特別な友人③
一日の授業が終わり、多くの生徒が帰路につく中。
鞄に荷物を詰めていると、奈海がクラスまで迎えに来てくれた。
今日は塾がない曜日だったのを思い出し、一緒に帰ろう、と声をかけようとした所。
「昼ご飯、香西と食べたって本当?!」
いきなり詰め寄られた。
その勢いに思わず仰け反った。
「昼休みここ来たのに、あんたおらんから!クラスの子に聞いたら中庭におるって聞いて。香西と一緒に出てったって教えてくれたんよ。ホンマなん?」
奈海がここまで取り乱すのは珍しい。
ホンマよ、と答えを聞いた彼女は、知華の肩を掴んで
「喫茶店いくよ!何があったんか、色々と聞かせて!」
と強制連行した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
高校からさほど遠くない場所にある喫茶店。
目の前を通ることはよくあったが、店内に入ったのは始めてだった。
落ち着いた雰囲気の曲が流れている店内では、他校の高校生が数名談笑している。
店の一番奥の席に座った二人は、それぞれ注文した商品を目の前にしていた。
それに手を付けることもなく、早速奈海は質問を始めた。
二人で昼食を食べることになった経緯、話すようになったのはいつからか、二人きりになる程親密になったのは何故か、何か乱暴なことをされなかったか。
一つ一つ答える間もなく、次々と言葉が飛んでくる。
全くの真実を話すわけにもいかず、絡まれた所を香西に助けてもらったという内容で説明した。
筋違いな話でもなかったが、あまり細かな事を聞かれるとボロが出そうだったので、簡潔にすませた。
「結構世話焼きでさ、いい人よ。優しいし。そんで、話するようになって」
「それ、いつの話?」
「連休前の金曜日。雷なってた日」
「助けてもらったのは分かったけど、一緒にお昼ご飯食べるほど仲良くなる?しかも二人っきりで」
怪しい、と目で訴えている。
自然に考えれば急接近した様に映るのだろう。
「助けてもらった後、色々話してさ。香西くん軽く怪我したから、そのお詫びでもう一回会って少し喋っとったら、結構話が合ったんよ。お互い、それが意外で楽しくて。犬が好きとか、近所の小さい子の相手しとったりとか意外な一面が見えてさ。あたしの事も小さい子と同じに感じたって言うんよ。それは酷くない?」
酷いと言いつつも、知華が本当に楽しそうに話す姿を見た奈海は、少し驚いた後、安堵した表情をした。
これまで家と学校の往復のみで、同級生と話す機会が少なかった知華に、軽口を叩ける相手が出来たことを嬉しく思った。
「ほんま、楽しそうやな。そこまで気が合う人と巡り合えたのは友達として嬉しいんじゃけど、相手が香西かぁ。意外すぎ」
「そこは、あたしも驚いとる」
奈海の興奮が少し収まった様子なので、やっと質問攻めから解放された知華は、ケーキを一口食べた。
「付き合ったりするん?」
その言葉に思わず吹き出しそうになり、むせた。
「ええっ?なんでそうなるん!?」
「あっ、そういう対象ではない感じ?まぁ、香西じゃしなぁ。日頃の言動をみとると、安心して知華を任せられるとは、言えんけど。あたしも香西の事は噂レベルでしか知らんから、勝手な事は言えんけどな。知華はどうなん?タイプじゃない?」
「いや、そんな話になる?」
「ならんの?」
怪異の相談が出来る友人、という認識だった知華は戸惑った。
周囲から見れば恋愛に発展しそうな展開、という事らしい。
それに始めて気がついた。
「今の所、そんなつもりじゃない」
「『今の所』な。オッケー」
意味深に『今の所』を強調した奈海に「深読みせんとって」と苦笑いした。




