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クリカゲ  作者: 栢瀬 柚花
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病室



 安が目を覚ましたのは、除霊をした五日後だった。

 

 両親は大層心配し、無事に目覚めると二人とも涙をこぼして喜んだ。

 安は申し訳なく思いながらも、霊媒師の仕事を辞めろと言われるのでないかと不安になった。

 残された娘がこんな状態になったとあれば、致し方ない事であった。

 しかし何とか両親を説得しなければと、まだ気だるい身体で説明しようとしたが、二人は「安が思うままにやればいい」と言ってくれた。

 紅野と宇田が、安が昏睡している五日の間に、事の子細を説明してくれていた。

 友人二人を助けるため一人除霊に臨んだこと。

 悪霊が圭の姿で襲って来たこと。

 激昂した安が必要以上の力で除霊したこと。

 昏睡した安を友人二人が介抱し、守ってくれたこと。

 

 紅野はここまで修行を積み、実績を重ねた安を褒めて労い、称えた。

 そして、全てを理解した上で支えてくれる友人を得た喜びを語ってくれたという。

 霊媒師として、一人の人間として、安はかけがえのないのもを手にしている。

 どうか、そんな安をこれまで通り見守ってほしいと。


「きっと安が圭への弔いのためだけに霊媒師を目指していたなら、ここでとめてた」

 両親はそう言った。

 もういい、と。

 そんなにも自分をせめてくれるな、と。


 十四歳で霊媒師にどうしてもなると言い出したあの時。安の目は復讐に燃えていると両親は思った。

「圭を奪った悪霊は、絶対に許さない」と、暗い野心さえ感じる目が悲しく、申し訳なかった。

 両親は安の気持ちが晴れるならという思いで、十五になった安を紅野のもとへ送った。

 親元を離れ、一人頑張る娘をひたすら見守った。

「どうか、安の罪悪感と復讐心が治まりますように」

 そう願い、見守り続けた。


 そして今、安の中にあるのは、罪悪感でも復讐心でも懺悔でもないと知った。

 友人のため、誰かを助けるため。

「安の目を見ればわかる。あの時とは違う、綺麗な目をしてる」

 母は言った。

 やっと、安が戻ってきた。

 圭ちゃんと一緒にいた頃の目をした安が。

 だから、もう反対しない。

 霊媒師という仕事を続けて。

「立派になって、私たちはとても嬉しいんだよ」

 そう言われ、安は病床で泣いた。

 ずっと悔やんでいた。

 ずっと苦しかった。

 あたしには素質があったのに、圭ちゃんを守ってあげられなかった。

 復讐心に近い思いで、除霊してきた。

 とにかく祓ってやると、躍起だった。

 

(でも、今はその思いはない)

 知華と香西と出会い、紅野と宇田と佐藤さんに支えられ、復讐よりも大切な思いで仕事と向き合えるようになっていた。

「あたし、今は楽しいよ。大変で辛い時もあるけど、お礼言われたり、感謝されることも増えた。『ありがとう』って言われると、やりがい感じるし、嬉しい。お父さんとお母さんと離れとるのは、まだ淋しいけど……この仕事やってて良かったって思える。あたしは、もう大丈夫だよ」

 

 やっと、そう言えた。


 親子三人で抱き合って泣いた後、安は再び寝てしまった。

 しかしその顔は安らかで、幼ささえ感じる寝顔だった。

 母親は安の頭を撫で、父親は手を握っていた。

 きっと圭もここで一緒に喜んでいると、両親には分かった。あの頃の親子四人が揃ったようだった。




 知華と香西に安の容態が安定したと連絡が入ったのは、さらに三日後の事だった。

 二人は居ても立ってもいられず、学校が終わると制服姿のままで病院に向かった。

 はやる気持ちを抑えて病室を聞き、エレベーターに乗って、安の元へ行った。

 個室のドアを開けると、ベットの上に座り、本を読んでいる安を見た。

「知華、那津」

 と笑って迎えてくれた姿を見た知華は、もう涙が流れて顔がくしゃくしゃだった。

 駆け寄ると安に抱きつき、「安ちゃん安ちゃん」と嗚咽とともに名前を呼んだ。

 安は目を丸くし、戸惑いながら「どしたん?」と言おうとしたが、香西の顔を見て息を呑み、言葉を失くした。

 彼も目に涙をためて、二人を見ていた。

 

 安は、知華と香西が何をして、何を見たか紅野と宇田から聞いてはいた。

(きっと心配をかけたし、迷惑もかけた。二人に会ったらまずは元気な顔を見せてお礼を言おう)

 そう考えていた。


 しかしいざ二人が涙する姿を見ると、安は何も言えなくなってしまった。

 知華を抱きしめて、二人で泣いた。

 あまりにも知華が声を出して泣くので、安は「そんなに泣かんでや……」と涙声で言った。

 しかし、香西から「当然やろ」と言い返されてしまう。

「あんな状態の友達見て、もう一週間やぞ。どんだけ俺らが心配して、悩んで、ここに来たいと思ったか」

 そう言われると、何も言葉を返せなかった。

 安は

「うん……うん……。そうよな。ごめんな。元気になったよ」

 と改めて泣きながら笑った。


 ひとしきり謝り泣いて笑ったら、三人の気分は晴れた。

 やっといつものように話が出来そうな状態になると、佐藤さんが姿を現した。ずっと病室の外で待っていたのだ。

「入ってくれば良かったのに」

 安が赤い目でそう言うと、

「そんな訳にはいかんやろ。友達同士の時間がいるって」

 と言った。

 そして、目を細めて安を見た。

「安ちゃん、ようやったな。凄かったで。頑張ったな」

 と、半透明の手で頭を撫でた。

 触れられないはずのその手から、確かな温かみと手の感触を感じた。

 安はそれを味わうように目を閉じ、「うん」と短く返した。

 ひとしきり撫で終わると、佐藤さんは次に知華と香西を見た。

「二人とも、ありがとうな。安ちゃんの元気な姿をみれたから、やっと言えるわ。これでホンマに一安心や」

 三人はその言葉に頷いた。

 一連の悪霊退治は、やっと終わったのだ。



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