プロローグ 『もぐもぐ神、世界を食べ歩く』
終焉の神、焉龍・エンノワール。
世界のすべてを“最初に”生んだ創造の龍にして、万物の始まりであり終わり。
だがその名を知る者はほとんどいない。
地球と言う星を形成した竜たちがごくわずかに伝承として語り継ぐのみ──彼女を“神”と呼び、畏敬する者たちだけだ。
その彼女が、ある日ふとこう呟いた。
「そろそろ、私がつくったこの世界……ちょっと見てこようか」
その言葉をきっかけに、焉龍は地上に降り立つ。
警戒されぬように、そして美味しいものを食べ歩けるように──
愛嬌たっぷりの、あどけない少女の姿を選んで。
その名も、ミレア・ノワール。
彼女が歩くのは、竜と人とが共に生きる世界。
空を裂く咆哮が地を揺らし、剣と爪が火花を散らす戦場を越えて、今日もミレアは旅を続ける。
この世界には、人間たちの王国だけでなく、
竜が王として治める国家や、ドワーフ、エルフ、獣人といった多種族の文明も広がっていた。
そして、竜たちには明確な位階がある。
“地竜”は家畜や運搬獣として扱われ、
“翔竜”は街の移動手段や戦場の翼として共存し、
“煌竜”は知性を持ち人型に化けることすら可能な、軍事や政治に関わる存在──竜王もまたその一つである。
だが、それらすべてを超越した“はじまりの存在”がいた。
──神竜。
大地を創り、海を編み、風を紡ぎ、光を灯し、命を吹き込んだ、神話に語られる創造の竜。“五柱の竜たち”。
そして、その神竜すらも敬う
“たったひとつの存在”──それが、かの焉龍。
終焉の神であり、創造の原点。
いま彼女は、ミレア・ノワールとして、地上を巡っている。
彼女の目的はただひとつ。
この世界の“味”──人間の感情を食べ尽くすこと。
そう──ただ、お腹を満たすこと……。
プロローグ 『もぐもぐ神、世界を食べ歩く』
おしまい




