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089-永遠の終わりか、それとも泡沫の幸福か?

僕は困惑しながら、エリアスの記録に移る前の最後の時代へと上昇する。

そこには、今までの時代よりはるかに分厚い情報が蓄積されていた。

それは、無感情と効率化による果ての、無関心化による自害の研究。

彼らは、研究の果てにたどり着いたのだ、なぜ彼らが自害したかの理由に。


『だが、分かったところで――――何もできなかった。わたしは段々と、知ること、生き続けることに大して欲求を失っていく事に気づいた。』


そして、クロエ管理者もまた、その終わりに近づいていた。


『それは、ノエルも変わりなかった。彼を見てきたわたしは、彼の微細な動作の誤差に気づいた。長くかからず、私たちもまた、無関心の虜となり、滅びの運命をたどることになると』


だが、そうはならなかった。

クロエは生の欲求を求め、あらゆる手段に出た。

今のエクスティラノスたちのように。

植物や動物を飼育して生命と触れ合ったり、食事を楽しんでみたり。

様々な星に旅行に行ってみたり。


『ある時、わたしは人間の心を模倣してみることにした。人間は男女で恋というものをするそうだ。それが男女の仲を発展させ、結果として生殖行動に繋がることもあるという。それを真似すれば、生存本能を蘇らせることも不可能ではないかもしれないと。』


クロエはノエルに、恋愛をすることを提案したのだ。

今まで、人の深層心理を本当に理解しようともしなかった彼ら、彼女らが。

互いに歩み寄り、理解し合う道を選んだのだ。

もっとも――――それは単純なことではなかったが。


『わたし達は互いの趣味嗜好を交換し合ったが、それがどんな結果を生むのか分からなかった。わたしの趣味は研究であり、嗜好は人間の心理について考える事。だがノエルは、研究よりも実験を重ねる性格であり、嗜好は人体構造の自然発達の意義を考察することだった』


要は、付き合ったはいいものの、互いの趣味嗜好が偏りすぎており、対となっていたのだ。

だが、Ve’z人には互いに歩み寄ろうとする思考はない。

ここで終わりになったかと思いきや、それは意外な方法で存続した。


『だがある時。わたしは運んでいた植木鉢を落としてしまい、不可思議な虚無感に襲われていた。だが彼は、それを拾い、丁重に別のケースに入れ替えてくれたのだ。その時わたしの中で、ノエルに対する親愛以上の何か別の感情の気配を覚えた』


それが何だったのか、まだクロエには分からなかったようだ。

僕もそれが何なのか、早く知りたくなった。

さらに昇ると、


『ノエルとの仲が進展した。同時にわたしは、彼のことを大切に思い、理解しようとする心を得た。ノエルもまた、それを悪くないと思っているようだった』


何やら惚気た文章が記録されていた。

見るに堪えないが、これも貴重な情報だ。

二人を覆っていた無関心の氷は、徐々に溶けつつあった。

だが――――


『同時に、わたしはある一つの真理に辿り着いた』

「真理....?」

『全ての事象には終わりがある。つまり、わたし達もまた、終わらなければならないと』


ああ、そうか。

僕は気づいた。

エリアスの名がなぜ、無いのか。

二人がなぜ、全ての痕跡を残さなかったのか。


『最後のVe’zの人間、エリアス=アルティノスにこの言葉を遺す』


彼と彼女は、エリアスを産んだのだ。

普通の人間の体に意識を戻し、エリアスを産み育てた。

そして、エリアスにはVe’z人の技術を継承し――――


『もしこれを知った時、終わりたければ、命を断て。それこそが、生物――――考え、生きる者たちの明確な末路である。だが、もし――――終わらずに済む理想を追うのであれば――――研究せよ。実験せよ。何にも配慮せず、Ve’z人の理性を全うせよ。――――幸福とは、人それぞれが持つ命題の末路である。その夢の残骸を追い求め、いつかその先の真理に足を踏み入れるその日まで、決して関心を失うな――――あなたの母親、クロエ=アルティノスと――――お前の父、ノエル=アルティノスより』


僕に。

私に選択を委ねた。

Ve’zの終わりを決める権利を。


『ぐ......』


途端、心の中が騒めく。

エリアスが抵抗しているのだ。


『落ち着け』

『落ち着けると思うのか? 私の生物学上の血縁者たちは、私に全てを押し付けて逃げたのだ! Ve’zが辿り着く永遠の幸福を投げ捨てて――――』

『......エリアス』


僕は一歩踏み出す勇気を――――

踏み出す勇気を....


『.....いや、エリアス。僕と君は共犯者だ』

『.....?』

『永遠の幸福はまだ得られないと決まったわけではない。この先の結末に、委ねてみよう』

『それは、何の確証もない賭けに過ぎない』

『前の管理者は、エリアスという可能性に賭けた。生粋のVe’z人ではない僕と――――』

『私に?』

『そうだ』


僕は終わりから目を逸らし、エリアスとしてエクスティラノスたちを導く事にした。

それが、エリアスにも、エリスにも嘘をつかない方法だったから。



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