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第十二章:薬草と魔法、最初の成果

リオンは、北の門から林へと足を踏み入れた。アッシュから教わった地図と、アリサから教わった魔力の感覚を頼りに、薬草のありそうな場所を探す。しかし、林の中は、思ったよりも見通しが悪く、太陽の光も木々の葉に遮られて、昼間だというのに薄暗い。


「薬草は…どこだろう」


リオンは、地面に注意を払いながら、慎重に進んだ。父から教わった観察眼を活かし、土の状態や、周囲の植物の様子を観察する。しかし、二時間ほど歩き回っても、見つかる薬草は、一株だけだった。しかも、その一株も、リオンの基準では、15センチには僅かに届かず、葉の一部が痛んでいるように見えた。


「うーん…」


リオンは、依頼の条件を思い出した。15センチ以上。これでは買い取ってもらえない。他の場所にも、いくつか似たような、小さかったり、傷んでいたりする薬草は見かけるが、どれも条件を満たせそうにない。


間もなく、空は夕暮れの色に染まり始めた。林の中は、さらに暗くなり、心細さが募る。このままでは、今日の依頼は達成できない。ギルドの宿に泊まるためには、最低限の収入が必要だ。


その時、リオンの脳裏に、アリサの言葉が蘇った。


「相手のことを大事に思う気持ちが、治癒魔法を成功させるのよ。そして、傷が治った状態を、心の中で鮮明にイメージすることも、とても重要なの」


「…待てよ」


リオンは、ハッと気づいた。自分には、治癒魔法がある。傷んだ植物を癒す力。前世の記憶が、この状況で、明確なヒントを与えてくれた。


リオンは、まだ抜いていない、痛んだ薬草の株元にしゃがみ込んだ。そして、アリサに教わった通り、指先に魔力を集める。温かく、柔らかな光が、指先に宿るのを感じた。


「頼むよ。立派になってくれ」


リオンは、心の中で、その薬草の、最も健康だった頃の姿をイメージした。葉が青々と茂り、茎が力強く伸びている姿。そして、そのイメージと共に、指先から魔力を注ぎ込んだ。


じんわりとした温かさが、株元へと伝わっていく。すると、不思議なことに、痛んでいた葉が、みるみるうちに鮮やかな緑色を取り戻していく。そして、茎が、すっと伸び、リオンの目測で15センチを優に超える、立派な薬草へと姿を変えたのだ。


「やった…!」


リオンは、歓喜の声を上げそうになったが、ぐっとこらえた。そして、慎重に、その薬草を根元から採取した。


「これなら、大丈夫だ」


リオンは、さらに残りの薬草を探し始めた。傷んだり、小さすぎたりする株を見つけるたびに、彼は魔力を注ぎ込んだ。その度に、薬草は鮮やかな緑を取り戻し、依頼の条件を満たす大きさに育っていく。


結局、リオンは、二時間ほどの時間をかけて、条件を満たす薬草を三株採取することができた。そのうち二株は、彼自身の力で、そして、もう一株は、彼が魔力で癒したものだった。


夕暮れの林を後に、リオンは領都のギルドへと戻った。依頼を達成できたことへの安堵と、自分の力が、初めて実用的な形で役立ったことへの喜びが、彼の胸を満たしていた。ギルドの受付で、採取した薬草を提出する。


「あら、立派な薬草ね。ちゃんと15センチ以上あるわ」


受付の女性は、リオンの成果を称賛した。リオンは、僅かな報酬を受け取り、ギルドの宿へと向かった。初めての冒険者としての仕事。それは、想像以上に、彼の内に眠る力を引き出す、貴重な経験となったのだ。



ギルドの宿の扉を開けると、そこは、予想以上に騒がしかった。酒場の喧騒とはまた違い、冒険者たちの、気楽で、どこか荒っぽい声が飛び交っている。リオンは、受付の女性に案内され、四人部屋へと向かった。


部屋に入ると、既に二人の男が、それぞれのベッドでくつろいでいた。一人は、リオンよりも少し年上だろうか、屈強な体格で、肩には大きな傷跡がある。彼は、リオンが入ってきたことに気づくと、無造作に顎をしゃくった。


「おう、新人か。俺はバルド。よろしくな」


バルドと呼ばれた男は、ぶっきらぼうな口調だったが、その瞳には、悪意は感じられなかった。彼の傍らには、使い古された革鎧と、太い剣が置かれている。


もう一人の男は、バルドよりも若く、細身で、どこか神経質そうな雰囲気だった。彼は、ベッドに寝転がりながら、手元のナイフを器用に操っている。リオンが部屋に入ってきても、ちらりと視線を向けただけで、特に何も言わなかった。


「俺は、カイル。よろしく」


バルドが、リオンに促すように言った。カイルは、ナイフを操る手を止めずに、小さく頷いた。


リオンは、自分のベッドに荷物を置いた。バルドとカイルの、それぞれの個性的な雰囲気を感じながら、彼は、この相部屋での生活が、どんなものになるのか、少しだけ想像してみた。


「俺は、リオン。よろしく」


リオンは、精一杯、明るい声で挨拶をした。バルドは、豪快に笑い、カイルは、また小さく頷いた。


それぞれ、異なる背景を持ち、異なる目的で、このギルドの宿に身を寄せているのだろう。リオンは、彼らとの出会いが、今後の冒険に、どのような影響を与えるのか、興味深く思った。しかし、今は、明日の仕事について考えることが先決だった。


リオンは、バルドとカイルに軽く会釈をした後で自分のベッドに向かった。初めてのギルドでの生活が、静かに、しかし確実に始まろうとしていた。


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