第十七章:薬師の店と冒険者の道
リオンは、領都での生活に、新たなリズムを見出していた。月の半分は、薬師エリシアの店で働き、残りの半分は、バルドとカイルと共に冒険者として活動する。
エリシアの店での仕事は、多岐にわたった。薬草や毒消し草、痺れ草といった、ポーションの材料となる素材の採取。時には、店番を任されることもあった。そして、最もリオンが熱心に取り組んだのは、ポーションの作成だった。
エリシアが、リオンの素材採取の腕を高く評価してくれたことが、彼の自信に繋がっていた。特に、傷んだ薬草や毒消し草、痺れ草といった、新人冒険者が雑に採取しがちで、ポーションの品質を左右する重要な素材を、リオンは魔力を使って、本来の力を取り戻させた。
「リオン、この薬草、素晴らしいわね。まるで、採れたてみたいだ」
エリシアは、リオンが持ってきた、鮮やかな緑の薬草を見て、目を輝かせた。リオンが、採取の際に魔力を込めていたことを、彼女は知っていた。
「ありがとう、エリシアさん。これも、母さんから教わった、魔力の使い方です」
リオンは、アリサから教わったポーションの作り方も、熱心に学んだ。鍋に水を入れ、薬草を煮出し、葉の成分が溶け出したところで、魔力を注ぎ込む。そのタイミングと量によって、ポーションの効能が大きく変わることを、リオンは実感していた。
「魔力の注ぎ方が、少し強すぎるわ。もっと、優しく、草の声を聴くように…」
エリシアは、リオンのポーション作成を、時には厳しく、時には優しく指導した。
ある日、リオンは、あることに気づいた。いつも通り、魔力で修復した薬草を使い、ポーションを作っていた時のことだ。その日は、なぜか、いつも以上に魔力がスムーズに指先から流れ、そして、薬草の成分が、驚くほどよく溶け出しているように感じられた。
「…これは?」
リオンが、普段よりも丁寧な魔力の注ぎ方で、ポーションを完成させた。すると、出来上がったポーションは、エリシアが普段作るものよりも、明らかに、その輝きを増していた。
「エリシアさん、これ…」
リオンが、出来上がったポーションを差し出すと、エリシアは、それを手に取り、目を丸くした。
「…まあ!これは…!」
エリシアの顔には、驚きと、そして、興奮の色が浮かんでいた。
「リオン、これは…!通常のポーションよりも、一つ上の効能があるわ!まるで、改良された、新しいポーションみたい!」
リオンが、水をクリーンな状態にしてから、魔力を注ぎ込むタイミングと量を調整したことが、ポーションの品質を格段に向上させたのだ。
「すごい…!リオン、あなた、すごいわ!」
エリシアは、リオンの肩を抱き寄せ、二人で顔を見合わせて喜んだ。この「レベルアップ」ポーションは、彼女たちにとって、大きな発見だった。
「このポーションは、あまり表立って出荷しない方がいいわ。まだ、その効能の秘密は、私たちだけのものにしておきましょう。信頼できる、限られた人たちにだけ、売ることにするのよ」
エリシアは、リオンにそう告げた。リオンも、その考えに同意した。この特別なポーションは、彼らの、そして、この店にとって、大きな可能性を秘めている。
リオンの冒険者としての活動は、バルドやカイルとの連携で、着実に経験を積んでいた。しかし、エリシアの店での仕事は、彼に、魔法の新たな側面と、そして、自身の力で、価値を生み出す喜びを教えてくれた。二つの道を歩むリオンは、着実に、その力を伸ばしていた。
リオンが領都に来てから、三か月が過ぎていた。この間、リオンは、バルドとカイルと共に、幾度となくゴブリン討伐や、薬草採取といったEランクの依頼をこなしていた。彼らの連携は、日を追うごとに洗練され、ゴブリン相手であれば、もはや苦戦することはほとんどなくなっていた。
そして、三か月後。ギルドに、三人の名前が連なって、EランクからDランクへと昇格したという報せが届いた。
「やったぜ!俺たち、Dランクだ!」
バルドは、ギルドの酒場で、豪快にビールジョッキを掲げた。
「これで、少しは稼ぎも増えるだろう」
カイルも、珍しく、その表情に喜びの色を浮かべていた。
「リオン、お前のおかげだよ。お前の、あの、なんだ、魔力だっけ?あれが、俺たちの連携を、すごく強くしてくれた」
バルドは、リオンの肩を叩いた。
「そうだな。 お前の薬草の知識と、あのポーションも、助かってる」
カイルも、リオンの功績を称えた。
Dランクへの昇格は、彼らにとって、大きな自信となった。 そして、それを祝うかのように、バルドが、新たな提案を持ちかけた。
「なあ、リオン、カイル。 俺たち、次の領都に行かねえか?」
「次の領都?」
リオンが、問い返す。
「ああ。隣の領の領都だよ。あそこは、こっちよりも景気がいいらしい。冒険者の稼ぎも、ずっといいって話だ」
バルドは、期待に満ちた目で、リオンとカイルを見た。
「俺は、もっと強い敵を倒して、もっと金を稼ぎたい。お前たちも、そうだろう?」
カイルも、バルドの提案に賛同するように頷いた。
「確かに、隣の領都には、より高レベルの依頼があるだろう。俺も、もっと腕を磨きたい」
バルドとカイルは、リオンの顔を見た。 彼らの期待が、リオンに注がれる。
リオンは、二人の熱意を感じながらも、心の中で、ある考えが巡っていた。 エリシアの店での仕事。 そして、彼女から教わる、ポーション作成の技術。 そして、まだ見ぬ、より高度な魔法の知識。
「ありがとうございます、お二人の誘い。でも…」
リオンは、少し間を置いて、続けた。
「私は、まだ、この領都に残ることにします」
バルドとカイルは、リオンの予想外の返答に、少し驚いた顔をした。
「え、どうしてだ?稼ぎも増えるし、もっと強い敵もいるんだぜ?」
バルドが、理由を尋ねた。
「エリシアさんの店で、まだ教わりたいことが、たくさんあるんです。ポーションの作り方、そして、薬草のこと。それに、母さんから教わった魔力の使い方をもっと深めたい。まだ、僕には、ここでやるべきことがあるんです」
リオンは、自分の決意を、静かに、しかしはっきりと伝えた。彼は、バルドとカイルの気持ちも理解していた。しかし、今は、彼らと共に旅立つよりも、エリシアの元で、さらに力をつけることが、自分にとって最善の道だと確信していた。
「そうか…残念だな。だが、お前の決断なら、尊重する」
バルドは、少し残念そうだったが、リオンの決意を理解したように、頷いた。
「そうか。まあ、いつでも、俺たちに連絡してこいよ。また、一緒に冒険しようぜ」
カイルも、リオンの肩を叩き、励ますように言った。
リオンは、二人の優しさに感謝した。彼らとの出会いは、リオンにとって、かけがえのないものだった。そして、いつか、もっと強くなって、彼らと再び肩を並べる日を、リオンは心に誓った。




