聞こえてきた。
「だ、ダッサ!さすがにダサいわ!」
ひーひーと腹を抱えて転げ回る幼なじみに腹が立つ。
「じゃあ佳子ならなんて言うんだよ」
「そりゃあ、イチゴのショートケーキのてっぺんのイチゴをあなたにならあげてもいいよ♡でしょ」
大概だ。たしかに僕もダサいという自覚があったが、幼なじみも大概である。
「ダッサ」
思わず口から転がり出た言葉に「雪見だいふくよりはマシだわ」とむくれている。
恋は盲目とはよく言うもので、そのむくれた顔すら愛おしいと思う僕はおかしいだろうか。
「ねえ」
僕の声に目だけこちらを向いた。
「今度いちごショート食べるとき、てっぺんのイチゴあげてもいいよ」
幼なじみの顔がイチゴのようにみるみる赤くなっていく。
やらかしたかな、と反射的に思った。
「ごめん、忘れて……」
我ながら恥ずかしいことを言った。自分でも顔が赤くなっていると分かるくらい熱くて、手で覆う。
「私も」
幼なじみの声にちらりと顔を見る。イチゴの顔をした幼なじみは笑っていた。
「これ、あげてもいいよ」
手の中には一個残った雪見だいふくの容器が収まっていた。
sideB
『たった二文字で伝わる事を、わざわざ五千字にすること。それが作詞の好きなところです』
雑誌で見た私の推しの言葉に、思わず「かっこよすぎん!?」と声をあげそうになる。確かに、相手を想うなら「好き」という二文字で伝わる。でもそれでは面白くないかもしれない。雑誌から顔を上げて、ちらりとあいつの顔を盗み見る。
制服も脱がないままスマホからピコピコと電子音をならすのは、幼なじみ兼想い人。こいつは、どう表現するのだろうか。
「好意をさ、好き以外で伝えるとしたらどうする?」
また始まった、とでもいいそうな顔でこちらに視線を寄越した。
「それって月が綺麗ですね的なやつ?」
地味にちがうが、まあいいだろう。うん、と頷いて答えを待つ。スマホを机の上にコトリとおいて、うんうんと悩み出した。
軽い気持ちで聞いただけだし、そんなに悩まなくてもいいのに。幼なじみを待っている間に雪見だいふくのパッケージを開けた。白くてまるい塊にスティックをさして口に運ぶ。もちっ、という触感を期待していたがまだ早かったようで、若干硬いもちとアイスが口に入った。
そんな私をじっと見つめて幼なじみは口を開いた。
「うーん、君になら雪見だいふくを一個あげてもいい、とか……?」
ブフォッという音がどこかから聞こえた。いや、私だ。あんまりにもダサくて吹いてしまった。月を見あげろとまでとは言わないがもう少しなにか無かったのか。
「だ、ダッサ!さすがにダサいわ!」
ゲラゲラと腹を抱えて笑っている私に幼なじみのほっぺが膨れていく。可愛いと思ってしまった。
「じゃあ佳子ならなんて言うんだよ」
質問が返ってくるとは思わなかった。うーん、と手を顎に当てて考える。好きな人とは特別だ。私の特別は……大好物のいちごのショートケーキ。ショートケーキのてっぺんにあるいちごは特別の中の特別。
「そりゃあ、イチゴのショートケーキのてっぺんのイチゴをあなたにならあげてもいいよ♡でしょ」
我ながら上手く言えたのではないか。ちょっと得意げに幼なじみ相手に口角をあげた。
「ダッサ」
いやいやいやいや、雪見だいふくよりはマシだから。だいぶダサいからな?雪見だいふく。
「ねえ」
幼なじみの声に顔全体はむけない。せめてもの反抗だ。
「今度いちごショート食べるとき、てっぺんのイチゴあげてもいいよ」
当然落とされた爆弾に、一瞬呼吸するのを忘れた。何て、答えようか……
「ごめん、忘れて……」
幼なじみの顔が珍しく赤くなっている。手で覆いきれていない耳まで赤い。
「私も」
私も、森鴎外のようには上手くは返せない。でも、あんたにはこれで十分伝わるでしょ?
「これ、あげてもいいよ」
一個残った雪見だいふくの容器を差し出すと、幼なじみは金魚のように口をパクパクさせていて笑ってしまった。
幼なじみが食べたアイスのもちはちょうどよかったみたいで、かじった口からもちが伸びている。
「うま……」
知ってる。だってあんたそれ好きでしょ?思っても声には出さない。多分、言わなくても伝わってる。
空になった容器をゴミ箱に放って、私たちは隣に座った。膝を立てて両腕で抱える。アイスを食べている間に頭が冷えてしまった。ちらりと横目で伺うが、何を考えているのかさっぱりだ。
私たちって今どういう関係なの?あんたは私の事どう思ってるの?
聞きたいことはある。でも、少しでも音を出したらこの空間がパチンと消えてしまいそうで何も言えなかった。
どれくらい時間が経っただろう。十分、三十分、いや、実際には五分も経っていないのかもしれない。
「さっきのってさ」
少しだけ震えた声に気づかれていませんように。
「そういう意味であってる?」
少しの静寂。でも、私の耳には心臓の音しか聞こえない。もしかしたらあいつが何か話してるかもしれないけど、それすら分からないくらいうるさかった。
「うん」
顔が熱い。こっち見んなよって言いたいのに、視線は離れない。
「好きだよ」
もう、だめだ
「ねえ、目つぶって。いいよって言うまで開けちゃダメだから」
魔が差した、とでも言えばいいのだろうか。あいつがあんまりにも甘い顔をしてるから、見た事ない顔をしてるから、しかもそれが私に向けられているときた。我慢なんてできるわけないじゃないか。
「……ん」
柔らかい唇が触れた。
彼は目を開けた。いや、見開いたと言った方がいいのかもしれない。
絡んだ視線はなかなか離れない。
「もう一回」
彼との距離がまた近くなる。ゆっくりと目を閉じると、さっきは緊張しすぎてわからなかった彼の匂いがふわりと香った。
「好きよ、陽太」
そう呟くと、彼が太陽みたいにふわりと笑う。窓から差し込むオレンジ色の夕焼けが私たちを照らした。




