第十九章:風刃の剣、静かなる成長
リオンは、焦らなかった。手紙で受け取ったアドバイスは、彼の心に新たな可能性を示したが、それをすぐに完成させようとはしなかった。これまで通り、月の半分はエリシアの店の仕事に励み、残りの半分で、冒険者としての活動と、剣の修行に時間を費やした。
エリシアの店での仕事は、順調だった。魔力で修復した薬草から作られるポーションは、好評を博し、店の評判も徐々に上がっていた。リオンは、素材採取、店番、そしてポーション作成と、様々な業務をこなしながら、エリシアから、さらに高度な調合術や、薬草に関する深い知識を学んでいた。
冒険者としての活動も、ソロでこなせる依頼の範囲を、少しずつ広げていた。ゴブリン討伐の依頼は、一人で対処できる数を増やし、時には、より慎重な立ち回りが必要な依頼にも挑戦した。
そして、リオンの主な修行は、街の外の林や、人通りの少ない場所で行われた。父から受け取った剣を手に、彼は、手紙に書かれていた「風の刃」のイメージを、ひたすら追い求めた。
「まずは、100%の確率で、風の刃を出すこと」
威力や範囲、スピードは、二の次だった。まずは、確実に、その「風の刃」を、自分の意思で、生み出すことが目標だった。
リオンは、毎日のように、剣を振るった。イメージを固定しやすくするために、遠くの木々や、岩などを標的に定めた。そして、その標的に向かって、魔力を剣に注ぎ込み、風の刃を放つ。
「風よ…!」
初めて風の刃が出た時の、あの興奮。しかし、その感覚は、まだ不安定だった。時には、綺麗に風の刃が出るが、時には、何も起こらない。
「イメージが、まだ甘いのか…」
リオンは、自らの感覚を研ぎ澄ませようとした。風の動き、風の音、風の感触。それらを、剣を振るう動作と、魔力の流れに、より強く結びつけていく。
並行して、リオンは、「手刀」でも風の刃が出せないか、という訓練も試みていた。剣を持たない状態でも、風の刃を操ることができれば、さらに戦いの幅が広がる。しかし、それは、剣を持つよりも、さらに難易度が高く、まだ、かすかな風の気配を感じる程度だった。
地道な努力を続けること、数ヶ月。リオンの剣から放たれる風の刃は、徐々に、その精度を増していった。狙った場所に、確実に風の刃が飛んでいく。そして、その威力も、少しずつだが、増していくのが感じられた。
「よし…!」
ある日、リオンは、安定して風の刃を放つことができるようになったことを実感した。それは、もはや、偶然の産物ではなく、彼の意思によって、確実に生み出される力となっていた。
その時、リオンは、この技に名前をつけようと思った。イメージを固定しやすくするため、そして、この力を、より強く意識するためだ。
「風の刃…」
リオンは、その言葉を呟き、そして、少しだけ、その響きを変えた。
「『風刃の剣』…これでいこう」
「風刃の剣」。それは、風の力を、剣に乗せて放つ、リオン独自の技。そして、それは、彼が、焦らず、地道に、自身の力を高めていった証でもあった。この技を、さらに磨き、いつか、両親との約束を果たすために。リオンの心には、静かな決意が、さらに強く灯っていた。




