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【食品メーカー複数社監修】終焉の神ですが 今日も人の感情でお腹を満たす【もぐもぐ神™】  作者: 黒井津三木
献立4 お菓子 ときどきごはん

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一皿目『ミレたん、チロル補給で出陣』

広場へたどり着くと、コボルトの少年が振り返った。


「着いたよ」


ミレアは足を止め、前方を眺める。


「ここが……」


巨大な広場いっぱいに子供たちが集まり、その後ろには保護者らしき大人たち。

ざっと見ただけでも百人は超える人混みだった。


「想像していた以上に、大きな規模ですね」


サクラが小さく息を呑む。


「……これ、運動会ってやつ?」


ミレアがふと呟く。

彼女がかつて呑み込んだ原初の混沌から引きずり出した知識が、不意に口をつく。


「運動会? そういうものがあるんですか?」


サクラが不思議そうに問い返す。


「わたしの知る限りでは……」


半目で空を見ながらミレアは答える。


「うんどーかいじゃなくて、“竜っ子おかしフェス”だよ。ほら、あそこにも書いてる」


少年が入口に掲げられた横断幕を指さす。


「竜っ子……いかにも竜王国らしいですね」


サクラが頷く。


「なんだっていいわ。勝てばいいのだから」


ミレアは迷いなく受付へ歩きだし、少年も慌ててついていく。


「……これだけの規模、景品は絶対チロルチョコだけじゃないですよね」


ぽつりと漏れたサクラの独り言に、少年が振り返る。


「え? うん、そうだよ」


彼は素直に答えた。


「……やっぱり」


サクラもふたりの後ろから追いつく。


ミレアは競技一覧の横に貼られた“景品表”を見つめながら、

あちこちへ視線を泳がせていた。横に積まれている景品をじっと見比べる。


「う〜ん、チロルチョコ以外にも沢山景品があるのね」


興味深そうに、しかし視線は“食べ物”だけを拾っている。


「ほんとですね。競技ごとに景品が違うなんて、参加意欲を煽る設計になってますね」


サクラは感心しながら辺りを見渡した。


ミレアは、前に並べられた賞品の前で足を止める。


「食べ物以外は興味ないわ」


平然と言い切った。


少年は苦笑しながら、手に持ったエントリー表を見上げる。


「じゃあ、選んでエントリーしようよ!」


「そうね。でもよく分からないから任せたわ!」


ミレアは迷いなく少年に丸投げした。


「え……」


少年の耳がぴくっと垂れる。


「わ、私も行きますよ」


サクラが慌てて付け加え、少年と並んで受付へ向かった。


残されたミレアは、その場で一度深く息を吸い──


「……くんくん……。甘い、おいしそうな香りが沢山あるわね! ワクワク♪」


鼻をひくひくさせながら目を輝かせる。

子供たちより子供みたいなテンションで、お菓子の山を眺めている。


しばらくして、サクラと少年が戻ってきた。


「お待たせしました、ミレア様。出場種目は5種目になります」


「ほう、そこそこあるわね!」


ミレアは期待で胸を膨らませ、尻尾を振る犬のようにソワソワしていた。


少年も笑顔で言う。


「お姉さん、ほんとに全部勝つつもり?」


ミレアは胸を張って即答した。


「もちろんよ」


「そっか、それじゃあぼくも頑張るね!」


少年の目も、ミレアに負けないくらい輝いていた。


「ミレア様もリオ君も、頑張ってくださいね」


サクラが柔らかく笑いかける。


「リオ?」


ミレアがきょとんと首を傾げた。


「さっき受付の名簿に名前を書く時に知ったんですよ」


「あらそうなの。それじゃあ……リオ、頑張ろうね」


「うん!」


リオが嬉しそうに尻尾を揺らす。


ミレアは景品表と種目表を交互に見つめた。


「……それで、わたしが出る競技は?」


サクラは手元のエントリー用紙を確認する。


「順番に申し上げますと──宝探し、虫捕り、なぞなぞ、パン食い競走、スタンプラリー。ですね」


「ぇう? 運動会よね?」


「竜っ子おかしフェスです、ミレア様」


「……あそう」


なんとなく想像していた“定番種目”とは明らかに違っていたので、ミレアは微妙に眉を寄せた。


「まあいいわ。宝探しってどんな競技なの?」


「森の中にある宝を見つけて持ってくるんだよ! 木の上とか、草むらの中とか、土の下とか……いろんなところに隠してあるんだ」


リオが胸を張って説明する。


「へ〜、少し楽しそうですね」


サクラも興味深そうに頷く。


しかしミレアは──


「宝……ね」


なぜか少し難しそうな顔をした。


リオが続ける。


「宝によって得点が違うんだ。それで、一番点数が高かった人が勝ち!」


「なるほど、理解したわ。……ちなみにチロルチョコは?」


「最後の種目、スタンプラリーですね」


「最後……」


「景品はチロルチョコ1年分だそうですよ」


「1年分!?」


ミレアが星を散らしたような目で叫ぶ。


「はい、1年分です。沢山食べれますね」


サクラが思わず口元を緩める。


その直後──


「1年分って……それじゃあ“3日”しかもたないじゃない……!!」


サクラは瞬きすら忘れた。


「…………1日120個も食べる気ですか!?」


理解した瞬間、素で驚愕する。


ミレアは真顔で答えた。


「だってあんなにおいしいのよ!? サイズも一口サイズだし、食べない方がおかしいわ!」


「普通は食べませんよ……」


「わ た し は 食 べ る !」


迫力のある宣言に、サクラが小さく震えた。


「あ……はい……」


完全に押し切られた。


ミレアは気を取り直して続ける。


「……そこは是が非でも取るとして……で、最初の競技の景品って?」


「竜王国発祥のメーカー、ドラゴンフーズ社の《ドラポリ・チップス》《子竜ラムネ》《竜っ子スティック》の、それぞれ1ダースだそうです。このフェスの主催でもあるようですね」


「へー」


ミレアは気のない返事をしながら、景品棚を一瞥する。

“チロル以外興味なし”があからさまに顔に出ていた。


リオが目を輝かせた。


「兄ちゃんが好きなお菓子だ!」


「ああ、あの牢屋にいた」


ミレアがさらっと言う。


「うん、リオルって言うんだ」


「じゃあ、お兄さんのためにも勝たないとですね」


サクラが優しく声をかける。


リオは力いっぱい頷いた。


「うん! 勝って兄ちゃんと食べるんだ!」


その目には、ミレアと同じく“お菓子への情熱”が宿っていた。


「なら早速現地へ案内してね」


ミレアがウインクしながら軽く指を弾く。


「まかせて!」


リオがぱっと明るい顔で先を歩き出し、ミレアとサクラが後ろに続く。



──────────



宝探し会場。

森の入口はまだ静かで、人もまばら。

朝の光が木漏れになって揺れ、その中を鳥の声が軽く跳ねる。


「ここは……」


ミレアが足を止めて見上げる。

竜王国が管理する訓練用の森。危険な生物は入ってこないよう結界が巡らされ、安全性は折り紙付き。


「こんな所に本当に宝があるの?」


「ミレア様、これは催しです。運営の方が宝物を隠すんです」


サクラが穏やかに微笑む。


「そうだったわね。……えっと、得点の入り方は?」


ミレアがリオへ向き直る。


「大きさとか……いかにも“高そう”って感じのやつ、とか、かな……」


言いにくそうに、しかし誠実に答えるリオ。


「ふ〜ん? じゃあ、いかにも“お宝”って顔してるのを見つければいいのね」


「うん。この競技、ぼくも兄ちゃんもあんまり得意じゃないんだ」


「コボルトなのに?」


小首を傾げるミレア。


コボルトは犬の特性を強く受け継ぐ獣人族。

嗅覚も聴覚も鋭く、持久力やスピードは人間より上。

しかし手先は不器用で、体温管理が苦手という弱点を抱えている。


「宝になにか匂いが付いてたらいいんだけど……」


「公平を期すために消臭はされているでしょうね」


サクラが丁寧に付け足す。


「……ふ〜む」


ミレアが手を顎に添えて、森をじいっと見つめる。

その視線は、まるで何かを“見通している”ようにも感じられる。


「ミレア様」


サクラがそっと前に立ち、ミレアの視界をふさぐ。


ミレアはビクリと肩を揺らす。


「な、なによサクラ」


「ズルはいけませんよ?」


「べ、別になにもしてないじゃない……」


声の端が弱くなる。

サクラはにこやかに、しかし芯のある表情で続ける。


「どうせミレア様のことです。森の中を透かして見たり、人の気配を拾ったり……隠し場所を探ろうとしたのでしょう?」


「……シ、シテナイワ……」


ミレアが視線をそらし、耳までほんのり赤くなる。


(分かりやす……)


サクラは小さく息をつき、柔らかな笑みを浮かべた。


「では待っているのも退屈でしょうし、地図を見て作戦を立てましょう」


「……え」

「さんせーい!」


嫌そうな顔で固まるミレアと、対照的に元気いっぱいのリオ。

ふたりに連れられ、ミレアは渋々と地図の前へ向かう。


地図には森の起伏、木の密度、ルートの想定線。

3人はそこに指を走らせながら、どこに“運営が宝を置きたくなるか”を話し合い始めた。


森の匂い、風の動き、木々の並び。

それぞれが読み取る“気配”を重ねながら、作戦はゆっくりと形になっていく。


開始直前。


会場に集まる参加者たちのざわめきが少しずつ大きくなる中、

ミレアだけがその場にぽつんと立ち尽くしていた。


目の焦点はどこにも合っていない。

輝きという輝きをすべて落とした、まるで魂の抜けた人形。


「ミレア様、そろそろお時間です」


サクラがそっと耳打ちする。


「……あ、ウン。ソウネ」


返ってきたのは、息の抜けたような一本調子。


「お姉さん、大丈夫?」


リオが覗き込む。


「ウン。ソウネ」


同じ返事。

全く同じイントネーション。

まるで壊れたオウム返し。


「ミ、ミレア様?」


サクラが眉を寄せ、もう一度呼ぶ。


「……ウン。ソウネ……」


ミレアの瞳は空洞のまま微動だにしない。


「お姉さん……壊れちゃった……」


リオの声がひきつる。

その横で、サクラはハッと息を呑んだ。


──フェリシアから聞いた“あの説明”。


「ミレアさんは、お腹が空くと極端にやる気を無くします。

ちょっと小腹が空く程度なら“拗ねる”感じですが……。

だいぶ空くと、同じ言葉しか返さなくなります。

完全に限界まで空腹になると……動きません。表情も、この世の終わりみたいになります」


フェリシアの冷静な説明が頭の中で再生される。


「これは……まずいですね。もうすぐ始まってしまいます。今、食べ物を用意しても間に合いません……」


ミレアは微動だにせず、ただ前を向いたまま“空虚”を漂っている。


「お姉さん、どうしちゃったの……?」


リオが不安げに袖を握る。


「ミレア様は空腹のようです。何か食べられるものがあれば……」


サクラは辺りを見回すが、屋台も売店もない。

ミレアの表情は更に影を落とし、頬は少しこけて、視線だけが虚空を漂っていた。


このまま立っているのが不思議なくらいだ。


「……あ」


リオが突然、何か思い出したようにポケットを探る。


「チロルチョコならあるよ」


小さな手から差し出されたのは──

色鮮やかな包みが二つ。


リオの“非常食”とも言える、大事にしていたチロルチョコ。


ミレアに向けてそっと差し出される。

差し出されたそれは



《ALMOND》


《BIS》



と書かれていた。


ミレアはそっと視線を落とし《アーモンド》の包みをそっと摘んだ。


先ほどの深い茶色ではなく、夜空のような濃い青に星が散っている。

白と赤のストライプは、視界の端で揺れるだけで元気の良い音が聞こえそうな色合いだ。

中央には、つるりとした木の実がちょこんと顔を出していて、その丸みと縦の溝が妙に可愛らしい。

裏返すと、同じ顔が小さくこちらを見つめていた。


親指で角を押し上げると、紙がほどける音が小さく弾けた。


中から現れたのは、濃い焦げ茶のチョコレート。

表面の光は鈍く深い。そして真ん中には《TIROL》の文字。

つまんだ指先がすぐに体温でぬるりとした感触に変わり、

「香ばしさを閉じ込めていますよ」とでも言いたげな控えめな香りが漂い始める。


ひと口で運ぶ。


かすかに触れた唇の温度だけで、表面が柔らかな膜へ変わる。

そして噛む。


ぱき。


さっきのヌガーとは違う、より乾いて潔い割れ方。

その直後、はっきりと“芯”が主張してきた。


──コリッ。


音が舌の裏まで響いた。

硬いのではない。

噛んだ瞬間だけ、芯がひと呼吸ぶん踏ん張るような抵抗。

その抵抗が心地いい。


二噛み目でアーモンドが砕ける。


香りが一気に広がる。

焙煎で引き出された木の実の香ばしさが、甘いチョコの温度とぶつかりその場でふわっと膨らむ。


小さな木の実が砕けるたび、香りの層が増えていく。


“コリッ”

“ホロッ”


その連続の中で、砕けた欠片が舌の上を転がり、

甘みの膜の下から香ばしさが滲み出る。


そこへ、チョコの溶けた甘さがゆっくり混ざり込んでいく。


甘いだけでも、香ばしいだけでも終わらない。

どちらも主役になろうとせず、互いに肩を並べて、ひと口の中で完成する。


飲み込む瞬間。

砕けたアーモンドの香ばしさが喉の奥にふわりと残る。

ほんの一秒遅れて、チョコの甘さが喉の壁に沿ってすべり落ちていく。


後味は静かに長くつづく。

鼻へ抜ける香ばしさは軽く、舌に残る甘さは薄い膜のようにやさしい。


──噛んだ瞬間に完成する小さな菓子。


それが、チロルチョコの《アーモンド》だった。




ミレアの目に光が宿った。そのまま最後のひと粒へ指を伸ばす。



今度の包みは、ひと目見ただけで空気が変わる。

鮮やかなピンクに白い水玉。

小さな角砂糖ほどの大きさなのに、視界の端を明るく照らすような存在感がある。


中央に描かれたビスケットのイラストは、焼き色の“きつね色”がやわらかく、まるで今しがたオーブンから出されたみたいにふっくらして見える。

その上に、チョコレートで描かれた《BIS》の文字が

とろん、と溶けかけの質感を帯びて乗っている。


指先で摘まむと、包みの紙がかすかに弾力を返した。

この“小ささ”に、こんな丁寧な張り……。

ミレアは瞬きひとつでその細やかさを受け取る。


角を押し上げる。


ぺり。


紙が剥がれる音は軽いのに、そこから出る香りは意外と濃い。

チョコよりも先に、焼き菓子の香気がふんわりと鼻先に触れた。


銀紙を開くと──


掌の中心に“本物のビスケット”が現れた。


チョコに包まれているのに、

どういうわけか香りの輪郭がはっきりしている。

焼いた小麦の香り。

甘いミルクの気配。

ビスケットの端がほんの少しだけ盛り上がっていて、

その立ち上がり方がまた可愛い。


ミレアはそっとつまみ上げ、口へ運ぶ。


触れた瞬間、唇の温度でチョコがゆっくりと柔らかくなる。

外側はミルクチョコ特有の丸い甘さ。

だが、今はまだ“主役の気配”が口の入口で息をひそめている。


噛む。


ぱきっ。


外側のチョコが最初に割れる。

だが、次の瞬間──

中心のビスケットが、


“さくっ”


と、空気を含んだような心地よい音を立てて砕けた。


その瞬間、香りが跳ねる。


焼きたてのビスケットを割った時だけに出る、

“粉の甘さ”と“焼き色の香ばしさ”が口いっぱいに広がる。

小麦が熱で膨らんだときのあの軽い香り。

ミルクチョコと混ざることで、まるでミルクビスケットそのものをほおばっているような錯覚が生まれる。


ふた噛み目。


ビスケットの層がほろりと崩れる。

空気をたっぷり含んだ軽い食感だからこそ、砕けるたびに香りがもう一段階広がる。


ここでようやく、チョコが主役へ追いついてくる。


溶けはじめたミルクチョコが砕けたビスケットの粒にまとわりつき、やわらかい甘さの膜を作る。

その膜を舌が転がすと、


“さくっ”

“ほろっ”

“とろっ”


この三つが、一粒の中で同時に起きる。


飲み込むとき、後味が驚くほど軽い。

甘さが舌に残らず、香ばしさだけがひと筋の余韻として喉の奥に落ちていく。


──焼き菓子とチョコの境界を、たった一粒で作り上げる。


チロルチョコ《BIS》。味も食感も、想像を超えてくる一口だった。



ごくん、と喉の奥で最後の甘さが消えた。

だが──ミレアの瞳は、あの無邪気な“ミレたん”には戻らなかった。


「……ふぅ。ありがとう、行くわよ」


低く、乾いた一声。

余韻も甘さも一切混じらない。

ただ“動く”ために最低限のスイッチだけが入った声だった。


ミレアは二人へ背を向ける。

肩の力も抜けたまま、

しかし足取りだけはぶれずに参加者ゾーンへと歩いていく。

まるで普段の可愛さをどこかの草むらに置き忘れたような後ろ姿。


「ミ、ミレア様……がんばってください!」


サクラは慌てて声援を送る。

応援というより、背中を押す必死の声だった。


「じゃあ行ってくるね!」


リオも慌ててミレアの後を追う。


「いってらっしゃ〜い……」


サクラは軽く手を振りながらも、心の奥は不安でいっぱいだった。


ミレアの食欲は生命線だ。フェリシア曰く、


“満腹→天使”

“普通→ミレたん”

“空腹→亡者”


この三段階を、サクラはしつこいほどに聞かされた。


「……ご飯、用意しておかないといけませんね」


小声で覚悟を決めると、サクラは主のための食料確保へ走った。




参加者ゾーンの隅。

ミレアは腕を組み、森の入り口をじっと見つめながら──


「……ふぅ……お宝……お宝……」


ぼそぼそと呟き続けていた。

声に張りはなく、発声だけに必要最低限のエネルギーを割いているような声。


「お姉さん、大丈夫?」


リオがおそるおそる尋ねる。


ミレアはゆっくりと顔を向けた。その目には光がない。

常の“きらっ”とした天真爛漫の輝きも、“ふふん♪”の勝気さも存在しない。


「だいじょばないわ……。リオがくれたチロルチョコでなんとか、ってだけよ……」


語尾すら伸びず、ただ音として落ちていくような声。

本当にギリギリの状態なんだとわかる。


リオは引きつった笑顔のまま固まった。

可愛く振る舞う余裕なんてミレアにはない。

今のミレアは“省エネミレア”──

必要最低限の稼働だけで動く、機能縮小モードだ。


「お姉さん、作戦は覚えてる?」


それは“確認”というよりも“祈り”に近かった。


ミレアは視線を森へ戻しながら、


「知らないわ……お宝を取ってくればいいのでしょう?」


冷気のような声だった。


「え……う、うん……」


リオはつい後ずさる。

一緒に出場するはずなのに、

“心強い”どころか“手綱を握れる気がしない”。


そんな不安を余所に──


ミレアはふいに一歩、前へ。


「さぁ──行くわよ……!」


その声音は、弱いはずなのに、

なぜか背筋が震えるほどの迫力があった。


いよいよ、宝探しが始まる。



一皿目『ミレたん、チロル補給で出陣』

おしまい

※本作に登場する「チロルチョコ」の名称および関連表現については、チロルチョコ株式会社様より正式に使用許諾をいただいております。

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