091-過ちを繰り返さぬために
その日、サーシャはまた、展望室で星を眺めていた。
気配を感じた彼女は、ヘイルスだと思って背後を振り返り――――
「えっ......エリアス様!?」
「そうか...成程、深層心理に情報を挿入したな?」
サーシャはエリアスの言っていることが全く分からない。
だが直後、サーシャは一瞬で意識を奪われて、その場に立ち尽くす。
言わば、人間の意識の編集モードのような状態である。
「『戻れ』」
エリアスがそう命じると、サーシャの深層心理にあった偽の記憶と、暗示が消去される。
途端、サーシャは瞳孔を見開いて、エリアスを見た。
「――――ッ、誰ですかっ!?」
「僕の名前はエリアス。Ve’zの――――」
「くっ!!」
直後、なんの躊躇もなくサーシャは発砲した。
エリアスの左胸に穴が開く。
「やった――――やりましたっ!」
「.....それで、目は覚めたか?」
サーシャは一瞬、銃を取り落とし、喜びを露にする。
だが。
エリアスは意にも介していないように、再びサーシャを見つめた。
「なんで.....」
「僕には死がない、全てのVe’z人がそうだが」
エリアスは胸に空いた穴を見せる。
それはすぐに塞がり、
「う、ぁあああああああああああああああ!!!」
引き金が何度も引かれ、銃声が木霊する。
エリアスの頭、右目、左胸、脇腹、股間、右足首を、寸分違わぬ精密射撃が襲う。
だが、エリアスは変わらずそこに立っていた。
「終わりか?」
「......く!」
サーシャは背を向けて逃げようとする。
直後。
サーシャは服の襟をつかまれて、エリアスに抱き寄せられた。
「僕の目を見ろ」
「だ、だめ...!」
エリアスは、サーシャの視線が自分の目に移る瞬間に、エリアスは精神干渉にて彼女を沈黙させた。
「ケルビス」
『はっ』
「艦隊を移動させる。全艦のシステムを掌握しろ」
『既に完了しております』
「宜しい」
エリアスは、エリスにバレる前に艦隊を送り返すつもりだった。
相当無理をして艦隊を維持していたことを知っているので、彼らが帰れば、必ず酷い目にあうと知っているうえでだ。
エリスに知れる前に、艦隊ごと処分する気なのだ。
「エリアス!」
だが、展開はそう甘くはいかない。
展望室に佇むエリアスの前に、ジェネラスに連れられたエリスが現れた。
『では私めはこれで!』
「ケルビ....逃げるな! くっ.....」
ケルビスは、エリスの視界に彼の姿が入る前にワープで離脱する。
そのせいで、エリアスは一人その場に取り残される。
「ポラノルから全部聞いたわ! 追い出すなんて、そんなのダメよ!」
「だが......エリス以外を養うつもりはない」
エリスの剣幕に、エリアスは狼狽える。
じりじりと追い詰められていくエリアスだが、
「そもそも、メッティーラから何も話を聞いていないじゃない! 理由もなく罰するのは、よくないことだと思うわ!」
「......ぐッ!」
痛いところを突かれた、とばかりにエリアスの顔が歪む。
メッティーラには処罰なしで、今回の件を済ませるつもりだったのだ。
『メッティーラ殿は、人間の飼育に大変興味深くあらせられました。主君、どうか――――ご慈悲をいただけませぬか?』
「ジェネラス......」
エリアスは目を閉じ、姿勢を立て直す。
「ジェネラス、お前が裏切るとは思っていなかったな」
『処刑していただいて構いませぬ。ただ拙者は.......エリス様と、メッティーラ殿に背くことが、結果的にエリアス様を不幸にすると、愚考したまでの事でございます』
ジェネラスは真っすぐにエリアスを見据えた。
その強い目を受けて、エリアスはついに頷いた。
「............僕も、排除するだけの結果は必ずイレギュラーを招く。そう思っていた節はあった。....自分を裏切った僕も同罪だ......エリス、メッティーラと話をしてみることにする」
「エリアス.....大好き!」
「......ああ」
うれしそうに笑ったエリスを見て、エリアスは完全に折れた。
ジェネラスはそれを見て思った。
「(拙者らエクスティラノスを動かせる程の卓越した人心掌握術、それでいて自覚なしとは.....空恐ろしいという他あるまいな)」
と。
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