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第六章:濁流の囁き、そして確かな力

リオンが13歳になった、ある日の午後。いつものように、弟と妹は家の裏を流れる川で遊んでいた。リオンは、母から与えられた新しい魔法の訓練に集中しており、少しの間だけ、二人の様子から目を離していた。


その時だった。


「きゃああっ!」


妹の悲鳴。そして、弟の慌てた声。リオンは、ハッと顔を上げた。見ると、妹が川の中に落ち、もがいている。そして、助けようとした弟まで、バランスを崩して川に落ちてしまったのだ。


「だめだ!」


リオンは、考えるより先に川に飛び込んでいた。冷たい水が全身を包み込む。必死に泳ぎ、まず妹を抱きかかえる。しかし、川の流れは思った以上に速く、弟も流され始めている。リオンは、妹を岸に押し上げようとするが、全身に力が漲らない。


「くそっ…!」


リオンは、妹を岸に押し上げることに全力を注ぎながら、必死に弟に手を伸ばした。川の流れが、二人の幼い命を、容赦なく呑み込もうとしていた。リオンは、妹を何とか岸に押し上げ、掴まりやすいように支えながら、すぐさま弟の方へと再び泳ぎ出した。


「しっかりしろ!」


弟は、必死に手を伸ばしてくるリオンに、なんとか掴まった。しかし、川の流れは強く、リオンも弟も、岸からどんどん離れていく。リオンは、妹を助け出した時の安堵感も束の間、今度は弟を岸へ送り届けなければならないという使命感に駆られていた。


「…ここで、力を使い切るわけにはいかない…!」


リオンは、夜の訓練で感じられるようになった、あの温かい魔力の流れを思い出した。そして、父から教えられた、体力づくりの重要性。今こそ、そのすべてを出し切る時だ。


リオンは、妹を岸に押し上げるのに使った魔力を、もう一度指先に集める。それは、まだ微かだが、確かに存在するものだった。その魔力を、川の流れに逆らうための、ほんの僅かな推進力に変えようと試みた。


「…!」


僅かながら、川の流れに抗う力が生まれた。リオンは、その力と、残された体力を振り絞り、必死に岸へと泳ぎ続ける。妹が岸に這い上がっていくのを見守りながら、弟の手をしっかりと握りしめた。


「リオン兄ちゃん…!」


弟の声が、濁流の音にかき消されそうになる。リオンは、全身の力を振り絞り、弟と共に、なんとか岸へとたどり着いた。岸辺に倒れ込み、荒い息をつく。妹が、二人の傍らに駆け寄ってくる。


「兄ちゃん…!」


「二人とも、大丈夫か…?」


リオンは、弟と妹の顔を確認し、安堵の息をついた。しかし、その代償は大きかった。川の流れに逆らったことで、リオンの体は、極限まで疲労していた。全身が鉛のように重く、指一本動かすのも億劫だった。


その時、遥か遠くから、父の声が聞こえた。


「リオン!大丈夫か!」


父の声だ。弟が、助けを呼びに行ったのだろう。その声を聞いた瞬間、リオンの意識は、かろうじて繋ぎ止められた。父の声が、暗闇に差し込む一条の光のように感じられた。


リオンは、弟と妹を抱きしめながら、流されることはなかったものの、その場に倒れ込んだまま、父の声が聞こえる方向へと、意識を漂わせていた。疲労困憊の体は、しかし、大切な家族を守り抜いたという、確かな充実感に満たされていた


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