表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリカゲ  作者: 栢瀬 柚花
6/49

特別な友人①


 次の登校日は、幸いにも連休明けだった。

 おかげで、知華はオマモリサマと香西の事を繰り返し考えることが出来た。


 今思い返しても、心臓が鼓動を早くし体が強張った。

 あれは間違いなく命の危機だった。

 あのままオマモリサマに目を見つめ続けられていたら、どうなっていたのか。

 香西が泥を投げつけたことで視界がそれ、事なきを得たのだろう。


 香西は知華にとって授業をサボり、教師に楯突く不良生徒という印象だった。

 しかしオマモリサマに立ち向かった事、苦しみながらも泥を投げつけ助けてくれた事を思うと感謝したし、お礼も言いたかった。

 彼と話したい気持ちが強くなっていったが、連絡先は勿論、家も知らない。


 連休後半は早く学校に行きい気持ちが高まりウズウズして、意味もなく部屋を片付ける始末だった。


 オマモリサマとの一件を考える以外にも、知華には気になることがあった。


 それはチラチラと視界に映る『何か』だった。


 はっきりと姿は見えない。

 しかし不意に視界の隅に、影のような物がフッと通り過ぎる事があった。

 これまでそういった類のものを見たことがないので、あまりに気にしないようにした。


 他には『音』だ。

 それは天井だったり夜の庭からだったり、ボソボソと聞こえた。


 気のせいかと思えるほどの音量だったが、じっと耳を澄ませば確かに聞こえた。最初はラジオの音か、近所の人かと思っていた。しかし時間帯も声の性別も違うので、他の人には見えない『何か』であるのだろうと考えていた。


 これらがオマモリサマと関係あるのか、そとも恐怖体験をした故の結果なのか、知華には判別がつかなかった。

  


 ようやく平日となり、はやる気持ちを抑えながら登校した。

 そわそわ気分のせいで、いつもより早く家を出た。

 時間が違うせいか、普段すれ違うサラリーマンや犬の散歩をしているお爺さんとも出会わなかった。

(ちょっと時間ずらしただけで、人少なくなるんじゃな)


 歩き慣れた道を進んでいると、前に真冬のコートを着たおばさんが立っているのが見えた。

 黒いツバの大きな帽子を被っているので、その顔は見えない。


 一見すると高級そうな身なりで、ロングコードの下からブーツが少しだけ見えている。

 九月下旬とは言え、まだまだ暑い日が続いていたので、真冬の格好に違和感を覚え、足を止めた。

(凄い寒がりなんかなぁ)

 進むか躊躇したが、迂回する道もないため、おばさんの横を通り過ぎるしかない。


 再び足を動かし始めた時、小学生が数人が賑やかに横を通り過ぎた。

 おばさんを一切気にしていない。

 おばさんの頭が小学生の動きを追って動いたが、それだけだった。

(何も怯えることないか)

 そう思い足を進める。


 おばさんの横に来て、通り過ぎた。

 先程と同様に、知華の動きに合わせておばさんの頭が動き、見られているのを感じた。


 しかし話しかけられるわけでもなかった。

(気のせいか)

 安堵して先に進もうとした時、急に耳元で声がした。

「気のせいじゃないからな」

 まるで顔のすぐ横で呟かれたような近さに、思わず振り返った。


 おばさんは知華を見ていた。

 体は正面のまま、首だけ百八十度ぐるりと後ろを向いて。


 そして今度は耳元ではなく、直接頭に響くように声がした。

「気のせいじゃないよぉ」

 ニタニタ笑っているような、楽しげな声。

 知華の心臓が早鐘を打った。

 指先は冷たく冷えていく。

 知華は叫び声を上げることもできず、学校まで全力で走った。

 


 校門に着く頃にはろくに呼吸が出来ないくらい息が上がり、脇腹が痛いくらいだった。

 遅刻する時間でもないのに激走してきた知華を見て、他の生徒達が不思議な目で見てくる。

 何とか息を整え気持ちを落ち着かせ、正面玄関に向かった。


 教室に入ると知華はすぐに香西を見つけた。

 彼もすぐに知華を見つけたようで、目が合った。

 いつもの友達の輪から抜けて、香西はスタスタと近づいてくる。

「あれから大丈夫やったか?」

 挨拶もなく開口一番、そう聞いてきた。

 香西の方も早く話をしたかった様子が伺え、知華はくすぐったい気持ちになった。


 彼の友人は意外な人物に話しかけている事に驚き、会話を止めた。珍しそうに二人の事を見ている。

 知華はその視線を感じつつも、話しかけた。

「おはよ。うん、平気やったよ」

「なら、良かったけど」

 香西を見ると、顔や腕に絆創膏を貼っている。

「なんか、巻き込んでごめん…。怪我とか大丈夫なん?帰り道のこと、あんまり覚えてなくて」

「擦り傷とかだけじゃけ、平気」

 そこまで会話するとさすがに視線が痛くなってきたので、二人は教室の外で話すことにした。

 


 教室が並ぶ一番奥の非常階段には誰もいなかった。

 ここならホームルームが始まるまでゆっくり話ができそうだ。

 少し落ち着いた環境になったので、改めて知華は香西を見た。


 半袖制服の彼の腕には、絆創膏があちこちに貼られている。

 ズボンには泥汚れが少し残っており、特に裾に汚れが目立つ。

「体調、大丈夫じゃった?帰る時寒かったし、風邪とかひかんかった?」

 知華の視線が絆創膏を見ていることに気が付き、香西は軽く言った。

「平気。羽原こそ、家族に色々と言われんかったか?かなり酷い格好で帰ったじゃろ」

「大丈夫。二人とも遅くに帰ってきたけ」

 そうか、と安堵した表情で笑った。

「あいつ、何じゃったん?オマモリサマとか言うてたけど……」

 恐怖心からか、小声になって香西が問うてきた。

 あの出来事で、二人ともオマモリサマに恐怖を植え付けられたのは確かだ。

「わからん。でも、人間じゃないって、知っとったんよ」

 そこで知華は改めて、オマモリサマと出会った時のことを全て話した。


 香西は静かに話を聞き

「普通なら到底話せんわな。辻褄合わんのにあいつについていったのも、化け物って知っとったからか」

 と納得したようだった。

 知華はうん、と頷く。

 香西はごめんな、と謝罪した。

「危機感なさすぎ、とか言うたけど訂正するわ。事情知っとったら、納得やな」

 その言葉に安堵感を覚えた。


 あんな体験をしたとは言え、全てを話して香西がどう受け止めるか分からず、不安があった。

 しかし彼は素直に事実を受け入れてくれた。

 二人の間に、共通の体験をした者同士特有の絆ができていた。


 オマモリサマの事を話せられる相手が出来て安心した知華は、心の荷が軽くなったのを感じた。

 それと同時に、今朝見た光景を話したい衝動に駆られる。

「あんな、実はちょっと聞いてもらいたいことがあるんよ。色々と気になることがあって」

「オマモリサマの事、以外でか?」

 うん、と頷く。

「あの日以来、なんかチラチラ見えるんよ。家の中とか、外を歩いとる時とか。たぶん、オマモリサマと似たような存在のもの」

「……幽霊とか、化け物ってこと?」

「たぶん。他の人は気にしてないみたいじゃけ、見えないんかなって思っとる。あとは音。ボソボソ喋ってるみたいな。香西くんはどう?なんか変わった事ある?」

 彼は顔を横に振った。

「そっか。もしかしたら同じかもって思ったんじゃけど」

 そこでちょうど予鈴が鳴った。

(まだ話したいことあったのに……)

 その気持ちが顔に出ていたのだろう、香西は「昼休み、中庭でゆっくり話そ」と誘ってくれた。

「またあとで、詳しく話してや」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ