第十八章:ソロの試練、迫られる課題
バルドとカイルが隣の領都へと旅立ってから、リオンの冒険者としての活動は、ソロで行われることになった。エリシアの店での仕事と、冒険者としての活動を両立させるため、リオンは、より効率的に、そして安全に依頼をこなす必要があった。
しかし、ソロでの活動は、予想以上に困難を伴った。ゴブリン討伐の依頼は、一人でこなせる数に限りがあった。二体までは、剣技と、僅かな魔力でなんとか対処できたが、三体以上になると、途端に苦しくなった。敵の攻撃を捌ききれず、体力が急速に削られていく。バルドとカイルと組んでいた頃は、十体以上のゴブリンにも余裕で対応できていたというのに。
「やはり、範囲攻撃や遠距離攻撃が、自分には不足している…」
リオンは、痛感していた。剣は、近接戦闘に特化しており、遠距離からの攻撃手段は、魔力による僅かな加速くらいしかない。ゴブリンですら、数が増えると、対峙するのが苦しい。より強力なモンスターや、複数の敵に囲まれた場合、どうなるのか。想像するだけで、背筋が凍った。
しばらくの間、リオンは、森への素材採取に行くことを控えるようになった。ゴブリンの巣穴の近くには、良質な薬草や、毒消し草、痺れ草がよく見つかるのだが、一人では危険すぎる。
「エリシアさん、すみません。しばらくの間、素材の回収が難しくなりそうです」
リオンは、エリシアに、正直に状況を伝えた。
エリシアは、リオンの言葉に、静かに頷いた。彼女もまた、リオンの成長が、ソロでの活動によって、ある程度頭打ちになっていることを感じていたのかもしれない。
「そうか…範囲攻撃、ねえ」
エリシアは、リオンの言葉を反芻するように、呟いた。
「リオン、あんた、父親の名前はアッシュ、母親の名前はアリサだったわね」
エリシアは、突然、リオンの両親の名前を口にした。
「それで、あんたは、光魔法の初歩と、風の剣の初歩を使える。それで、よかったんだよね?」
リオンは、エリシアの問いかけに、戸惑いながらも頷いた。
「はい。父さんには剣を、母さんには魔法の基礎を習いました」
「ふむ…」
エリシアは、リオンの返答を聞き、少し考え込んだ様子だった。そして、彼女の顔に、かすかな、しかし確かな期待の色が浮かんだ。
「リオンの親…もしかしたら、あたしの知り合いかもしれないわ」
「え…!」
リオンは、エリシアの言葉に、驚きを隠せなかった。
「昔、あたしが魔法の修行をしていた頃、アッシュさんとかアリサさんとか、そんな名前の人たちと、どこかで…」
エリシアは、曖昧な記憶を辿るように、言葉を続けた。
「もし、そうだとすれば、あの人たちなら、リオンの悩みを解決できる、何かを知っているかもしれない」
「手紙を出してもいいかい?」
リオンは、エリシアの言葉に、希望を見出した。両親の知人。彼らなら、もしかすると、自分の抱える課題を解決する、何かを知っているかもしれない。
「ええ、もちろん。もし、あたしの記憶が正しければね。リオンの親に、手紙を出してみましょう」
エリシアは、リオンの了承を得て、早速、手紙を書く準備を始めた。リオンは、エリシアの行動を、静かに見守っていた。両親の知り合い。その可能性に、彼の胸は、期待と、かすかな不安で、高鳴っていた。
エリシアが書いた手紙は、驚くほど早く、リオンの元へと届いた。その手紙には、アッシュとアリサからの、温かい言葉が綴られていた。
「リオン、元気そうで何よりだ。エリシアと一緒なら、安心だ。安全には気をつけて、焦らず、自分のペースで進むんだぞ」
手紙の冒頭は、両親からの、いつものような、心配と励ましの言葉で占められていた。リオンは、その温かい言葉に、改めて、彼らが自分を深く愛してくれていることを実感した。
そして、手紙の最後のほうに、リオンが抱える課題について、少しだけ触れられていた。
「光魔法は、防御や回復には向いているけれど、範囲攻撃や遠距離攻撃ができる人は、とても少ないの。光の性質上、その力を広範囲に広げたり、遠くまで飛ばしたりするのは、とても難しいのよ」
アリサからの、丁寧な説明だった。リオンは、それが、光魔法の限界なのだろうと理解した。しかし、諦めるわけにはいかない。
「風の剣については、遠くにいる敵たちを一閃するイメージを持って、魔力を注いでから剣を振ってみなさい。ただ、これも、できる人はほとんどいないの。アッシュも、過去に何度か成功したことがあるだけだから」
アリサからの、具体的なアドバイス。それは、リオンの抱える課題に対する、一つの光明だった。イメージを持ち、魔力を注いで剣を振る。それは、リオンが普段行っている、風の剣の修行と、どこか通じるものがあるように感じられた。
リオンは、手紙を読み終えると、すぐに、その内容をエリシアに伝えた。
「エリシアさん、両親から手紙が届きました。光魔法は、範囲攻撃や遠距離攻撃には向いていないけれど、風の剣については、遠くにいる敵を一閃するイメージで、魔力を注いで剣を振れば、できるようになるかもしれない、と」
エリシアは、リオンの言葉に、興味深そうに頷いた。
「なるほどね。風の剣か…それは、面白そうだわ。アッシュも、昔から、そんなことを言っていた気がするわ」
リオンは、早速、そのアドバイスを、毎日の訓練に組み込むことにした。
翌朝、リオンは、父からもらった剣を手に、領都の外れにある、広々とした林へと向かった。バルドやカイルと共に行っていた頃とは違い、一人での行動だ。しかし、今は、自分の課題に集中する時だった。
リオンは、剣を手に、目を閉じた。遠くにいる敵。それは、ゴブリンの群れかもしれないし、もっと強力なモンスターかもしれない。リオンは、その敵を、一撃で仕留めるイメージを、心の中で鮮明に描いた。そして、父から受け取った剣に、自身の魔力を注ぎ込む。
「風よ…一閃!」
リオンは、イメージを形にするように、剣を大きく振り抜いた。剣の刀身に、淡い光が宿り、風の気配が、その周りを駆け巡り始めた。放たれた風の刃は、まだ、的確に狙いを定めることはできないが、確かに、遠くの木々を薙ぎ払うだけの力を秘めているように感じられた。
「すごい…!」
リオンは、その手応えに、興奮していた。これは、自分の攻撃範囲と遠距離攻撃の可能性を広げる、大きな一歩になるはずだ。
その日の午後、リオンは、エリシアに、新しい訓練について報告した。
「エリシアさん、風の剣で、遠距離攻撃ができるかもしれないんです。イメージを持って、魔力を注いで剣を振ると、風の刃が出るんです」
「あら、本当!それは素晴らしいわ!」
エリシアは、リオンの報告に、目を輝かせた。
「アッシュも、そんなことを言っていたわね。でも、それを実際にできるとは…リオン、あなたなら、きっとできると思っていたわ」
エリシアは、リオンの頭を優しく撫でた。
「でも、焦らないことよ。まだ、始まったばかりなんだから。この訓練を、毎日、続けていきなさい」




