第七章:二つの世界、一つの決意
冷たい水から引き上げられたリオンは、そのまま意識を失った。次に彼が目にしたのは、見慣れない光景だった。
そこは、彼が知る世界のどこにも似ていない場所だった。空高くそびえ立つ、ガラスと鉄でできた巨大な建造物。地面には、金属の塊が猛スピードで駆け抜けていく。空には、巨大な鳥のようなものが、悠々と飛んでいる。
リオンは、自分が「大学一年生」であるという感覚を持っていた。周りには、彼と同じような若い人々がたくさんいる。彼らは皆、どこか焦燥感を抱えながらも、熱心に何かを学んでいるようだった。カロリーの高い、見たこともないような食事。便利で、刺激に満ちた世界。
しかし、その一方で、リオンの視界には、全く異なる光景も映り込んでいた。遠い異国の地で、人々が飢えと貧困にあえいでいる。戦火によって、家も、家族も、すべてを失った子供たちの泣き声。その悲惨な光景に、リオンは、自分がこの豊かな世界で、一体何者になれるのか、何をするべきなのか、分からなくなっていた。
そんな中、リオンは、ボランティア活動に参加していた。それは、貧しい地域の人々に食料を届けたり、壊れた家を修復したりする、地道な作業だった。汗を流し、泥にまみれながらも、人々の笑顔に触れるたび、リオンの心には、かすかな温かいものが灯った。しかし、この夢の中でさえ、リオンは、自分自身の存在意義を見出せずにいた。
「…っ!」
リオンは、激しい息遣いと共に、ゆっくりと目を開けた。見慣れた、しかし今はどこか安心する、自分の部屋の天井。そして、心配そうに覗き込んでいる、二つの顔があった。
「リオン!大丈夫かい?」
父、アッシュの声だった。その顔には、深い安堵の色が浮かんでいる。
「リオン…!」
母、アリサも、リオンの手をそっと握りしめた。その瞳には、先ほどまで見せていた疲労の色は消え、温かい光が満ちている。
「夢…を見ていたのか?」
リオンは、かすれた声で尋ねた。夢の中の光景が、まだ鮮明に脳裏に残っている。あの、二つの対照的な世界。そして、その中で揺れ動いていた、自分自身の存在。
「ああ。ずいぶんと苦しそうだったからな」
アッシュは、リオンの肩を優しく叩いた。
「だが、もう大丈夫だ。お前は、無事だ」
アリサは、リオンの額にそっと手を当てる。その手から伝わる、温かい魔力の気配。リオンは、夢の中のボランティア活動の光景を思い出した。人々のために何かをしたいという、あの強い衝動。
「僕…」
リオンは、言葉を探した。夢で見た、あの豊かで、しかし争いも絶えない世界。そして、その中で、自分は何者になるべきなのか。
「僕…もっと、強くなりたい。誰かの役に立てるような、そんな力になりたいんだ」
リオンの言葉に、アッシュとアリサは、静かに頷いた。彼らの瞳には、リオンの決意を、温かく見守る光が宿っていた。夢で見た世界は、リオンの心に、新たな問いと、そして、確かな決意を灯していた。
第七章:二つの世界、一つの決意(続き)
リオンが静かに眠りについたのを確認し、アッシュはアリサを隣の部屋へと誘った。部屋の明かりは控えめに灯され、静かな時間が流れる。アッシュは、窓の外に広がる静かな村の風景を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
「アリサ、リオンのことをなんだが、君と話したいことがあるんだ」
アリサは、アッシュの隣に座り、彼の言葉に静かに耳を傾けた。
「リオンは、もう13歳だ。あの後、あんなにも強い決意を口にするのを見た後では、もう、この辺境の村で、ただ猟師の息子として育てるだけでは、彼に対して不誠実になる気がするんだ」
アッシュは、一度言葉を切り、アリサの顔を見た。
「マーリンのところへ、リオンを行かせないかと思っている」
アリサは、アッシュの言葉に少し驚いた表情を見せたが、すぐに静かに頷いた。
「マーリン…あの賢者様のことね。リオンの将来のためなら、私も賛成よ」
「リオンには、自分の意志で、自分の人生を歩んでほしい。そのためには、彼自身の力と、そして、彼が知るべき情報が必要だ。マーリンなら、それを与えてくれるだろう」
アッシュは、自身の過去を振り返るように、静かに語り始めた。
「俺も、15で家を出て、冒険者になった。全ては、自分の力で、自由に生きたいと思ったからだ。リオンにも、そうあってほしい。彼には、弟や妹とは違う、特別なものがある」
アッシュは、リオンが夢で見た光景については触れず、ただ、リオンの目力に言及した。
「それに、いつかリオンも気づくだろう。弟や妹とは、どこか違うということに。俺たちとは、似ていないということに。だが、それでも、血の繋がりがなくても、乳飲み子の時からずっと育ててきた、俺たちの子供であることに変わりはない。それは、これからもずっと変わらない、揺るぎない事実だ」
アリサは、アッシュの言葉に、強く頷いた。
「そうよ、アッシュ。リオンは、私たちにとって、かけがえのない、大切な子供だもの。血なんて関係ないわ。この腕で抱きしめ、この手で育ててきた、私たちの子よ」
アッシュは、アリサの震える手を、自分の手で包み込んだ。
「だが、さっきのリオンの目を見たか?あれは、ただの子供の目じゃない。自分の意志を持ち、この世界で何者になるかを問いかける、そんな強い光を宿していた」
アッシュは、リオンの成長が、これから飛躍的に加速することを予感していた。
「この辺境の地だけにとどめておくのは、リオンに対して、あまりにも不誠実だ。彼が持つ可能性を、ここで埋もれさせてしまうのは、あまりにも惜しい。マーリンは、信頼できる人物だ」
「ええ、彼ならば、リオンの力を、正しく導いてくれるでしょう。それに、リオンも、簡単な治癒魔法なら、15歳になるまでには、ある程度使えるようになるはずよ。毎晩、熱心に訓練しているもの。その力を、もっと伸ばしてあげたいわ」
アリサは、リオンの眠る部屋の方を、静かに見つめた。
「そうだな。だから、あと一年半。リオンが15歳になるまで、ここでしっかりと鍛え、そして送り出そうと思っている」
「リオンなら、きっと大丈夫。あなたの言葉を、きっと理解してくれるわ」
二人の間には、リオンへの深い愛情と、彼の未来への希望が、静かに満ちていた。リオンが見た夢の内容については、アッシュもアリサも、一切触れることなく、ただ、目の前のリオンの成長と、その将来だけを真剣に考えていた。
承知いたしました。アッシュがリオンに、血の繋がりがないこと、そして冒険者として大陸を旅することを提案する場面を執筆します。アリサも同席し、リオンへの愛情を伝え、帰る場所があることを強調します。




