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クリカゲ  作者: 栢瀬 柚花
66/106

和輝と知華


 一月上旬。


 冬休みもそろそろ終わろうかと言う時、和輝が帰省した。

 その連絡はまたもや突然入り、

『夕食までには帰宅する』

 とだけメッセージがあった。

 母は喜び、父は「正月は無理なんじゃなかったのか?」といつつも嬉しそうだった。

 和輝の帰宅時間に家にいるのは知華だけだったので、一人でお迎えすることになっていた。

 

 十七時半。

 玄関の戸が開く音と共に、「ただいま」と和輝の声がした。

 知華が玄関に行くと、すでにリビングでコートを脱いでいる所だった。

「おかえり」

 その背中に声を掛けると、「おう」とだけ返事を返す。

(今回は何も連れてきてないだろうな)

 知華は和輝の周りを凝視し、念のため外も見に行ったが、何も感じなかった。

 妹の不自然な動きに和輝は眉間にシワを寄せた。だが、何も言わなかった。

「お正月、帰ってこれたじゃん」

 そう言われた和輝は「三が日過ぎたし、正月ではないやろ」と律儀な事を言った。

「七日までは正月って考えでええと思うけど」

 そう言いつつ、リビングの暖房を入れてお茶を準備する妹の姿を目で追う。

(少しは元気になったみたいやな)

 最後に別れた時の様子を思い出し、胸を撫で下ろした。

 

 前回は安が搬送され、その後何の連絡もなく、お見舞いにさえ行けず、知華はずっと暗い顔をしていた。

 そんな妹が気がかりで、出来るだけ早く顔を見に行こうと考えていたのだ。

「あの子、ようなったか?」

 知華はそれだけで誰のことを言っているか察し、

「うん。お見舞い行った。今は退院してる」

 と答えた。

「そうか。なら、良かった」

 

 和輝はずっと聞きたかった。

 何があって、意識不明の状態になったのか。

 交通事故ではなさそうだった。出血はおろか、外傷も無さそうだった。三人ともボロボロで帰ってきただけだ。

 紅野からは体調が悪くなったとしか、聞かされていなかった。

 詳しい人が来る、とあの時の知華は言ったが、医療関係者とは思えなかった。もしそうなら、わざわざ家に移動させず、その場で救急車を呼ばせただろう。

 搬送時、首に数珠、手首にブレスレット、手に御守りを握っていたので、知華の部屋にいる時付けられた物だと思った。ここへ来た時、そんな物は付けていなかったのを覚えている。

 それにあのブレスレットは、知華が身につけていた物だ。

 聞きたいことは山のようにあったが、前回の帰省中は話を聞ける状況になかったので、ずっと黙っていた。


 目の前でお茶を啜る妹を見る。

 今回はその話をするため帰省したと言ってもいい。

 

「知華。色々と聞きたいんだが」

 話を切り出した兄を、知華はきょとんとして見た。

「何?」

「先月、うちから搬送された子。なんであんな事になった?」

 言われて、ピクリと体が止まった。

 知華は湯呑みを持つ手に力を込めた。熱さが手に伝わってくる。

「交通事故でもなさそうやし、急に体調不良になったにしては、あとから来た紅野って爺さんの行動がおかしい。搬送される時、数珠だの御守りだの、知華が付けとったブレスレットだのを付けられとった。お前たちがここに連れてきた時、そんな物なかったよな?」

 和輝は昔から観察力が鋭い。ちょっとした事も覚えており、それを結びつけて結論にたどり着くことがよくある。

 そのため、知華は小さい頃から和輝に嘘はつけなかった。

 

 真実を話して、和輝は信じるだろうかと、知華は考える。オカルトな話や怪奇現象など、あまり興味がなさそうに思えた。

 折角少し話が出来るようになったのに、ここで距離を置かれてしまうのは本望では無かった。

 しかし、何も話さない訳にはいかない。

 中途半端な真実で兄が納得するはずはないと、知華には分かっていた。


 深くため息をつくと、心を決めて知華は和輝を見た。

「本当の事を話すけど、お兄ちゃんはなかなか信じられんと思う」

 そう切り出した。

「そんな事、聞いてみんと分からんやろ。決めつけるなや」

 早速反論してきたので、知華は釘を差した。

「これから話すのは、全部本当のこと。気になることがあっても、今みたいに横やりは入れんでな」

 そう言われ、和輝は少しカチンときたようだ。

「横槍って。質問やんか」

「今のも質問?」

 そう聞き返され、和輝は思わず口ごもった。

「違うやろ?口出しせずに聞いてくれるなら、話す。守れんのなら、辞める」

 真剣な妹の表情に、和輝は頷いた。

 知華はそれを見て、さらに忠告した。

「もう一回言うけど、これから話すのは全部真実。那津くも安ちゃんも関係してくるし、救急車きた時に家にいた紅野さんも宇田さんも関係してくる。その人達のことを知っても蔑んだり、罵倒したり、見下したり、軽蔑したり、拒否したりせんでな。もしお兄ちゃんがそんな事したら、あたしは二度とお兄ちゃんと口を聞かん」

 至極真面目に言う知華の顔は、真剣そのものだった。

 和輝はやたらと人を評価する人間ではない。噂や風評のみで判断することを嫌う性分だ。

 それを知っていてもなお、ここまで釘を刺すとは。どんな話をされるのかと、和輝は身構えた。

「分かった。そんなら、聞かせてくれるか」


 知華は話し出した。

 そもそもは、和輝が連れ帰った悪霊のせいである事。

 人を選別して連れて行こうとす存在のため、霊媒師の安が除霊に臨んだこと。

 知華にも霊感があり、ブレスレットで護られている事。

 そのブレスレットは安の師である紅野が作ったこと。

 悪霊退治のため香西の母の形見を使ったこと。

 除霊に成功したが、安の体力と霊力が尽きて意識不明となったこと。

 紅野と兄弟子の宇田に連絡し、知華の家で応急処置をしたこと。

 応急処置に知華のブレスレット、那津の御守り、紅野の木珠を使ったこと。


「救急車が来てからはお兄ちゃんも知っとるやろ。師匠の紅野さんが同乗して、安ちゃんを病院に連れてった。残った宇田さんはあたしのブレスレットと那津くんの御守りをもう一回綺麗にするため、神社に持って帰った。今は浄化が済んで、ここにある」

 知華が自分の手首を見せた。

 あの時の二本のブレスレットが輝いている。


 話を聞いた和輝は眉間にシワを寄せ、頭を抱えていた。

 思ってもいない内容だった。こんなオカルトな内容とは想像していなかった。

 

 しかし和輝の中では腑に落ちていた。

 知華が急に心霊スポットに行ったか聞いてきたり、山に入ったか、何か持ち帰ったかと質問したのは、そのせいか。

 ということは、あの香西も事情を知って知華と付き合っているということになる。


 知華の話が終わったようなので、和輝は聞いた。

「もう質問してもええか?」

 知華が頷くのを見て、一つ一つ浮かんだ疑問を聞いていく。

「父さんと母さんは知華が『見える』こと知っとんか?」

「知らない」

「香西は?」

「勿論、知ってる」

 勿論、か。その言葉に引っかかりを感じながらも、質問を続けた。

「そもそも幽霊とか悪霊とか。ホンマにおるんか」

「いるよ。昼も夜も関係なくおる。普通に散歩したり、生存のルールで過ごしとるよ」

「その二つの違いはなんや?」

「霊は悪いことしない。ただ自由に過ごしとるどけ。でも悪霊違う。目が黒くて、近くにいると寒気と鳥肌が立つ。本能的に近づいちゃ駄目って思う」

「御守りやブレスレットで対処できるもんなんか?」

「出来る。完全じゃないし、身代わりになってくれる訳じゃないけど、守ってくれる。今回もブレスレットにヒビが入ったから、一本目は回収された」

「霊媒師の仕事って、何をするん?」

「悪霊がいたら祓ってくれたり、土地の浄化とか供養を願っとる霊を送ってくれる。安ちゃんは悪霊退治が得意で、宇田さんは供養専門。お師匠の紅野さんは全部できる」

「霊力ってなんや?知華には分かるんか」

「霊力は生命力みたいなものって教えてもらった。安ちゃんの霊力は分かるよ。綺麗な空の色。今回は夏の空みたいに真っ青だった。いつもより力を入れちゃったから霊力全部使って、倒れてしもうた」

「それが尽きると命に関わるんか?」

「体力と同じ様なものらしい。使いすぎると疲労困憊になって、熱が出たり立っていられなくなったり、今回みたいに意識不明になっちゃう」

 

 そこまで答えると、知華はギュッと手を強く握った。

「安ちゃんは命がけで戦ってくれた。あたしらがした応急処置。あれがなかったら、命がなかったって宇田さんが教えてくれた」

 知華が沈んだ声で言う。

 

 和輝はあと二つだけ聞きたい、と続けた。 

「ブレスレット、そんなもんで本当に効果あるんか?」

「付けてるのと、いないのでは全然違う」

「……騙さとる可能性は?」

「それだけは、絶対にない」

 言い切る妹を見て、和輝はその真剣な眼差しを凝視した。


 立て続けに沢山の質問をしたが、知華は全てに躊躇なく答えた。内容はともかくとして、一連の話には整合性があり、辻褄も合う。

 和輝は天井を見あげ、盛大なため息をついた。


 どうやら真実らしい。

 和輝の頭がそう判断した。

(まったく、この一ヶ月だけで人生がひっくり返りそうだ)

 考えすぎて、信じられない情報を詰め込まれた頭が重かった。

 しかし気持ちの方はスッキリしていた。ここ数週間気になっていた事が紐解かれ、気分が晴れている。


 兄の様子を見て、もう質問は無さそうだと知華は思った。

「質問はもう終わり?」

 そう尋ねると、天井を見上げたまま「ない」と返した。

 そして疲れた顔を知華に向けると、冷めきったお茶を飲んだ。

「じゃけど、まるっと信じとる訳じゃない。一応話の筋が通っとるし、整合性もあるから納得はしたけどな」

 無事に話がついたので、知華はやっと安心した。

 両親よりもこの兄を納得させる方が大変だろうと、ずっと思っていたからだ。

「こういうオカルトな話、信じそうにないもんな、お兄ちゃん」

「オカルトじゃから信じないって訳じゃない。辻褄が合わん事が多すぎるから、その手の話は好きじゃないんよ」

「なら、あたしの話は辻褄があった?」

「……合った」

 和輝は渋い顔をしながらも、認めた。

「幽霊、悪霊の存在を大前提とすなら、の話な」

「そっか」

 知華は冷めつつある湯呑みを握った。

 

 無事に話ができた。

 しかも信じてもらえた。

 安も紅野も宇田の事も、否定されなかった。

 その事実で知華の心は一杯だった。


 何やら疲れた様子の和輝はお茶を飲み干すと、そういえばと口を開いた。 

「香西、あいつは全部知っとって、知華と付き合っとるんじゃろ?あいつも見えるんか?」

「ううん。那津くんは霊感ないよ」

 これには驚いて目を丸くした。

「それなのに、信じとるんか?」

「そう。一緒に行動してくれて、助けてくれる」

 よく疑いもなく信じられるなと、和輝は感心した。

 それだけ知華への想いがあるということか。

 そろそろ認めなくてはいけないか、と和輝が思っていると、知華から衝撃な一言が言い渡された。

「あと、那津くんとは付き合ってないよ」

「は!?」

 これに一番驚いたかもしれない。


 

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