095-人間だから言えること
「こんなものでごめんなさい」
「いえ...その」
エリスは、サーシャに席を勧める。
座ったサーシャの前で、茶を注いで渡した。
一杯飲んで見せて、危険ではないことを示したうえで、サーシャがそれを口にするのを確認する。
「それで、エリアスに連れられてここへ?」
「あっ、あなたも攫われてきたのですか!?」
サーシャは驚愕する。
なんて非道な存在なのだと。
「うーん....攫われたというか、私の方が攫ってと言ったというか....」
「弱みに付け込まれたというのですか?」
エリスは価値観の違いに、悩む。
目の前の女性は、ずっと酷い目に遭ってきたのだと。
被害に遭うようなことしか考えていない。
「エリアスは私が大好きだから、私も彼の気持ちにこたえようと思ったの」
「あの....異常者が?」
「異常かしら....」
エリスは信じられないような表情をする。
彼女が無知だと勘違いしたサーシャは、エリスに教えてやるつもりで叫ぶ。
「あの女は...! 私たちを洗脳して騙しただけではなく、復讐したければクローンだからいくらでも殺していいなんて言い張ったのですよ!?」
「けれど、貴方たちを殺そうとはしなかったでしょう?」
「それはっ....殺せない理由があると」
エリスはそっと立ち上がり、サーシャの後ろに回る。
そして、呟いた。
「あれは、私が頼んだの」
「ヒッ」
サーシャは理解した。
エリスは決して味方などではないと。
「ヴァンデッタ帝国を滅ぼした罪を、私はエリアスに弾劾したわ。だから彼はもう、やり過ぎないと誓ったし、ヴァンデッタ帝国の人間は殺さないと言った。でも、追い出すわけにもいかなかったのでしょうね」
「何故? 私たちの記憶を消せば」
「ただ追い出したら、貴方たちはきっと酷い目にあうわ。それを私が分かっているからこそ、私を悲しませたくなかった、そうだと思う」
サーシャには訳が分からなかった。
それも当然である。
ドラゴンとその傍に少女がいたとして、ドラゴンが自分の国を滅ぼした罪を反省し、それを少女が咎めたので、自分を追い返すことも丸呑みにすることもしないと約束したという荒唐無稽な話である。
「サーシャさんは、どうしたいのかしら? 本当に望んでいるのは復讐なの?」
「私は.....」
サーシャは固まる。
もし、帝国が元に戻ったところで。
自分の居場所などない。
Ve’zが滅んでも、帝国は元に戻らない。
「だって私は.....皇妃で、帝国がなければ....仇を取って死ぬべきで.....」
サーシャは目を泳がせ、自分が一番納得する言い訳を並べ立てる。
彼女は、芯が存在しない人間なのだと、エリスは分かっていた。
もう一人のエリスのようなものだと。
「貴方には、自分の人生がないのかしら? ずっと皇妃として生きてきて。もうみんな死んでしまったのに、それに義理立てして」
「黙れッ!! 私の国民を、殺したのは、貴方たちです!」
「じゃあ、どうするの? 貴女に居場所はないけれど」
「ぐっ.....」
サーシャは葛藤した。
自分を冷遇した帝国。
ずっと黙って耐えてきた帝国。
でも、それが滅んだなら、自分は皇妃として役目を果たさなければならない。
けれど、役目を果たしたところで?
戻ったところで?
「ぁああああああああああ!!!」
サーシャは発狂した。
自分の中身が無い事で、役目という盾を使えなくなった彼女の精神は崩壊したのだった。
「だ、大丈夫!?」
エリスが駆け寄る。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
サーシャは笑い続けた。
泣きながら笑った。
笑って、笑って――――
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