第九章 和平
戦闘から数日が過ぎた。
街は荒廃していたが、かすかな青空が戻り、遠くで人々の声や車の音が聞こえる。
瓦礫の中で生活の気配が蘇り、戦いの傷跡は深いものの、人類はかろうじて平和を取り戻したかのように見えた。
病院のベッドで、ケイド・マリンズは包帯に巻かれた体を休めている。
肋骨と肩の痛みがまだ鋭く響き、動くたびに呻き声が漏れる。
それでも、意識ははっきりしており、戦いの記憶が脳裏を離れない。
テレビのニュースチャンネルでは、大統領や科学者たちが戦闘の終結を報告していた。
「人類は安全を確保しました。皆さん、どうか落ち着いてください」
安堵の声とは裏腹に、ケイドはかすかに肩を落とす。
その時、画面の隅で異形の影が映り込んだ。
鋭角的なフォルム、光を反射する複数の目——
その瞬間、異形は大統領の背後に現れ、恐ろしい速さで襲いかかる。
ニュースキャスターの叫び声、周囲の人々の悲鳴——画面は混乱と絶叫に包まれ、音声は途切れ、放送は突然停止した。
ケイドの目に映った光景は、まるで悪夢のようだった。
手に汗を握り、唇を噛みしめる。
「…そんな…まだ…終わってない…」
包帯だらけの体を動かすのもつらい。
だが、脳裏に焼き付いた光景は消えず、ケイドの胸に深い絶望の影を落とした。
荒廃した街の空は静かだが、その平和の裏に潜む恐怖を、誰も知らない——