第三章 不安
2025年の夏、アメリカ東海岸の大学附属研究施設。
窓から差し込む日差しは強いが、研究室の中は冷房でひんやりと落ち着いた空気に包まれている。
テイラー・バーグは、祖父フランクの送信データの解析を続けていた。
画面上の微細なノイズを何度も見返すが、依然として明確な返事はない。
それでも彼女の指は止まらない——科学者としての本能が、何かを見逃すことを許さなかった。
「…ん?」
画面の端、ほんの一瞬、微妙に規則的なパターンが揺らいだ。
「気のせいか…いや、違う」
テイラーは眉をひそめ、解析ツールをフル稼働させる。
波形を拡大し、過去のデータと照合すると、偶然では説明できない微細な揺らぎだった。
そのとき、研究室の扉がノックされる。
「テイラー、施設周辺の監視データに異常があるって連絡が来た」
ボーイフレンドのケイド・マリンズが現れる。
彼はSWATの一員で、大学チームとは別に、施設周辺の通信・環境センサーの監視と、異常発生時の即応態勢を任されている。
ケイドは手元のモニターを確認しながら言う。
「施設外のセンサーがちょっと反応してる。特に電波の変動が規則的で、まだ原因はわからないけど…気味が悪い」
テイラーは頷き、解析は大学チームと一緒に進める。
ケイドは解析には関与せず、周辺状況の監視と安全確保に徹する。
外では、大学キャンパスに小規模な通信障害やセンサー反応の異常が報告され始める。
SWATの隊員たちも「原因不明」と言うのみで、まだ脅威とは認識していない。
夜が訪れるころ、二人は疲労で肩を落とすが、解析は続ける。
「…もしかして、何かがこちらを見ている…?」
テイラーの声には、不安とわずかな期待が混ざっていた。
画面の端で微かなノイズがまた揺れる。
その瞬間、二人は無言で画面を見つめる。
沈黙の宇宙が、ゆっくりと呼吸を始めているかのようだった——