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クリカゲ  作者: 栢瀬 柚花
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ショッピングモール

 


 文化祭後、通常授業が戻り日常が帰ってきた。


 知華は相変わらず幽霊や悪意あるモノと遭遇するが、困った事態になる事はなく、穏やかな日常を過ごしていた。


 多忙だったのは奈海で、高校三年に向けた塾の全国テストが控えていたため、平日は毎日の様に塾があるビルまで一緒に帰る日々が続いた。

 


 文化祭から一週間後の日曜日。

 ようやく全国テストを終えた奈海が「息抜きがしたい!」と泣きついてきたので、二人は映画を見に来ていた。

 映画館では幽霊も数十人おり、一緒に鑑賞するという体験を初めてした。

 最初は生きている人間かと思う程、幽霊達は生前からのマナーを守っていた。上映中は静かにし、笑いそうな場面でも声を押し殺しているようだった。半透明で微かな冷気を放っていなければ、気が付かなかったかもしれない。


 昼ご飯は映画館が入ったモールの中で食べたのだが、そこで文化祭に両親が来ていたことを初めて話した。

 これには奈海も驚いており、「何か話せた?」と心配そうに聞いてきた。


 驚きもそうだが、唐突な緊張の方が勝り、頭が真っ白になったことしか思い出せなかった。

 「びっくりし過ぎて、あんまり喋っとらん……。香西君が空気察して話してくれた」

「えっ、文化祭、香西と回ったん?」

 そこも初耳だった奈海は前のめりになり、知華に詰め寄った。目が輝いているのが分かる。

「なんか進展あった?そういや、あれからどうなん?一緒に出かけたり、帰ったりしとん?電話とかメッセージのやりとりは?」

 その勢いに仰け反りながら、「メッセージはたまにしとるよ」と返す。

「文化祭の時は販売班が一緒だっただけ。あと、共通の他校の友達がおるから、案内したんよ」

「そっか……」

 二人きりでないと分かり、あからさまにテンションが下がった。 


 食後のデザートが運ばれてきたので、それをつつきながら話を続ける。

「知華の恋バナ、進展ないなぁ」

「進展も何も、恋じゃないし」

「いやいや、香西の方は脈アリでしょ」

「ただの世話焼きなだけだって」

「それ、本気でいってんの?」

 ここまで鈍感だっけ、と思いながら奈海は知華を見る。


 思えば、これまで祖母の介護で恋愛事には無縁だった。

 恋愛漫画は読んでいるが、自分の周囲にそういった男性が現れても、自分事として捉えられないのかもしれない。

 ならあたしが一肌脱ぐしかないか、と密かに決意をする奈海。


 そんな親友の気持ちはいざ知らず、ちょうど奈海の誕生日も近いからプレゼントをこの後買いに行こう、と考えていた知華。

「そういや、香西には両親の事、何か話したん?」

 奈海に家族の話題を振られ、思わず手が止まった。


 香西には何も言っていなかった。

 何か話したくなったら、聞くと言われたは良いものの、これまでの経緯が長すぎて何処から、何を話せばよいのか分からなかった。

「文化祭で取り持ってくれたんじゃろ?」

「うん。でも、話してない」

 一言だけ答える。


 家族の話になると、いつも顔を下げて暗い表情になる。

 しかし、両親の事を決して嫌ったり蔑んでいない事を奈海は知っていた。


 もともと明るく話をする家族ではなかったが、介護の事で一人で長く悩み、相談すらできなかった環境が続いたことで、更に関係がややこしくなっているのだと考えていた。

 人様の家庭事情に首を突っ込むべきではないと思いながらも、ここまでくると外部の者が背中を押すしかないのかもしれない。

 親友の顔を見つつ、しかし奈海にはまだその後押しができないでいた。


「知華が話してもいいって思えたら、話したら?」 

 それだけ伝えた。

 言葉にはせず、知華はただ頷いた。


 それからの午後は本屋に寄ったり服を見ながら他愛もない話をして、楽しく過ごした。


 夕方モールを出ると、日が傾きかけていた。少し肌寒さも感じ、温もりが恋しくなり、温かい肉まんを買って二人で食べた。


 別れ際、そういえば来週県北に行くことを思い出した。

 それを伝えると「なんでもっと早くに思い出さんの!?」と怒られた。モールで着ていく服を一緒に選びたかったらしい。

「そんな、服とかわざわざ買わなくても……」

 と言いうと

「服装は選ばなきゃ駄目でしょ!」

 とまた怒られた。

「でも、行くの来週だよ?準備するの……」

「早くない!」

 食い気味に言われた。

「来週の土曜じゃろ?もう今日しか準備する日ないじゃん!遅い時間になったしもうお店行けんから、これからあんたの家行くよ!ある物で済ませるしかない!!」 

 知華以上に焦っている奈海を見て

(そんなに張り切らなくてもいいのになぁ)

 とのんびり構えていると、ぐいっと手を引っ張られた。

 そこから羽原家まで奈海はついてきて、一緒にタンスを物色し、服を選んだ。


 実際にあーでもない、こーでもないと散々悩んだのは奈海で、自室にも関わらず知華は隅っこでそれを見ていた。

「これでオッケーでしょ!」

 大仕事を終えたような清々しい笑顔で、奈海は帰っていった。


 その夜、お風呂から出た知華は奈海がコーディネートしてくれた服を見つつ、クスリと笑った。自分のことのように一生懸命に考え悩んでくれた友人がいることに、心底ありがたみを感じた。



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