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『玄賓、速記者として伊賀国郡司を救ふこと』速記談0310

作者: 成城速記部

 伊賀国の郡司のもとに、流浪の速記者がやってきて、お仕えし、世話になっていた。言葉をつむぎ、書き取るなどして、二、三年を経たころ、郡司は国司の勘気に触れ、追放されることになってしまった。国中の縁者や郎党が集まって、嘆き悲しんでいた。所領も従者も多く、それらをうち捨てて他国に出るなどということは、簡単なことではなく、妻子親族は、どうしてよいかわからず、ひたすら嘆き悲しむばかりであった。例の速記者が、この様子を見て、何があったのかと、あたりの人に尋ねてみたが、縁者でも親族でもないので、誰も詳しいことを教えてくれない。どうしてもといって、尋ねたところ、一人の下女が、事の次第を詳しく教えてくれた。速記者が、相手が国司ですから、逆らうこともできませんが、すぐに他国に出ることもありますまい。まずは都に上って、このことを何度も何度も訴え出て、それでもだめだとなってから他国に出ればいいのです。私は、国司の縁者に知り合いもございます。試しに私からも手を尽くしてみましょう、と言うので、郡司は、速記者の言うことを完全に信じたわけではないけれども、ほかに方法もないので、速記者を連れて都に上った。当時、伊賀守は大納言のなにがしであったが、速記者が邸内に入ると、侍所にいた従者たちが、速記者をまじまじと見て、最初はあやしがっていたが、急に全員が庭に降りてひざまずいた。郡司は門外からこの様子を見て、何が起きたのかわからずにいた。

 大納言は、速記者の来訪を聞いて、宴の支度をして招き入れた。これまでどこで何をしていらっしゃったのですか。帝を初め、皆御心配申し上げていました、などと言ったが、速記者は、そういうお話は、また今度静かにお話ししましょう。きょうは、急ぎお話ししたいことがあって参上しました。この何年か、伊賀国で、こちらにいらっしゃる郡司の方にお世話になっていたのですが、国司の勘気によって、追放されることになってしまったのです。この方は、そのような方ではなく、何か行き違いがあったものとしか思われません。どうか、私に免じて、お口添えいただけないでしょうか、と申し上げた。大納言は、いやも応もありません、と答えて、すぐに許すよう、伊賀守としての正式な命令書を発行してくれた。

 速記者は、郡司も一緒に来ているのです。まずはこの命令書を見せて、喜ばせてやりたいと思います、と言って退出し、従者に、郡司にお渡しするようにと伝えて命令書を渡し、自分はそのまま姿を消してしまった。郡司は、心から速記者に感謝したのであった。

 この速記者というのは、玄賓僧都のことだという。



教訓:正しい者は、不幸な状況から救われるという話は、古今よく聞かれるが、現実にはそんなことは、ない。

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