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クリカゲ  作者: 栢瀬 柚花
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戦闘への歩み

 街外れにある廃墟。

 山の中腹にある平屋の一軒家。

 人目につきにくく、滅多に人が立ち入らないこの場所は、一時的な根暗を探していた時、偶然に見つけた場所だった。

 以前はホームレスの一人が使っていた。少し話をすれば先人は簡単に退いた。オマモリサマの見た目が若く、かなわないと思ったのだろう。

 余りにも素直に引いたので魂を取るのは免除してやった。

 

 先人が退くと、そこはオマモリサマのものとなった。


 今は畳の上に敷いた布団の上に転がっている。一枚一枚は薄い布団だったが、複数枚重ねているので不便はなかった。おおよそ痛みと言うものは感じないが、寝心地は分かる。やはり固く薄いよりも柔らかく分厚い方が好みだった。

 ここに寝転がると落ちた屋根の一部から外が見えるので、いちいち立ち上がらなくて済む。 

 オマモリサマは眠る必要はなかったが、人間の体は定期的に休息を取らなければ動きが鈍くなったので、昼に寝て夜に動くというパターンがここ百年位の習慣になっていた。


 飯田の魂は八重子の死を知って以来、ずっと沈黙している。たまに僅かな震えを感じたが、感情を読み取れる程ではなかったので無視した。


 オマモリサマは屋根の穴から空を見上げつつ、昨晩平らげた男の魂に思いを馳せていた。そしてこれから口にできる知華の魂について考えていた。

 今夜あたり、そろそろ行こうかとウズウズしていた。

 動くなら夜のほうが都合がいい。人間は昼間に活動する生き物なので、人目に触れないのなら夜だ。

 あのヒヨッコ祓い屋とやり合うのも面白そうだ。霊力のある人間の魂はまた違った意味で美味い。

 ガキの方はなにやら霊力とは違った力を持っていた。そんな魂は喰らったことがないので、味見してみるのも

いいかもしれない。


 またここ二日ばかり、知華の思考がたまに入ってくるようになった。どうやら目覚めたらしい。

 その思考の中にオマモリサマが影を飛ばした事を掴んだといものがあった。

 これは相当に面白かった。まさか気がつく人間がいるとは思いもしなかった。

 しかも、迎え撃つ算段をしているらしい。土台無理なことたが、たまには相手をするのも良さそうだ。

「こんなにも心躍るのは初めてだ」

 満面の笑顔を浮かべて一人呟いた。

 今まで感じた事のない感情だった。人間であれば『楽しい、愉快』と表現する所だ。

「本当に、知華は色々と予想外の事を巻き起こしてくれる」

 ここ一週間ほど、何やら体が重く少しうんざりしていたオマモリサマだったが、今はそんな些末な事はどうでもよかった。

「……そろそろ日暮れか」

 壊れた屋根から覗く星を見て、時間帯を確認した。

 そろそろ向かおうかと思った時だった。

 

 オマモリサマの中で、呼ぶ声がした。

 『会いたい。ここに来て』

 

 知華の声だった。


 これには驚いた。

 この百年五十年で、影を飛ばした相手に救命以外で呼ばれたことは一度もなかった。

 しかも、会いたいと言っている。

 なかなかに悪くない感覚だ。

「……迎え撃つのに待ちくたびれたか。そんなにもワシに喰って欲しいか?」

 そこまで急がずとも、これから行こう。

 

 オマモリサマは立ち上がった。一度大きく伸びをする。寝方が悪かったのか、少し首に違和感があった。少し回すと、タッと駆け上がった。助走も付けず屋根の穴から外へ出る。

 風が冷たく凪、頬を打った。

 日がかなり傾いたので、あちこちで電気がとも されている。

 知華や他の魂を喰ったら、この場所を離れそう。たまにはもっと北に行くのもいいかもしれない。雪景色を久々に見ようか。

 そんな事を思いながら、病院に向けて飛び上がった。

 その時、彼の足から黒い血液が飛び散った。それは屋根にピチャっと付着すると、黒ずんで霧散した。



 

 ものの十分で知華がいる病院に着いた。

 肌と匂いで感じるので、知華の場所はすぐに分かる。また同じ場所にガキとヒヨッコ祓い屋がいるのが分かった。さらにあと二人ほど、知華の傍に人間がいるらしい。あのヒヨッコを援助するための祓い屋だろうと思った。

「さて、どんな歓迎をしてくれるだ?」

 独り言ちすると、入り口を探した。

 明かりがついているドアへ向かう。

 一階の夜間救急から入ると、院内を歩き迷うことなく知華がいる病室へ足を向ける。

 知華の匂いが強くなってきた。

 

 暗い廊下に、オマモリサマの足音が響く。

 ここの階層は今、オマモリサマ以外歩く人影はない。

 

 そこには複数部屋があった。

 どれも似たような造りだったが、そこの一カ所に祓い屋二人の気配がした。そこに潜んでいるらしい。

 

 オマモリサマは襲う順番を考えた。

 先に援助に来た祓い屋を片付けるべきか。きっと知華の魂を喰らう邪魔をするだろう。しかし先に殺しすぎると、知華の魂の味に響く。ここは先に知華を襲い、祓い屋の戦闘意思を削ぐべきか。落胆する顔を見るのはさぞ見ものだろう。

 そう思い至り、オマモリサマは祓い屋二人がいる部屋を素通りした。


 いよいよ知華のいる病室に来た。

 戸を開けずとも、術が仕掛けられている事が見て取れる。

 何重にも結界が張られている。しかも術式は複数で、熟練した術者がいるとこが分かった。

 退魔の護符やら遮音術の痕跡がある。

 遮音術があるなら、音は外へ漏れにくい。盛大にやり合ってもよい、という事だ。

(なら、遠慮なしに行くか)

 オマモリサマはニヤついて戸を開けた。



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