おばさん③
翌日。
昨晩話した通り材料の買い出しに立候補した二人は、友人の自転車を借りて近所のホームセンターや百均を回った。
必要な買い出しを終えた後、高校近くにある公園で休憩がてら話をした。
自動販売機で買ったジュースを飲みながら、昨晩のことを振り返る。
「あれから、おばさん見てないんよ。朝もおらんかった」
「姿見えんって、逆に怖くないか?外で見んってことは、家の方にいるんかも」
香西が怖い発想をするので、知華はじっと彼を見つめた。
その視線に気が付き、香西は気まずそうにしながらも続ける。
「だって、そうやろ?あれから家の中では見てないん?」
「見てない。……また部屋の近くに来たら、嫌やなぁ。あたしの部屋、角にあるし廊下を塞がれたら袋小路なんやもん。いざとなったら窓しか逃げ道ない」
うーんと香西は考える。
「部屋に靴置いといたらええかもな」
「あっ、それいいかもしれん」
「二階から出るって危ないけど、襲われるよりはマシ、なんじゃろか…」
二階からのジャンプか、おばさん幽霊を突っ切るか。
どちらも願い下げだが、よりマシと思われるのは前者だろうか。
二人してうーんと考える。
「ところで、そのおばさんはどうやったら消えたん?撃退方法あるなら、飛び降りるよりもそっちを試せばええやん」
昨日の事を思い出す。ショルダーバックが効いたとは思えないが、怯んだのは確かだった。
「クローゼットから出しっぱなしにしといたショルダーバックで、殴った」
意外すぎる答えに、香西は呆けた。
「マジか?効いたん?」
「…逃れたから、多分?」
疑問形な所に不安が残る。
分からない二人で悩んでも、答えは出ない。
とりあえず、次回も物理攻撃で対応しよう、と結論付けた。
「それにしても、羽原って冷静やな。逃げ道考えたり、一瞬の隙見て走ったり」
今までそんな事を言われた事がないので、実感はなかった。
「そう?ただ必死だっただけよ」
「俺ならパニックで、何にも出来そうにないわ」
「でも、オマモリサマの時は泥投げつけてくれたやん。ちゃんと判断できとるよ」
そうなんかな、と言いつつも照れているのか耳が赤い。
「ところで、おばさんはなんで羽原を追ったんかな?」
照れ隠しなのか、話題を変えた。
「目的もよく分からんし、何がしたいんか分かれば、少しマシなのになぁ」
見えるようなったが、おばさんと会話を試みたことはないので、何とも言えなかった。
「そう言われれば、おばさんと話そうとした事ないなぁ。今度やってみようか?」
その言葉を聞いて、香西は慌てた。
「いやいや!それって大丈夫なんか?余計に干渉されるんちゃう?見えるようなっただけでも、こんな事起こっとるのに」
末恐ろしい、というように顔が青くなっている。
「まぁ、そうか。でも、やってみてもいいかもしれんよ?」
あっさりと返すのを見て、香西は呆れていた。
「…羽原って、何というかあんま考えなしよなぁ。実害無かったら放置とか、幽霊に話しかけよ、とか。度胸というより、無謀な気がしてきたわぁ」
「そんな事無いやろ」
「あるやろ。そういや、羽原の家ってどの辺?なんかあった時、行けれんと意味ないからな」
「えっ、家まで来てくれるん?」
思いもよらなかった提案に、知華は驚いて香西を見た。
彼は当然、という顔をしている。
「電話とか相談だけじゃ駄目じゃろ。俺は見えんから、何が出来るわけでもないけど。後から『やっぱり教えてもらっときゃーよかった』って後悔しとーないしな」
真剣に言う顔を見て、やはりなかなかの世話焼きだと思いながらも、その気持ちが嬉しくて笑ってしまう。
「分かった。じゃぁ、学校終わったら一緒に帰ろ。道、教えるわ」




