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クリカゲ  作者: 栢瀬 柚花
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「これまで通り」



 知華は奈海との待ち合わせのため、駅にいた。

 今日はオープンキャンパスで、電車で約一時間ほど移動する。

 電車移動は安と那津と県北に行って以来だ。


 奈海は待ち合わせより十分ほど早くやってきた。

 薄ピンクのダウンコートに大きなタートルネックのセーターにジーパンの格好で、知華を見つけると駆け寄ってきた。

「おはよー!今日は寒いなぁ」

 元気にそう言うと、切符売り場に二人で向かう。

「ここから電車で結構かかるけど、駅着いてからも距離あるんよな。バス出てるから、それに乗る?歩いても行ける距離じゃけど」

 奈海は何度かその大学のオープンキャンパスに行った事があるので、慣れたものだった。

「奈海に任せるよ」

 切符を買い、改札を入って停車している電車に乗る。

 席は半分ほど埋まっていて、二人は横長席の隅っこに腰を下ろした。


 

 発車まであと十五分ほどある。

 大学方面に向かう電車のためか、若者が多い。

 知華達と同じ年代の制服を着た高校生らしき人もいた。きっとオープンキャンパスに行くのだろう。

「知華、今日の服可愛いな。自分で選んだん?」

 本日の知華はロングスカートに袖が広がったセーター、コート、ブーツという格好だった。

 自分では適当に選んだつもりだったので、褒められて驚いた。

「そう?適当に掴んだよ」

 その言い方に、奈海は呆れた。

「掴んだって。デートの経験もしたんじゃし、もう少し気を使ったら?」

「それって関係あるん?」

「あるじゃろ」

 即答されたが、知華には関係性がいまいちピンとこなかった。

 表情でそれを察した奈海は、

「香西くんがファションに五月蝿い人じゃくて、よかったな」

 と言った。

 那津の名前が出てきて、知華はドキッとした。



 告白されてから一週間余りが過ぎていたが、奈海にはまだ話していなかった。

 デートの報告はした。

 した、といより、いつものキラキラ目で話を聞かれた。

 何を話したか、手を繋いだか、手を繋ぐ以上の進展はあったか、次のデートの約束をしたかなどなど。

 あの日一日の出来事を聞かせると、最後にしっとりとした雰囲気で終わった事にやや不満があるようだった。

「知華の思った事を話せばいいって言ったけど、わざわざ他の女の子の話をせんでも……」

 と若干渋い顔をされた。

 しかし、知華にとってはとても重要な話だったのだ。

 安が霊媒師である事は奈海に伏せたものの、一緒に応急処置をして救急搬送した旨は話していた。

「凄く心強かったから、お礼が言いたくて」

「まぁ、知華らしいけどな」

 呆れていたが、最後には納得してくれた。

 その上で、

「次のデートはちゃんと二人の話をするんよ。あと、バレンタインまでに二回目のデートをした方がいい」

 と奈海から言われた。

 その時は(次なんてあるんかな?)と思っていた。

 


 しかし先日の告白で話が変わった。

 那津は「これまで通りでいい」と言っていたが、知華は『これまで』がよく分からなくなっていた。

 二人で出かけた方がいいのか、登下校は何を話せばいいのか、メッセージのやり取りはどうすればいいのか。どんな顔で那津と話していたのか。

 一つ一つを意識してしまい、上手くいかなくなっていた。


 那津の名前が出た途端、静かになった知華を見て「どした?」奈海は顔を見た。

 沈んでいる、というより困惑している表情に、

「なんかあったん?」

 と尋ねた。

 

 知華は告白の件を話していいのか、悩んだ。

 那津は知華の穢の件が落ち着くまで、想いを伝えるつもりがなかった。

 それを明るみに出したのは、知華が不用意に聞いたせいだ。

 ひた隠したかった思いを勝手に暴いた上に、他の人に勝手に話して良いものか。そう思っていた。

 しかし告白を受けた後、那津への対応に四苦八苦した知華は、一人で抱え込むのがそろそろ限界だった。

 他の人からのアドバイスが欲しかった。

 

(奈海なら、いいよね……)

 そう決めて、知華は口を開いた。

「実は、那津くんから告白された」

 奈海は思わず「ええっ?!」と大声を上げた。

 電車内にその声は響き、他の乗客の視線が二人に集まる。

 冷たい批判的な視線を受けた奈海は「すいません……」と肩身を狭くする。

 小声で

「いつ?なんで話してくれんかったん?!」

 と詰め寄った。

 知華は告白の経緯を説明した。



 奈海は半分呆れ、半分同情した。

 那津が気持ちを暴かれたことを気の毒に思ったし、直接本人に聞いてしまった知華に呆れた。

(普通はストレートに本人には聞かんよな……。知華なりに反省して、一人で何とかしようと努力したみたいじゃけど)

 那津への思いがはっきりしない中、どうにか『これまで通り』を目指して頑張ったのは、今の知華の顔を見れば分かった。

「返事を待つって言われたんなら、そんなに困らんでもいいと思うけどな」

 あっさりと言われ、知華は「そうかもしれんけど……」

 と言葉を濁した。


(今の時点で香西くんを意識しとるし、丸っ切り気持ちがないわけじゃなさそうやけど)

 奈海はそう考えたが、きっと知華が困っているのはそう言う事では無いと思った。

「ずっと近くにおったから、普通が分かんのやろ?」

 言われて、知華は首を傾げた。

「どういうこと?」

「近くにいる事が普通なんよ。居ない方が不自然。それくらい、香西くんが知華にとって大きい存在ってことやろ」

「居ない方が不自然……」

 知華は無意識に奈海の言葉を繰り返した。

 

 確かに、今までずっと那津と行動していた。学校でも私生活でも。怪異や安とのこともあったが、それでも多くの時間を一緒に過ごした。

「近くにいすぎて分かんなら、一度距離をとってみたら?それで、淋しいとか、話したいとか、会いたいって思いがあれば、知華は香西くんを好きなんじゃと思う」

 そう言われ、知華は目をしばたたかせた。

「距離をとるって、どうやって?」

 聞かれ、奈海は「んー」と思案声を漏らした。

「例えばメッセージをしない。学校でもあんまり話さない。休みの日も会わない」


 それを聞いて、知華は悩んだ。

 それは『これまで通り』を望んだ那津とは正反対の行動だ。

「でも、それは『これまで通り』じゃないよ?」

 言い返す知華に、奈海はビシッと言った。

「『これまで通り』に悩んでるから、逆の事をすんじゃろ」

 奈海の指摘に知華はうっ、と仰け反った。

「香西くんの希望ばっかりを考えとってもいけんよ。知華は人の意見や気持ちに流されすぎ。自分の『困った』の声を聞きなさい」

 確かに、今の知華には穢のことだけでなく、受験や進路の悩みもある。

 これ以上困り事が増えても、キャパオーバーだと思った。

 

 そう思った時、気が付いた。

 

(だから、那津くんは告白せんでおこうって考えてくれたんじゃ……)

 那津の心遣いを感じ、知華の気持ちはまたギュッとなった。

 知華は胸元を握った。

 

「……そうやね。少し考える時間欲しいし、自分と向き合う時間になるかも。距離を取ってみる」

 結論を出した知華に、奈海は頷いた。

「でも、我慢しすぎても駄目で?会いたいって気持ちが強く高まったら、直ぐに香西くんに連絡し。分かった?」

 その言葉に、再び頷いた。



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