おばさん①
そこから二人は他愛もない話をし、近くのお店を見て回り、ぶらぶらと時間を潰した。
そういえば奈海の誕生日が近いことを思い出し、さりげなく欲しい物をリサーチ出来たので、知華にとっては収穫だった。
日が傾きだし風を冷たく感じる様になった頃、二人はそれぞれの家路に向かって別れた。
(今日は色々と話したな)
一日を振り返ると、週末溜まっていたモヤモヤした気持ちが晴れ、軽くなっている。
細長く伸びる影をぼんやりと見ながら、足を進めた。
すると人影が一つ、知華の後ろから覗いた。
ちょうど頭のあたり。
気配はしなかったので振り返るが、誰もいない。
遠くで中学生が賑やかに喋って歩いているだけだ。
(何か付いてきとんかな?)
再び歩き出すが、影は時々ひょっこり姿を見せた。
嫌な気配はしないものの、やはり気味が悪いので足早になった。
家の玄関が見え、門を開ける前にもう一度振り返った。
今朝見かけた冬物コートを羽織ったおばさんが、電柱の横に立っていた。
じっとこちらを見ている。
寒気が走り急いで家に入り鍵を閉めた。
果たして幽霊に鍵が通用するのか疑問に感じながら、鞄を自室に置きに行く。
それから気を紛らわせそうと、テレビを付けて夕食の準備を始めた。
作業に集中していると、多少気分が落ち着いた。
時折、台所や勝手口の窓に人影を見た気がしたが、視界の隅にチラッと映っただけなので気にしないようにした。
そうしているうちに、母が帰宅した。
「おかえり」「ただいま」とお互いに声をかけたものの、目を合わすことは無い。
テレビの音だけが流れる中、食器を並べ食べ始める。
「お父さんは?」
「今日も遅いよ」
ポツポツと会話はあるものの長くは続かず、ほとんどテレビの音を聞く気まずい時間が流れた。
(お母さんと話をするほうが、幽霊と対峙するより緊張するな)
食後、自室に下がり一人になった所で、息を吐き出した。
その日はそれ以上の怪奇無ことはなく、そのまま静かに夜が過ぎていった。
翌日の登校時、あのおばさんはまた姿を現した。
話しかけてくるわけでもなく、ただ知華の後をついくるだけで、あと少しで学校という所で足を止め、それ以上近くに来ることはなかった。
下校時は今朝と同じ電柱の横に立っており、門の近くまでついてきた。
知華が見ている所では敷地内に入ってこず、ただじっとこちら見ているだけだった。
一週間このようなことが続くと、知華にとっていつも見るおばさん、という感覚にまでなり、さほど気にすることがなくなった。




