見えんから①
放課後、二人はそそくさと荷物をまとめ、早々に教室を出た。
心なしか早足になり、それぞれの自宅に荷物を置くと、着替えもそこそこに落ち合った。
まだ集合時間には早い。
知華もそわそわしており、落ち着きなくブレスレットを確かめている。
「あれから付きまとい女の子はどうなん?まだ傍におるん?」
「ああ、そういえばいない」
知華は自分の横を見て、それから周りを見渡した。
いつの間にか離れたらしい。
「この辺りに来ると、いつの間にか離れとることが多いんよな。制服からして、結構昔の人じゃと思う。おじさんもお婆さんも、今はおらんよ」
三人の他にも霊がいるか聞いてみたが、誰もいないらしい。
「おかしいな……。あの霊道が開いてから、いっつも誰かは歩いとるのに」
不安そうに呟いている。
女の子の霊と同じく、他の霊たちも、いつもと違う雰囲気を感じて身を潜めているのだろうか。
香西は、紅野からもらった御守りに手をかけた。
あれから紐をつけ、なくさないよう首にかけている。お風呂の時以外、肌に離さず身につけていた。
触れているとどうしてか、心が落ち着いた。紅野が祈祷をし、想いを込めてくれたからかもしれない。
「今日は出来るだけ、安井を見守ろうな。俺らは何にも出来んけど、せめて応援したろ」
知華は香西の真剣な目を見て、頷いた。
十分ほど経つと、安がやって来た。
両手に大荷物を抱えて、背中にも登山に行くような大きなリュックを背負い、息を切らしている。
必死の様子に二人は手を貸し、それぞれ荷物を持った。男の香西が持ってもずっしり重く、女子が持つには無理があると思えた。
「こんなに必要なん?」
持とうとした荷物の重さに負け、知華は地面にドサッと置く。
「まあ、色々と必要でな」
寒空にも関わらず、うっすらかいた汗を拭いながら、安が答えた。
「俺らに手伝えることあるなら、一緒に準備するで」
うん、と頷く。
三人は霊道の穴まで移動することにした。
安と知華が一つの荷物を2人で持ち、よたよた歩く。
香西も荷物を一つ抱え、後ろをついていった。
穴は目隠しされているので、香西には見えない。
穿たれた穴の場所を思い出しながら、彼はふと考えた。
霊道を祓う、と言うが今は夕方。
これから帰宅時間になるので人も増える。
いくらなんでも、目立ち過ぎやしないだろうか。
こんなにも大荷物なのだ。色々と物を設置したり、御経を唱えたりするのだろう。公衆の道でそんな事をしようものなら、不審がられて警察を呼ばれてしまう。そんな事になれば、お祓いどころではなくなってしまう。
香西は安にその事を聞いてみた。
「大丈夫。道は標識とかで通行止めにするけ。裏ルートで警察にもちゃんと言って、許可とってある。今、宇田兄が先に言って下準備してくれとる」
警察も動くのかと、知華と香西は舌を巻いた。
そういえば以前、警察とも縁があると言っていた。こういう時も協力してもらえるのか。
「警察が動く時は手続きとかあるけ、時間かかるんよ」
角を曲がると、工事看板が見えた。
三角コーンとポール、『通行止め』と書かれた看板が立てかけられ、すでに侵入出来ないようになっている。
安はひょいとポールを越え、中に入った。
少し歩くと宇田がせっせと準備をしていた。
合流した四人は挨拶もそこそこに、荷物を開けて中身を出していった。
「荷物ありがとうな。重かったやろ?」
宇田が気遣わしげに視線を向けた。
「こんなにも必要な物があるんですね」
会話はしつつ、手を動かしながら作業を続ける。
御香、マッチ、布、タスキのようなものにおりん、護符、スプレー、大きな鍋などなど。
知華と香西が出した物を、安が手際よく設置していく。
「お祓いだけじゃなくて、浄化作業もいるからな。いざという時の供養も出来るように、僕も参戦ってわけ」
言われてみれば、宇田は数珠を複数個つけている。
肩からも文字が書かれたタスキのようなものをかけていた。
「準備が出来たら、君たちは佐藤さんと一緒に下がっておいて。何が起こるか、分からんから」
知華が空を見て何やら聞いている。
「そうやね、分かった。佐藤さんも巻き込まれんようにな」
どうやら佐藤さんと会話しているらしい。
大きな鍋が道に置かれ、幾つもの御札が並べられた。
御香が焚かれ、その煙で辺りが霞む。
工事中の看板に挟まれた道全て、目眩ましがかかり常人には何をしているか見えないばかりか、声も聞こえないそうだ。
香西は結界の中にいるので例外らしく、普通通り見えるし聞こえると教えてもらった。
ただし、知華達のように『見える』ようにはならないので、何が起こったかは分からないだろう、とも言われた。
「なんかあった時は、あたしが引っ張って逃げるから大丈夫よ」
知華がまかせて、とばかりに自信満々に香西に頷いてみせた。




