他愛もなく②
予定通りの時間が来ると、知華は行ってきますの挨拶もそこそこに家を出て、香西とコンビニの前で落ち合った。
邪魔にならないよう、駐輪場で待ち合わせだった。
「あれからどうなん?変わりない?」
香西は知華と会うと必ずこれを聞いてくる。
メッセージのやり取りは増やしたが、それでも顔を合わせれば確認してくるので、(信用ないんかなぁ)と知華は考えていた。
「平気だよ」
実際、幽霊や小さな怪異を見ることはあっても、恐ろしいモノに遭遇することは無かった。
「あれから安井から連絡あるか?」
三人でのグループメッセージ意外にも、安と二人だけでやり取りすることもあった。
電話をするとこが稀にあり、その時はスピーカーにして佐藤さんも参加するのだった。
「うん。でもほとんど雑談。最近は佐藤さんの愚痴とかもくるよ」
「穏やかやなぁ。俺もたまに連絡来るんじゃけど、変な画像が多いんよなぁ…。知華がおらん所でしか送ってこん、って所が安井らしいけど」
「変な画像?」
ぼやく香西は知華にスマホの画面を見せてくれた。
香西と安の二人だけのやり取りの画面。
写真が多く、文字のやり取りは短文が多い。
写真は草がボウボウと生えた草原、神社の鳥居らしい一部、道端の石など、意味不明な物が多かった。
「なんなん、これ?」
「お祓いとかに行った所で写した写真らしい。じゃけど、どういう謂れがあるんか教えてくれんのんよな」
嫌そうな顔で写真を見ている。
安のことだから、嫌がらせなのかもしれない。
「知華から見て、何か映っとん?」
「いいや、何にも」
「変なモノを写しとるわけじゃないんじゃな。それだけでも、安心したわ」
「流石に悪い物をわざわざ写して送ってこんのんじゃい?霊媒師やし」
「まぁ、そうかも知れんけど。害はなくても幽霊がおる所とかなんかなぁ、って思っとったけ」
そんな話をしていると、あっと声がした。
二人が顔を上げると、香西の友人の葛原が立っていた。
どうやら部活帰りのようで、ユニホームを着ている。
そして、何やらワナワナと震えていた。
「どうしたん?」
香西が聞くと、葛原はビシッと香西を指さした。
「お前ら、やっぱ付き合っとったんかぁ!!」
急な大声に知華はびっくりした。
「声でか!っーか、ちゃうわ!」
香西は顔を歪ませた。耳に響いたのか、片耳を押さえている。
「そんなにくっついてスマホ見よってからに!!」
言われてみれば、二人の距離はかなり近かった。
同じ画面を見ていたので、仕方ないことではある。
「いや、写真を見せてもらってただけだよ」
知華は訂正するが、葛原は信じていないようだ。
「最近、いやに二人でおるし、コソコソ話しとるし!どうにも怪しいって話しとったんじゃ」
「それでお前ら、学校でもヒソヒソしとったんか?」
「彼女持ちとは一緒にゲーセンもカラオケも行かんで!」
どうやら香西の友情の危機らしいと知華は思ったが、当の彼は呆れ顔をしている。
「なら、圭吾も輝とも遊べんな」
うっ、と葛原はたじろいだ。
二人とも知華とクラスメイトだ。
なる程、彼女いたんだと知華は知らない情報を得た。
そこに安がやってきた。
仕事ではないので、最初に出会った時の様なフリルがついた服を着ている。
隣で佐藤さんがヒラヒラと手を振っていた。
安はいつからいたのか、葛原の言葉を受けて
「やっぱ、二人ってそうじゃったん?!」
と驚いている。
佐藤さんが横で恥ずかしそうに「キャー」と顔を赤らめていた。
「なら言ってよ〜!ええよ、このまま二人で出かけても。あたしは温かくその後ろをついて行くから!そして、後日詳細に会話内容と出来事を教えて!」
興奮気味に喋っている。目がキラキラだ。
奈海のようだ、知華は思った。
佐藤さんは安のマネをして目を輝かせていた。
それが面白くて知華は笑いそうになった。
「いや、なんで安ちゃんもそうなるん?こないだ、三人で集合って連絡したやん」
冷静に知華が答える。
しかし安はその部分を無視して続けた。
「いや〜いいな、いいな!アオハルだぁ。しかぁし!!相手が那津、というのがきにくわーん!!!」
ビシッ、香西を指差して言い切った。
「じゃったら、俺が来るってわかった時点で断れよ」
「いざという時、那津を盾にして逃げるんじゃ!そうい意味で、必要なんじゃ」
「あー、俺ってそういう役目なんか。っつーか、いつの間にか下の名前で呼んどるし。まぁ、ええけど。安井やし」
呆れた顔で香西が返している。
「あと、今日誘ったの俺じゃけどな」
目の前で繰り広げられる光景に、葛原は呆気にとられていた。
学校では皆をいじる側の香西が、いじられている。
しかも女子に。
「終わった?」
舌戦の終わりを読み取った知華が冷静に見て返す。
その姿も葛原にとっては意外だった。
もっと感情を表に出さないタイプだと思っていた。
呆然と3人を見る葛原を知華が気使い、安を紹介した。
「ごめんね、葛原くん。この人は安井安さん。あたし達と同級生だよ」
「ああ⋯、よ、よろしく。二人と同じ高校の葛原彰人です」
「安井安です。香西君はいじり友達だけど気が合いません。知華は大事な友達です。私のことは好きに呼んでください」
一気にそこまで言うと、丁寧にお辞儀をした。
いまいちキャラが掴めない、という顔をしながら葛原はお辞儀を返した。
「どうも、ご丁寧に⋯。なんか⋯大変そうやな、那津」
「そう思ってくれるだけで、ありがたいわ」
香西が遠い目をして葛原を見ていた。
分かってくれるか、と訴えている。
「これからどっか行くんか?」
「まぁ、ちょっとな」
香西は濁したが、先程の『那津を盾にする』という台詞から、詳細は今聞くまいと葛原は思い、同情の視線だけ向けた。
そして明日、那津の話をじっくり聞いてやろうと決めた葛原だった。
「じゃ、そろそろ行くで」
香西は女子二人に声をかけ、葛原にはまたな、と手を振った。
三人の背中を見送ると、葛原は早速グープメンバーに今しがたの事を連絡した。




