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第二章:折れた木刀と母の光

その日の昼下がり、リオンは一人、村はずれの森の奥で木刀を振るっていた。父の稽古は充実していたが、一人で黙々と打ち込む時間も大切だと父は言っていた。木々の間から差し込む木漏れ日が、リオンの汗をきらきらと照らし出す。父に教わった型を繰り返し、風のように、あるいは大地のように、剣を振るう。


ふと、リオンの視界の端に、大きな岩が映った。父が「あれに当ててみろ」と以前言っていた岩だ。挑戦心をくすぐられ、リオンは大きく息を吸い込み、全身の力を込めて木刀を振り下ろした。


「うおおっ!」


しかし、予想外のことが起こった。木刀が岩に当たった瞬間、乾いた音が響き、鈍い衝撃と共に、木刀が音を立てて砕け散った。そして、その破片の一つが、リオンの左腕に勢いよく突き刺さったのだ。


「ぐっ…!」


思わず呻き声を上げ、リオンは木剣の柄を掴んだまま、その場に膝をついた。腕に走る激しい痛み。見れば、血が滲み、砕けた木片が腕に食い込んでいる。慌てて木剣の柄を抜こうとしたが、腕に刺さった破片がさらに奥へと食い込むような感覚に、リオンは顔をしかめた。


「まずい…」


一人で森の奥深くまで来てしまったことを後悔しながら、リオンは痛む腕を引きずり、急いで家へと引き返した。


家に着くと、養母が夕食の準備をしていた。リオンの様子に気づき、母はすぐに駆け寄ってくる。


「リオン!どうしたの、その腕!」


血と、腕に刺さった木片。母の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。


「稽古中に…木刀が折れてしまって…」


リオンが言い訳がましく告げると、母はリオンの腕をそっと掴み、顔を覗き込んだ。その瞳には、深い心配の色が浮かんでいる。


「大丈夫よ、リオン。すぐに治してあげるから」


母はそう言うと、リオンの手を取り、居間へと招き入れた。そして、リオンを椅子に座らせ、そっと腕に手をかざす。母の指先から、淡い光が溢れ出した。それは、リオンが時折目にする、あの不思議な光だった。


「痛むでしょうけど、じっとしていてね」


母の声は、いつもより震えているように聞こえた。光は、リオンの腕にゆっくりと浸透していく。じんわりとした温かさと共に、痛みが徐々に和らいでいくのを感じた。まるで、傷口が優しく包み込まれているかのようだ。


しかし、その光は、やがて弱々しくなり、そして消えてしまった。


「…あれ?」


リオンは、腕の痛みが完全に消えていないことに気づく。刺さっていた木片は、光の力で表面に押し出されたのか、少しだけ浮き上がっているように見える。しかし、傷口はまだ開いており、血も滲んでいる。


「ごめんなさい、リオン…」


母は、顔を青ざめさせて、リオンの顔を見つめた。その額には、玉のような汗が滲んでいる。


「そんな…」


リオンは、母の顔を見て、すぐに理解した。母の力は、自分を癒すには、あまりにも弱かったのだ。そして、その僅かな力を振り絞ったことで、母はひどく疲れてしまったのだ。


「母さん、大丈夫?」


リオンは、自分の傷よりも、母の顔色を心配して尋ねた。母は、力なく首を横に振る。


「大丈夫…少し休めば、また元気になれるわ」


しかし、その言葉とは裏腹に、母の体はぐったりとしている。リオンは、自分の腕に刺さった木片と、疲労困憊の母の姿を交互に見つめ、胸が締め付けられるような思いだった。


「僕も…僕も、母さんみたいに、治せるようになりたい!」




第二章:折れた木刀と母の光(続き)


リオンは、自分の腕に刺さった木片と、疲労困憊の母の姿を交互に見つめ、胸が締め付けられるような思いだった。


「僕も…僕も、母さんみたいに、治せるようになりたい!」


リオンの言葉に、母はゆっくりと顔を上げた。その瞳には、かすかな光が戻りつつある。


「リオン…」


「僕も、痛い思いをした人を、楽にしてあげたいんだ。母さんが、僕にしてくれたみたいに」


リオンの真剣な眼差しに、母は静かに頷いた。


「分かったわ。でも、治癒魔法は、とても繊細な力なの。まずは、自分の体の中に流れる『魔力』を感じることから始めましょう」


母は、リオンを居間の椅子に座らせ、自分も隣に腰を下ろした。


「まず、楽な姿勢になって。目を閉じて、ゆっくりと息を吸って、吐いて…」


母の穏やかな声に導かれ、リオンは指示に従う。体の力を抜き、呼吸に意識を集中する。


「そう。そして、自分の体の内側を、ゆっくりと探ってみて。指先や、足の先から…何か、温かいものが、じんわりと広がっていくような感覚はないかしら?」


リオンは、言われた通りに自分の体を探る。最初は何も感じなかった。しかし、母の声に耳を澄ませ、意識を集中していくと、かすかに、指先から、そして足の先から、温かい、微かな流れのようなものを感じ始めた。それは、まるで、体の中に流れる血のようでもあり、もっと柔らかく、心地よい感覚だった。


「…これかな?」


リオンが、恐る恐る尋ねると、母は優しく微笑んだ。


「そうよ、リオン。それが、あなたの体の中にある魔力よ。最初は、とても微かだから、見失いやすいの。でも、焦らず、ゆっくりと、その流れを感じ続けて」


母の誘導に従い、リオンはその温かい流れを、ゆっくりと全身に広げていく。それは、まるで、自分自身が光の糸で編まれた繭の中にいるような、不思議な感覚だった。


「…すごい…」


リオンは、感動のあまり、思わず声が漏れた。自分の体の中に、こんな不思議な力が流れているなんて。


「よくできたわ、リオン」


母は、リオンの頭を優しく撫でた。


「でもね、リオン。この魔力の訓練は、とても集中力を使うの。だから、今は、夜、眠る前に、静かな時間だけにしなさい。そして、この感覚を、自分で見つけられるようになるまで、続けてごらんなさい」


母は、リオンの耳元で、真剣な表情で付け加えた。


「まだ、この力について、誰かに話したり、不用意に使うのは、いけないわ。いい?約束よ」


リオンは、母の言葉の真剣さに、ただ頷いた。自分の腕の傷も、母の疲労も、そしてこの不思議な力も、まだ自分の中で、どういう意味を持つのか、分からなかった。


「安定して、魔力を感じられるようになったら、私に教えてちょうだい。そしたら、次のステップに進みましょう」


母の言葉に、リオンの心は期待で満たされた。眠る前の静かな時間。リオンは、自分の体の中に流れる、温かく、不思議な光の流れを、大切に感じようと決めた。


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