表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【食品メーカー複数社監修】終焉の神ですが 今日も人の感情でお腹を満たす【もぐもぐ神™】  作者: 黒井津三木
献立4 お菓子 ときどきごはん

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/46

十皿目『ミレたん、通過点』

※今回のお話も食べ物は出てきません。

スタンプラリー開始、直前。


選手全員に、封のされた地図が配られていた。

まだ誰も開けてはいけない。

合図が鳴る、その瞬間までは。

その中で、ルッカの視線は、自然と一人の人物を捉えていた。


──ミレア。


「ミレア先輩は……どう動くデスか……?」


誰に聞かせるでもない、小さな呟き。


ルッカの頭の中には、すでに地図がある。

数時間前、記憶に焼き付けた配置。

必要スタンプは全部で10個。

それぞれに1から10までの番号が振られており、

重複は意味を持たない。


──全てを回らなければ、ゴールは出来ない。


「近いところくらいは、自分で取るよ。お姉さん」


隣で、リオが言った。


「そう?」


ミレアは軽く首を傾げる。


「まあ、判断は開封してからね〜」


地図の封は、まだ固い。


「チロルチョコ一年分……」


ミレアは小さく拳を握る。


「元はと言えば、これが目的で参加したんだから。絶対に取るわよ!」


意気込みは十分だった。


「うん! 頑張ろうね、お姉さん!」


リオも力強く頷く。



──そして。



開始の合図が鳴り響いた。

一斉に、封が破られる音。

紙が開く、乾いた気配。


「……ふむ。なるほど」


ミレアは、地図を一瞥しただけだった。


「リオ。1と2のスタンプは任せるわ。そこから、ゴール地点を目指して」


即断。


「え? でも、3のスタンプくらいは……」


リオが戸惑う。


「いいの」


ミレアは迷いなく言った。


「3のスタンプは、ゴール地点から少し逸れるし、あそこに向かう大通りは流通用の道路なのよね」


指で、地図の一角をなぞる。


「馬車や竜車の往来が多い。気を付ければ問題ないけど……急いでる時は、少し危ないわ」


理路整然とした判断。


「だから、そのままゴールを目指して」


「……う、うん。わかったよ」


リオは頷いた。納得はしたが、同時にミレアの負担の大きさが頭をよぎる。

その様子を、少し離れた場所からルッカが見ていた。


「さすがミレア先輩デス……!」


思わず声が漏れる。


「あんな一瞬で、ルートを決めてしまうなんて……しかも、1と2以外を全部、自分で回る気デスか!?」


驚嘆と、焦燥。


「え〜っと……」


ルッカは、脳内の地図を展開する。


「つまり……こう行って……ここを抜けて……」


ミレアが通るであろう軌道を、必死に追う。


「そこは任せるわね、リオ」


ミレアは、もう次を見ていた。


「それじゃ」


──次の瞬間。


破裂音にも似た衝撃が、その場を叩いた。


空気が一拍遅れて押し出され、

視界が一瞬だけ歪む。


「わっ!?」


リオが思わず声を上げ、足元がぐらりと揺れた。


「っ!?」


ルッカは反射的に一歩踏み出す。

だが、もうそこには誰もいない。


残っていたのは、耳の奥に響く圧と、

今しがたまで“人が立っていた”という事実だけだった。


「1と2のスタンプは任せたデスッ!!」


振り返りもせず、妹に叫ぶ。


「え、ちょっと……!?」


返事は、置き去りにされた位置から聞こえた。

だが、ルッカは止まらない。

目標は、ただ一つ。


ミレア・ノワール。


その背中が、すでに街の向こうへと消えかけていた。


「くっ……なんて速さデスかッ!」


ルッカは歯を食いしばり、必死にミレア・ノワールの背中を追う。

しかし、凄まじい速さで距離が開いていく。


ルッカが理解したミレアの恐ろしいところは、その爆発的な初速。

普通、どんな種族であれ最高速度に到達するには助走が必要になる。


筋肉の伸展、呼吸、重心移動──すべてが揃って初めてトップスピードに乗る。

だが、ミレアは違う。


ミレアは──助走が、無い。


踏み出した瞬間から、いきなり最高速度。

それを可能にする脚力が、あまりにも異常。


「地走型の鳥人種ハーピーの脚でも追いつけないなんて……一体どんなスピードで走ってるデスッ……!?」


地走型ハーピーの平均走行速度は、時速70〜80km。

そして、特急配達員であるルッカはその中でも選りすぐりで、最高速度は、時速110〜125km程。

街中を走る存在としては、ほぼ極限だ。


結果、追いつくどころか──目に見えて距離はぐんぐんと開いていく。



スタンプ配置所。


「……そろそろ始まったかな」


係員のひとりが、のんびりと呟いた。


「うん、もう時間だしね。……去年のコボルトの子、早かったよね〜。今年も来るかな?」


もうひとりが笑う。


「来てくれるといいなぁ。一生懸命走ってるの、可愛いんだよね〜」


「分かる〜。応援したくなるよね」


そんな他愛もない会話の途中──

ザッ、と人影が現れた。


「スタンプくださいな〜♪」


何事もなかったかのように、ミレアが両手で地図兼スタンプシートを差し出していた。


「きゃあっ!?」

「わっ!?」


突然現れたミレアに驚く係員達。


「……え、なに?」


混乱する視界の中。


「ス、スタンプ? え、早くない!?」


困惑しながらも、シートが正規のものであることは一目で分かる。


「……えっと……」


迷いながら、係員はスタンプを押した。


ぽん。


「どうも〜♪」


礼を言った、その瞬間──空気が弾けた。


「ひゃあぁ!?」


胸元を叩くような圧に、思わず声が漏れる。


「な、なに今の人……」


視界が一拍遅れて落ち着いたとき、ミレアの姿はもうどこにもなかった。


残っていたのは、耳の奥に残る短い衝撃と、

その場が一度“乱された”気配だけ。


──そこへ。


「スタンプくださいデスっ!!」


今度は勢いよくスタンプシートが差し出される。


「えっ!? あっはい……」


腕を振り上げた動きに合わせて、ふわりと弱い風が遅れて流れた。


さっきとは違う。

叩かれる感じはなく、ただ空気が動いただけ。


ぽん。


係員がスタンプを押した瞬間、ルッカはもう走り出していた。


「どもデスッ!」


走りながら加速する。


だが、その差は明白。

すでに、追いつくのが不可能な程の距離ができていた。


「くっ……!」


ルッカは歯噛みする。


「こっちは止まるたびに、加速し直さなきゃいけないのに……! 加速の必要がないのは、ズルいのデスっ!!」


──なお、カンニングというズルをしようとしていたのは、ほんの数分前の自分である。


だが今は、そんなことを考えている余裕はない。


一方、ミレアはというと。


速度を一切落とさず、行く手を塞ぐ馬車は軽く跳び越え、

時には建物の壁を蹴り、家の屋根へと駆け上がる。

屋根から屋根へ。

街を、平面ではなく立体として使っていた。


「……っと」


視線の先、次の目的地を捉える。


「アレね!」


さらに速度を上げる。

街は、彼女にとって障害ではない。

ただの、通過点だった。


この“差”をはっきりと刻みつけながら、

次の局面へと突き進んでいく。



その頃、スタート地点では。


「う〜ん……?」


ルッカの妹は、封を解いた地図を手に取り、

傾けたり、回転させたり、色々な角度から眺めていた。


「……意味わかんない」


俯瞰図と現在地が、どうしても頭の中で噛み合わない。


一方。


「1と2……よし、いくぞっ!」


目的地を確認したリオは、迷いなく走り出した。


「あっ……! クッソ!」


ルッカの妹は、地図を見るのをやめる。

そして即座に、リオの後ろを追いかけた。


──姉が他のスタンプを回るなら。

──自分は、目的地が同じ相手について行けばいい。


判断は早かった。


「……っ?」


走り続けるリオは、背後に視線を感じて振り返る。


(あの人、一緒に走った人だよね? ついてくるの?……それなら!)


チョコパイ食い競走では負けた。


だが、その記憶が、リオの中で小さく火を点ける。


(鬼さん、こちらっ!)


ハーピーは速い。しかしそれは、直線ならの話だ。

入り組んだ道。曲がりくねった路地。

そこでは、コボルトの身体能力が活きる。

リオは、意図的に進路を変えた。


大通りを外れ、裏路地へ。

普段から街を歩き回り、食料を探し、

小さな抜け道を覚えてきた。


この街は、彼にとって“庭”だった。

ミレアほどではないが、リオもまた、地形を知っている側の存在だ。


「はぁ!?」


後ろから、声が飛ぶ。


「なんで、そんな道……! 近道でもあんの……!?」


判断に迷いながらも、ルッカの妹は追いかける。


「〜♪」


リオは、鼻歌混じりだ。

狭い道を、柵をくぐり、箱を飛び越え、

ほとんど減速することなく駆け抜けていく。


「チクショウ……!」


ルッカの妹は歯を食いしばる。


「嵌められた……!」


すぐに悟った。

これは、単なる逃走ではない。


追う者を、“振り落とす”走りだ。


柵を飛び越え、急カーブを曲がる。

ハーピーの脚力で必死に食らいつくが、無駄な一歩が少しずつ差になる。

距離は、確実に開いていった。


「っ……!」


視界の先で、リオの背中が小さくなる。


──線じゃない。

──速さだけじゃない。


この街では、知っている者が強い。

その事実をルッカの妹は、身をもって理解し始めていた。


「ちぃっ……!」


ようやく路地を抜けた先。

小さな広場の中央で、リオがスタンプを受け取り、走り出すところだった。


「ワッフ〜ン♪」


上機嫌な鼻歌。

その余裕が、妙に腹立たしい。


「……っ!」


苛立ちを飲み込み、ルッカの妹もすぐさま動く。


「クソっ……スタンプ、早くちょうだい!」


「は〜い、頑張ってね〜」


係員からスタンプシートを受け取ると、一拍も置かずに地面を蹴った。


「……ああ、そうだったわね」


走りながら、ふと思い出す。


「あいつ、前回の優勝者じゃない……!」


ようやく、自分が必死に追いかけている相手の正体を思い出した。


目立っていたのは、あのミレアだった。

異様な速さで、切り裂くように走る、あの存在。

でも──


その隣の相方も、決して飾りじゃない。

確かな実力。

街を知り、身体を使いこなす走り。


「……姉だけじゃない」


ルッカの妹は、歯を食いしばる。


「目標を追いかけてるのは……私も同じじゃない」


視線の先。リオの背中は、まだ見える。


「こうなったら……」


息を整え、脚に力を込める。


「やってやるわよ!」


闘志が、はっきりと火を点けた。

ただ追うだけじゃない。

振り回されるだけでもない。


──この街で。

──この競技で。


自分が、どこまで通用するのか。

ルッカの妹は、その答えを掴みに行くようにリオの背中を追い続けた。


その頃、ミレアは──


すでに七つ目のスタンプを押し終えたところだった。


「ふっふ〜ん♪ あとひとつね!」


足取りは軽く、表情も上機嫌。

順調そのものだ。

追いかけてきていたはずのルッカの姿は、もう見えない。


「さっさと行って、ゴールに向かわないとね」


そう呟き、最後のスタンプへ向かって走り出す。


──が。

ふと、足が止まった。


鼻先をくすぐる、香ばしい匂い。


「……あ」


露店の前だった。

炭火で焼かれた串焼きが、いい色をしている。


「じゅるり……」


迷いは、ほぼ無い。


ぱくっ。


「……ん♪」


頬張りながら、自然と歩き出す。


「なかなか、いけるわね!」


味の感想は軽め。

だが、満足しているのは確かだった。

そのまま、最後のスタンプ配置所へ辿り着く。


「スタンプくださいな〜、もぐもぐ♪」


串焼きを片手に、地図兼スタンプシートを差し出す。


「え……選手、ですよね……?」


係員は一瞬、目を瞬かせた。


「なんで串焼き……?」


困惑しつつもシートが正規のものだと確認し、スタンプを押す。


ぽん。


「……はい、どうぞ」


「ど〜もっ♪」


礼を言い、ミレアはそのままゴール方向へ向かう。

歩幅は一定。

焦りも、躊躇もない。

競技中であることすら、どこか“ついで”のように。


──スタンプラリーは、彼女にとって探索でも競争でもない。

ただ、街を通過するための理由に過ぎなかった。


ゴールは、もうすぐそこだった。




ふたつ目のスタンプを獲得したリオは、

迷うことなくゴールへ一直線に向かっていた。


「フッ……フッ……フッ……!」


呼吸は荒いが、脚は止まらない。

さきほどまで背後にあった気配は、もうない。

ルッカの妹の姿は見えず、完全に振り落としたようだった。


(ここを曲がれば……ゴールだ……!)


角を一つ曲がった、その先。

視界に、ゴールの横断幕が飛び込んでくる。

そして、その下──背を向けて立っている人影があった。


「……え」


「お姉さん……?」


すでに、ミレアが待っていた。


「本当に……全部回ったの……!?」


あまりの早さに、半信半疑の声が漏れる。

それでも、疑うより先に信じてしまうのがリオだった。


「ワッフ! おまたせ、お姉さん!」


リオは勢いよく跳び、ゴール地点へと飛び込む。


「お?」


ミレアは振り返り、少しだけ目を丸くする。


「思ったより早かったわね、リオ。はい、串焼き」


「え、いいの!?」


差し出された串焼きを、二本受け取る。

その代わりに、スタンプシートをミレアへ手渡した。


「ハグハグッ!」


受け取るなり、即座にかぶりつく。

尻尾が、激しく左右に振れた。


「よしっ。はい、これで十個全部揃ってるわ」


ミレアは、揃ったスタンプシートを係員に差し出す。


「……はい、確かに……」


係員は目を落とし、数を確認する。


「まだ開始して、数分ですよ……?」


声色には、疑問と、若干の不満が混じっていた。


「それがなに?」


「い、いえ……まぁ……」


しばし迷った末、


「……はい。問題ありません」


ズルをした痕跡は、どこにもない。

規定通り。完全な優勝だった。


「よし」


ミレアは、満足そうに小さく頷く。


「……よくやったわ、リオ」


そう言って、リオの頭を撫でる。


「っ……!」


一瞬、動きが止まり、


「えへへ……」


照れたように笑って、尻尾をさらに大きく振った。


「ふふっ」


ミレアも、楽しそうに微笑む。


こうして──スタンプラリーは、ふたりの優勝で確定した。


街のどこかでは、まだ必死に走っている者もいる。

だがゴール地点には、すでに静かな達成感だけが残っていた。



その頃、エクス姉妹は──


「かんっ、ぜんっ、にっ! 見失った、デーースッ!!」


街の一角で、ルッカの声が響き渡っていた。

手にしているスタンプシートには、四つの印。


「なんデスか、あれ!? 建物の上を、あんな軽やかに……!

あんなの、ありデスか!?」


ルッカは必死に視界へ収めようとした。

だが、角を曲がった時にはすでに遅し。


ミレアは屋根から屋根へ。

地形を無視した直線移動。

地面を走る自分と、空間そのものを使う走り。

どちらが早いかなど、考えるまでもなかった。


「……本当に、とんでもない人デス」


ぽつりと、感嘆の声が漏れる。


「ミレア先輩は……」


そこへ──


「……くっそ! ここ、どこよ!?」


不機嫌そうな声が割り込んだ。

目の前に現れたのは、完全に迷子になっている妹だった。


「あれ? なんで、ここにいるデス?」


ルッカが首を傾げる。


「あぁ!? それは、こっちのセリフなんですけど」


妹は睨み返す。


「私は、ミレア先輩を追って……完全に見失ったデスよ」


そう言いながら、さらりとスタンプシートを見せる。


「あっそ。ま、私は自分の仕事はしたけどね」


妹も、自分のシートを差し出した。

そこには、二つのスタンプ。


「おぉ!」


ルッカの目が輝く。


「ちゃんと、迷わずに行けたデスね!」


「……う、うん」


妹は、露骨に視線を逸らす。


「……ん?」


ルッカは、ふと周囲を見回した。


「ならどうしてここに居るデスか? ゴールは向こうデスよ」


翼で、ひとつの方向を指す。


「わ、わかってるってば! 今から向かうところよ!」


「嘘デス」


即答。

ルッカは、反対方向──

正しいゴール地点を指し示す。


「ゴールは、あっちデス」


「んなっ……!?」


「……また、迷ったんデスね?」


じとり、とした目。


「っ……仕方ないじゃない!」


妹は声を荒げる。


「あのリオってコボルト、めちゃくちゃ速いんだから!」


羽をばたつかせながら続ける。


「直線でも早かったけど、街中ならもっと速かったのよ!」


「そうデスか」


ルッカは、すぐに理解した。


「それで、追いかけてたら振り切られたと」


「……そうよ」


妹は、むくれる。


「しょうがないデスね」


ルッカは、ふっと息を吐いた。


「残りは一緒に周るデスよ。しっかり、ついて来るのデス!」


そう言うが早いか、ルッカは走り出した。


「あっ、ちょっと! 待ちなさいよ!」


慌てて、その背中を追う妹。

言い合いながらも、今度はちゃんと同じ方向へ。


エクス姉妹は、再び街の中へと駆け出していった。

ゴールは、まだ少し先だ。



十皿目『ミレたん、通過点』

おしまい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ