第二章 兆候
2025年、アメリカ東海岸の大学附属研究施設。
ガラス張りの研究室に朝日が差し込み、机の上には1974年当時の古びた資料と最新の解析機器が混在していた。
テイラー・バーグ、32歳。
フランク・バーグ博士の孫娘で、祖父譲りの知的好奇心を持つ科学者。
彼女は幼い頃から祖父の話に耳を傾け、星への手紙の存在を知っていた。
今日は、祖父の遺した送信記録と手書きのノートを整理する任務。
ページをめくるたび、手紙に込めた祖父の熱い想いが蘇る。
「…こんな古いデータ、解析できるのかしら」
テイラーは眉をひそめつつ、パソコンの前に座り直す。
フロッピーディスクを読み込み、送信ログを最新の解析ソフトで変換する。
何度も繰り返し確認するが、電波が飛んでいった痕跡は静かで、返事の兆しは一切ない。
それでもテイラーは焦らない。科学者として冷静に、ひとつずつ手順を確認していく。
「まずはデータのノイズを整理して…周期を確認、信号の強弱を比較…」
解析を進めるうち、1974年の送信がいかに精密で大胆な試みだったかが見えてくる。
フランクの思い、努力、そして科学者としての情熱——
それは、テイラーに深い敬意と小さな誇りを芽生えさせた。
夜が深まり、施設の静寂が増す中、テイラーは画面に向かい続けた。
返事はない。何十年経っても、宇宙は沈黙している。
しかし、その沈黙の中で、彼女は何かを確信していた——
「この記録は、いつか…意味を持つ日が来る」
そして、画面の隅で、ほんの一瞬だけ微妙なノイズの揺らぎが光った。
瞬間的で、解析ソフトも特に反応しない小さな兆候。
テイラーは眉をひそめ、画面を凝視する。
「…気のせいかしら」
だが、心の奥底では、何かが動き始めていることを微かに感じていた。