霊媒師とおじさん①
香西と知華は覆い被さった態勢のまま、固まっていた。
少女とおじさんは二人を見つめたまま、数秒のフリーズが続く。
痺れを切らしたのか、おじさんが
「全然動かんな、この二人」
と隣の少女を見た。
それでも二人からの反応が無いので、今度は小声で
「安ちゃん、もしかしてお邪魔なんと違う?」
と耳もとでコソコソ話す。
おじさんが見えない香西は少女を見ており
「あんたが、やったんか?」
と呆けている。
「そうやで」
聞かれた少女はというと、手に持っていたおりんを鞄にしまいながら
「二人とも、怪我ない?」
と声をかけてきた。
少女は同年代に見た。
ふわふわした髪を胸元まで伸ばし、顔の横に垂らした髪は綺麗に巻かれ、動きに合わせて揺れた。
襟が大きい白いブラウスを着ており、その袖はヒラヒラとして細かなフリルが入っている。
ボタンも艶がある綺麗なもので、その周りにも小さなフリルがあしらわれている。
スカートはシンプルだが今着ているブラウスとよく合っていた。
背中にしょったビンテージ風の鞄に鈴を収めると、今度はスプレーを取り出した。
「ちょっとお兄さん、その彼女からどいてくれる?」
そう言うと香西をべりっと引き剥がし知華を立たせると、その体にスプレーを撒いた。
柑橘系のいい匂いがした。
次に肩と背中をトントン叩き、何やらブツブツとお教を唱える。
最後に背中に何か書くように指を動かすと「これでオッケー」と知華を開放した。
されるがままだった知華は、ここにきてようやく
「ありがとう。祓ってくれたん?」
と聞いた。
「そう。お姉ちゃん、結構危なかったでー」
とおじさんの方が返事をした。
知華はおじさんに目をやると「やっぱ、お姉ちゃんの方は見えとるなー」と体をクネクネさせながらアピールしてきた。
「キモいから、その動き止めて」
少女の方に言われたおじさんはしかし、クネクネダンスを続けている。
ここにきて置いてけぼりだった香西が、疑問を口にした。
「なぁ、さっきからどこに顔向けとん?キモい動きって、何?」
「ここにね、おじさんがおるんよ」
知華がおじさんを指差した。
「なんか、体をウネウネして挨拶しとる」
「ウネウネ?」
香西は少しズレた位置をみていたが、納得したようだ。
ダンスを続けるおじさんを見て、少女は呆れようにため息をつい後、知華の方を見た。
「あんた、結構やばかったよ。魅入られて入られそうやったから、追っ払ったけど。今お清めもしたから大丈夫じゃけど、今日は日本酒入れたお風呂に入ってしっかり浄化してな」
今度は鞄から何か書いた紙を取り出し、渡してきた。
『日本酒を入れたお風呂の入り方』
『数日のうちの注意点』
などど書かれている。
紙を受け取り、改めて少女を見る。
「あたしは安井安。まぁ、霊媒師みたいなことしとる。見習いじゃけど」
自己紹介した安は、ダンスを続けるおじさんを指し
「こっちは佐藤さん。享年五十八歳。死因は不摂生による心筋梗塞。奥さんとは別居中でした」
と紹介した。
佐藤さんは「よろぴく〜」とダンスしながらピースした。
「にしても安ちゃん、個人情報の配慮ナッシングや〜」
その言葉は無視され、安は知華と香西の二人を見た。
「お兄さんの方は、見えんみたいやね。でも、彼女が見えることは知っとるんや」
その言葉に二人は頷いた。
「なぁ。ワシの自己紹介、結構雑とちゃう?第一印象悪くない?」
佐藤さんは安の紹介に不満があるようで、その周りをぐるぐると周り会話の邪魔をした。
「佐藤さんを見える人が少ないんやから、ええやん。幽霊にとって死因は自己紹介やろ」
知華は年の差のデコボココンビを見ているようで、先ほどまでの恐怖心がだいぶ薄れた。
「あたしは羽根知華。助けてくれてありがとう」
「香西那津。助かったわ、安井さん」
それぞれの自己紹介が終わると「霊媒師なん?」と香西は安をまじまじと見た。
その視線を流しながら
「とりあえず、ここ目立つから移動せん?」
と提案した。
気がつけば、空き地の周りに幾人か立ち止まり三人を見ている。
地面に這いつくばったりおりんを鳴らしたりしていたので、目立ったのだろう。
全員、いそいそとその場を退散した。




