器探し
放課後、知華と香西は明日の作戦のため羽原家に移動した。
家に入ると挨拶もそこそこに二階へ上がり、早速安に電話をする。
いつものようにカメラをつけて、こちらの姿を映した。
『明日の朝、動くよ』
安の説明が始まった。
『除霊はあたし一人でやる。結構強力なものを持っていくから、大丈夫。問題は、どこで除霊するか』
悪霊は今、住宅街にいる。それを移動させなければいけない。
公衆の面前で大立ち回りをする訳にはいかない。
一番は知華の家だったが、今は兄の和輝がいる。
外出する様に促しても、途中で帰宅されては事だ。
出来れば人気がなく静かな場所で、外から見えない所がいいと安は言った。
『あたしは土地勘ないから。地元の二人、良い所ある?』
羽原家から一番近いのは、おばさん悪霊を迎え撃ったあの公園跡地だ。
しかしご近所に声が聞こえてしまう。
そうなると、住宅街を抜けた先だ。
「ばっちゃんの畑がある、あの場所は?」
香西が提案した。
オマモリサマと対峙し、ミヅチカに助けられたあの場所。
知華は顔に手を当てて考える。
「確かにあそこなら誰もこんし、周りが森じゃから目隠しになる。ここから五分くらいじゃし」
いいかもしれない。
安に場所を伝えると、そこにしようと返答された。
『場所は決まったとして、問題はどうやって誘い込むか』
それが一番の問題だった。
相手は悪霊。誘った所でついてくる保証はない。
ましてや、今回は本人が望んでいない移動だ。
安が除霊する時は、大抵依頼人の家で行う。
もしくは霊がいる所に行って祓う。
わざわざ霊の方を移動させたことは無かった。
「お師匠さんに聞いてみる?」
知華がアイディアを出したが、すぐに却下された。
『今、県外に出張除霊なんよ。大分時間かかると思うから、電話するのは気が引けるわ』
妙案が浮かばず、三人とも黙ってしまった。
一応、知華に案はあった。
しかし、これは香西が反対するだろうと思えたので、口に出来なかった。
「一個、提案がある」
静寂を破ったのは佐藤さんだった。
「昔やっとった方法でな。紅野のお師匠が得意やった。ワシは見たことはあるけど、紅野も実際にやった事は殆どない」
『どんな方法?』
安がずいっと前のめりになった。
紅野の師のやり方、と聞いて興味が湧いたのだろう。
「呪物を作るんよ。適当な物に悪霊を閉じ込める。それを持って移動して、目的地に着いたら術を解いて解放する。そんで、そこで祓う」
安が言葉を無くした。
難しい方法なのだろうか。
黙り込んでしまった安に向けて、佐藤さんが言う。
「紅野はこのやり方を好んで使っとらん。呪物に触れるリスクが高いし、呪物になる物の作成は簡単じゃけど、後始末が大変や。悪霊の力量によっては、呪物に収まりきらん事もある」
安は思案し、
『そうやね』
と返した。
「第一に、安ちゃんはこの方法をやったことが無い。初めて一人でやるには、リスクが高い」
佐藤さんの言葉を受けてなお、安は思案していた。
「呪物って、器には何を使うん?」
知華が佐藤さんに聞く。
「普通は霊が気に入った物に自分から入る。よく髪が伸びる人形とか、血の涙を流す絵、とかあやろ。あんな感じよ。要は、気に入れば何でもええ」
なるほど。
霊が気に入る、というのがポイントらしい。
「じゃあさ、家の中に霊が気に入りそうな物があるか、まずは見てみる?器がないと始まらんのやろ?」
知華の提案で、物色が始まった。
まずは知華の部屋だが、こちらには何も無かった。
一階に降りてキッチン、リビング、お風呂場、両親の部屋などを見ていく。
「ちょうどお兄ちゃんが留守で良かった」
知華はゴソゴソと物をあさりながら言う。
「それにしても、目ぼしい物がないな」
「知華、その言い方やめてくれ。家探ししとる泥棒の気分になる」
香西が苦い顔をした。
香西にとっては人様の家だ。それも最もだろう。
なかなか佐藤さんからオッケーが出るものが無かった。
呪物を作ろうとしたことがないので、何が正解なのか知華と香西には分からなかった。
最初は人形や手鏡、ネックレスなどを提案していたが、後半はハンカチ、櫛、コップ、クッションなど目に入るのもなら手当たり次第になった。
残るは、祖母の部屋。
遺品整理を多少したものの、まだまだ荷物は多い。
明らかに不要な服や靴、肌着、介護ベットなどは処分してしまった。
残っているのはアルバムや愛用していたネックレス、ブローチ、本、どこかのお土産の人形などだった。
知華が電気を付けて部屋に入る。
香西と佐藤さんも後ろから付いてきた。
この部屋に入ると、知華の心は複雑になる。
沢山介護をした場所、最期を看取った場所。
知華が入室したのは、香西に電話を掛けた時以来だ。
六畳ほどの狭い部屋。
介護ベットはないものの、タンスや遺品で床には物が溢れていた。
「ごめんな。今、整理しとる途中やから、散らかっとるんよ。今度業者の人が来てくれる予定になっとる」
物を押し分けて知華と香西が入ると、やや手狭になる。
またガサゴソと物色が始まった。
宝石箱、アルバム、L判の写真入れ、毛糸で出来た人形、折り紙の鶴、補聴器。
やはり、何も無さそうだ。
自然とため息が出た。
「やっぱり、何もないか……」
諦めそうになって言う知華に、香西は
「こうなったらウチも見てみるか?」
と提案した。
ここまで見て何も無かった。
場所を変えたほうがいいかもしれない。
「なら、早速行こう」
二人は香西家に移動することにした。
佐藤さんは知華の傍で浮遊しながら、あの悪霊をチラッと見た。
「あの悪霊、まだ知華ちゃんを見とるな。感じるものがあるんやろ。手は出してこんけど、執着した目をしとる」
「ブレスレットつけとっても、穢があるのは分かるんや」
「ああ、分かる。完全に遮断は出来んからな」
以前、紅野も言っていた。身代りにはなれないが、守ってくれると。
「これ外したら、どうなる?」
知華がブレスレットを付けた腕を上げた。
「守りがのうなるけ、格好の餌さや」
(やっぱり、そうなんや)
何となく知華が考えている事が分かった佐藤さんは、目の前に移動した。
知華は進路を塞がれて、足を止める。
「気持ちは分かるけどな、安ちゃんは了承せんと思うで。勿論、ワシもや。一番反対するんは、香西兄ちゃんやろ」
チラッと香西に視線を向けた。
そうだろうと、知華も思っている。
以前、我が身を顧みることはするなと、懇願された時の事を思い出す。
あんなにも辛そうな顔は見たくない。
「分かっとるよ。ホントの最終手段でって思っただけ。心配せんで」
香西家に着くと、彼は居間に案内してくれた。
この家に入るのは初めてだ。
香西家は築数十年が経っているようで、知華の祖母の家を思い起こさせた。
祖母の家はもう解体されたので、なんだか懐かしい気持ちになる。
縁側に、日の光に柔らかく光る障子。
逆立った畳、襖、太い木の柱、長押に鴨居。
欄間は見事な手彫り花が彫られている。
祖母の家でもこの見事な彫刻を見るのが好きで、上ばかり見ていた。
首が痛くなったので、祖父が踏み台を持ってきてくれたのを覚えている。
「古臭い家やろ」
知華の視線を見て、香西も欄間を見た。
「中古物件やからな。築年数も四十年以上はある。所々すき間風入るし、夏は暑いし冬は寒い」
古い家特有の環境だ。
「でも、綺麗。あたしこういう家、好きだよ」
興味津々の眼差しで欄間を見ているので、香西は少し嬉しくなった。
「おばあちゃんの家も、こんな感じでさ。あの彫刻みたいな彫り物ばっかり見てた。襖破った事もあるし、障子の張り替えもさせられたよ」
「分かる。あれ、結構大変よな。ヨレヨレになって、上手くピンと張れんのよ」
「そうそう」
二人の話に花が咲きそうだったので、
「お二人さん、探し物しに来たんやでー」
と佐藤さんが現実に引き戻した。
慌てて呪物の器探しを始める。
まずは居間を捜索することにした。
二人はそれぞれ別のタンスの引き出しを開け、探し始める。
(人様の家だと、確かにいい気分しない…)
知華は手を動かしながら思う。
良い物が無さそうなので、場所を変えようと居間を見回す。
立派な仏壇と神棚がある。
知華は仏壇に目がいった。
果物とお饅頭がお供え物されている。
線香の燃えかすが香炉に残っている。まだ香りがするので、今朝付けられたものと分かった。
花もまだ新しい。毎日水が交換されているようだ。
仏壇の中央の写真立てには、女性が映っていた。
穏やかにほほ笑んでいる、三十代らしき女性だ。
「これ、お袋」
知華が何を見ているのか気が付き、香西が傍に立った。
「五才の時、事故でな。割と美人やろ?」
香西は誇らしげに言った。
確かに、綺麗な人だった。
香西と髪の色や鼻の形がそっくりだ。
「うん。綺麗な人。鼻の形が那津くんと一緒」
彼は鼻をこすった。
「知華のオヤジさんと、同級生らしいで」
「えっ、そうなん?」
初耳だ。
「あと、オヤジとは同じ高校の先輩後輩関係って言っとった」
それも初耳だ。
「なんで知っとん?」
「この間、知華の家で晩御飯食べた時、オヤジさんが教えてくれた」
(そんな話しとったんじゃ…)
知華と母が夕飯準備してる時、二人きりで何を話したのかと思っていたが、まさかそんな昔話をしていたとは。
知華は写真を見る。
幼い那津が母親を失いどう思ったかは、想像に難くない。
母親の心境を思っても、子供を残して逝くことは辛かったし、無念だろうと思えた。
「お袋は、事故に遭いそうだった俺を庇って死んだんよ」
香西は落ち着いた声で教えてくれた。
「じゃから、俺は自分を犠牲にするやり方は好かん。お袋に怒っとるわけじゃないよ。ただそんな事せずに、二人が助かる方法はなかったんかな、とは思う。残されると、悲しいし淋しい」
静かなその声は部屋に溶けていく。
香西が「自分を労れ、無理をするな。そうやないと見てられん」と懇願していた事を思い出す。
その原点はここにあったのかと、知華は写真をもう一度見た。
「そうやね。残された方は人生が続いていくから、辛いよな」
知華は昨日、佐藤さんに言われた事を思い出した。
「きっと那津くんのお母さんも、偲んで忘れんでくれるのは嬉しいと思う。でもな、心を残しすぎたらいけんのよ。辛くても前を向いて進まんと。あたしらは生きとるから」
知華は香西をまっすぐに見た。
「あたしらは沢山笑って、泣いて、楽しまんと。精一杯、好きなことしよう」
香西はこの言葉にとても勇気づけられたし、知華の寄り添ってくれる気持ちが嬉しかった。
「まぁ、全部佐藤さんの受け売りなんやけど」
笑った知華を見て「ありがとうな、知華」と香西は微笑んだ。
仏前に手を合わせる二人を、佐藤さんは見ていた。
この二人が安と知り合い、友人になってくれて本当に良かったと思えた。
修行開始の頃から佐藤さんは安の傍にいる。
霊媒師になった理由も知っている。
だからこそ心から信じ、支えあえる友人が安には必要だと、ずっと思っていた。
これまで安の支えは紅野と宇田だった。
しかしこの二人は友人ではない。相談は出来ても、気兼ねなく他愛もない話をし合える存在ではなかった。
もっと身近にそんな存在がいてくれれば、きっと安は強くなれる。霊媒師としてではなく、一人の人間として。
そう考えたので、佐藤さんは安に砕けた口調で話しかけ、お調子者の様に接した。そうして寄り添い、見守ってきた。
(じゃけど、もうその心配はいらんな)
安には友人が出来た。
霊感の事も霊媒師の事も全て打ち明けられる友人が。
それが心の底から嬉しかった。
(今なら、思い残すことはないかもしれん)
そう思える程に。
感慨にふけっていると、微かな気配を感じて佐藤さんは現実に引き戻された。
そこは仏壇の奥。
小さな扉の中が気になった。
「知華ちゃん、その仏壇の奥の扉。何か入っとる?」
言われた知華は屈んで仏壇の奥を見た。
小さな観音開きの戸が見える。
「那津くん、佐藤さんがこの扉の奥が気になるみたい」
香西は言われて、奥を覗き込む。
「ここは滅多に開けんな」
そう言い、手を伸ばす。
火立て、香炉、おりん、線香差を順にどかせて、戸を開ける。
そこにはポチ袋ほどの大きさの封筒が入っていた。
取り出すと軽い。少し膨らみがあるので、何か入っているようだ。
香西は封筒を逆さにする。
滑るように出てきたのは、指輪だった。
銀色に光るそれは、少し傷がついているものの、まだ綺麗だった。
「これ、お袋の結婚指輪…。オヤジがおんなじ物付けとる」
ここ仕舞ってあったのかと、香西はまじまじと見た。
父親の指には、今だに結婚指輪が光っている。
雑で手入れもしないのでここまで綺麗ではないが、同じ物と分かった。
「それ、結構思い入れがあるやつだよね。佐藤さんは、これならいいかもって、言っとるけど……」
知華が遠慮気味に言う。
それも当然だ。
香西も仕舞われていた事を知らなかった。きっと、妻の死後にこっそりと残されたのだろう。
ここに入れたのは香西の父親に他ならない。
大事な物だから、仏壇の奥に入れたのだろう。
「これを呪物にしたら、どうなる?もう帰ってこん?」
知華に、というより佐藤さんに尋ねた。
「悪い者をいれるから、穢れるらしいよ。でもお祓いして清めて、香西くんがきちんと心を込めて手を合わせれば、ここに戻ってこれるって」
それを聞いて、香西は写真立ての母親を見た。
(使うてもええか?俺の好きな人が困っとる。それを何とかしてやりたい。これがあれば、何とか出来そうらしいわ。必ず返すけど、この綺麗な状態では帰ってこんかもしれん。それでも許してくれるか?)
写真を見つめても、答えはない。
しかし、なんだか『いいよ』と言われた気がしたので「知華、これにしよう」
と振り返った。
「ええの?」
香西は頷く。
「何となく、ええよって言われた気がした」
それを聞いて、知華は一瞬目を丸くした。
チラリと知華の視線が香西の背後を見たが、ほんの一瞬のことだったので彼は気が付かなかった。
知華は「分かった」と返事をすると、香西の手に自分の手を重ねた。
「絶対に成功させて、ここに戻そうな」
器候補が見つかったので、二人は羽原家にもどった。
二階の自室に入り、早速安に連絡する。
呼出音がして数秒で、安は出た。
「見つかったよ」
知華はそう言って、カメラに映るように指輪を見せた。
「俺の亡くなったお袋の結婚指輪」
香西が言うと、安は顔色を変えた。
『そんな大事なもんを?』
明らかに反対している声色だった。
「仕方ないんよ。これが一番気配がする。思い入れが強い分、気に入りやすいと思う」
佐藤さんが安に説明した。
「他にはなかったんよ。あたしの家も那津くんの家も探して、やっと見つけのが指輪」
一時間以上連絡がなかったので、苦戦しているのだろうと予想はしていた。
しかし、形見を使うのは本意ではない。
『あたしも探してみたけ、佐藤さん、検分してみてよ』
安が頼むと、佐藤さんはまたスマホに向けて移動し、スッと消えた。
画面の向こうに姿が現れると、下の方をじっと見つめている。
画面外に物があるようだ。
『悪くはないけど、あの指輪の方が勝っとるな』
暫く眺めた後、佐藤さんは安にそう言った。
安はなんとも不服そうに、口を結んでいる。
「那津くんの指輪の方が、いいみたい」
知華からそう言われ、香西は頷いた。
「安井。ちゃんと返ってくれればええから。ギズがついても欠けても、指輪が一部になっても構わん。物として残って、帰ってくればそれでええよ」
そう言われても、安の表情は晴れなかった。
「気にしすぎるな、安井。息子の俺がええって言っとるんやから。俺はこれくらいしか協力できんのやから、させてくれや」
香西がそう言うと安は申し訳なさそうな顔で
『ごめんな、那津。ありがとう』
と頭を下げた。
これで器は決まった。
次は悪霊を器に入れる方法だ。
佐藤さんによると、誰かが近くまで持っていき、器に入った事を確認後、お札を張って簡易的な封印を施す。
呪物となった器を持って移動し、準備が出来たらお札を剥がして除霊に入る、といった手順になるらしい。
次の問題は、誰が近くまで器を持って行くか、だ。
これには、いち早く知華が名乗りを上げた。
「あたしが行く。言いたくはないけど、穢もあるし霊感もあるから、いい囮になるやろ」
そう言うと、香西の目が鋭くなった。
「知華」
怒っているのが分かる。
「だから、言いたくないって言ったじゃん。本心では嫌よ。でも指輪に入ってくれんかった場合を考えてみて。あたし自身が囮になって、目的地まで走っておびき出す。最終手段は、それしかないやん」
知華が安を見た。
「安ちゃんは霊力が強いから、いい囮になる。でも除霊のために力を温存せんといけん。あたしなら、その必要がない。ブレスレットを外せば無防備になるから、あたしに寄ってくる。指輪を付けて近づいて、指輪に入ったらお札で封印。入らんかったら、佐藤さんに見てもらいつつ走って目的地まで誘導して、そこで安ちゃんが結界を張って閉じ込める」
知華が話している時、香西が怖い目つきでこちらを見ているのを感じた。
しかし、それを無視した。
「その作戦でどう?」
安は何とも言えない顔をした。
霊媒師として、誰かを囮に使うなど言語道断だ。
自身の体に降霊をする除霊方法もあるが、リスクがあるので余程の実力者でなければ出来ない。
そして、安にはそんな実力がまだない。
安は黙っていた。
しかし決断をするのは、安だ。
手段も方法も決まった。
あとは覚悟だけだ。
『第一の作戦は呪物に憑依させる方法でいく』
安が言った。
『……もし指輪に入らんかったら、知華に囮をお願いするかもしれん』
「安井!」
香西が怒鳴った。
強く握られた拳が怒りで震えていた。
『分かっとる!分かっとるけど……。第二の手段はホンマの最終手段や。どうしようもなくなった時だけの』
安の顔を見れば分かる。
苦渋の決断なのだ。
頭では分かるが、心では理解したくない香西は安を黙って睨んでいた。
香西にとっては、大切な人を囮にすると言われているのだ。
承諾出来るはずはない。
(せっかく、知華への思いを教えてくれたのに。見守るって言ったばっかりなのに……)
修行をもっとして、経験を積んでいれば、あるいはこんな方法を取らずに済んだかもしれない。
自分の不甲斐なさに打ちひしがれた。
大切な友人を囮にしなくてはいけない。
器には友人の家族の形見を使う。
どれもこれも、安の力が足りないから生まれた結果だ。
『那津、あたしを恨んでもええよ』
泣きそうな顔だった。
『……未熟でごめん』
震える声で言うと、安は下を向いてしまった。
安の背中を、佐藤さんが慰めるようにさすった。
安の姿を見ていた知華は、香西の様子をうかがった。
怒っているが、困惑もしている。
香西とて、安の気持ちは分かっているのだ。
「那津くん」
香西は安から目を背けず、「分かっとる」と言った。
「安井、俺は怒っとる。お前にやない。何にもできん、自分にや。あと、原因になっとる悪霊にも」
そもそも、悪霊が移動してきたからこんな事態になっているのだ。
どう考えてもそいつが悪い。
「悪霊に従わされとる霊たちは、悪霊が除霊されれば解放されるって聞いた。悪霊を祓って、自由にさせてやって欲しい。それが安井の仕事やろ」
安は香西を見た。
強い眼差しはパワーに溢れ、安に勇気をくれた。
「あと、知華の事もよろしく頼む。守ってやってな」
安は涙を拭った。
打ちひしがれて泣いている場合ではない。
知華を守って、悪霊を除霊して、霊たちを解放する。
安は自分の頬を打った。
(あたしにしか出来んことを、やる)
『知華、那津。やるよ』
気合が入ったのが分かり、知華と香西は安をみた。
『明日の朝、知華の家に集合な。絶対に除霊してやる』




