086-小動物を飼う(基礎編)
メッティーラは洗脳した全員を、ヴェリアノス......ではなく、ラクト星系という場所に留まらせる。
この場所はエクスティラノス一体一体に割り振られているパーソナルソーラーシステムであり、エリアスの言う「家」のようなものであった。
『さて...』
艦隊を移動させたメッティーラは考える。
人間とは何を食べるのかを。
自分たちは栄養を必要としないため、好きなものを好きなだけ食べることが出来る。
だが、人間というのは色々な物質を体内で生成できない欠陥品だと、メッティーラは知っていた。
『ケルビスに相談してみますか』
早速メッティーラは、ケルビスに回線を繋ぐ。
すると今度は、上機嫌そうな声が返ってきた。
『ケルビス、少し相談したいことが...』
『ああ、構わないよ...これがエリアス様に貢献する感覚か...』
『人間にとってバランスの良い食事とは、何でしょうか』
『もしかして、帝国軍残党を、捕虜にでもしたのかい?』
メッティーラは一瞬驚くが、すぐに彼の「目」は、Ve‘zの星系全てにあることを思い出す。
『殺さなかったのは英断だ。待っていてくれ、直ぐにラクトの君の家に、餌のパックを届けよう』
『感謝します』
『なに、Ve’zの管理惑星に、たまたま餌を大量に持っている惑星があってね』
それはなんとも、幸運なことだとメッティーラは思った。
それから数十分後、数個の巨大なコンテナがラクト星系にワープしてきた。
メッティーラは中へと入り込み、コンテナの中にある大量の小型コンテナを見た。
『こんなものが、本当に食事なのでしょうか?』
メッティーラは訝しんだ。
それというのも、ケルビスが送ってきた餌というものは、銀色の包み紙に包装された、四角く成形されたペースト状の何かだったからだ。
しかも、それぞれ色が違う。
『これにはなんの意味が?』
『多分、味が違うんじゃないかな? わざわざ同形状の商品で色を変える時は、味が異なる場合が多いとエリアス様が教えてくださったことがあるよ』
ケルビスに相談すると、彼は自慢げにそう話した。
よくわからなかったので、メッティーラはともかくそれを全員に与えることにした。
「皇妃様、危険です。いくらメッティーラ様からの賜り物とはいえ、まずは私が...!」
副官が止めるものの、サーシャは躊躇いなくそれを口にした。
そして直ぐに、「美味しい」と呟く。
メッティーラは安堵した。
ケルビスを信用していないわけではないが、味まで保証されるわけではない。
何しろ、自分たちは人間ではないのだから。
「なるほど...これは美味ですな。流石はメッティーラ様です」
彼等の上位存在は、帝王ではなくメッティーラへとすげ代わったのだ。
ヴァンデッタ帝国にも神を崇める文化はあるが、エリアスはその神のような存在へと、彼等の精神に刷り込まれたのだ。
『必要なものがあれば、ノクティラノスに言いつけなさい。受け入れ施設の完成まで、艦内で生活をしていただきますから』
「わかりました」
サーシャは頷く。
その姿勢に、メッティーラは不思議なものを覚える。
自分を、上位存在である皇帝にすり替えて認識させているというのに、敬意が感じられないのだ。
『こういう事もあるのでしょうか?』
命令は浸透しているが、渋々...嫌々...といった様子だった。
メッティーラは少し考える。
『彼女等のプロファイルが不足していますね』
データバンクにアクセスして、メッティーラは皇妃達のデータを読み取る。
そして、とある事実を知った。
『成程...人間にそういった特例があることはデータにありましたが、実例としてこの目で見ることになるとは、予想外でした』
サーシャ・リンヴァンデッタ。
彼女の過去は、ヴァンデッタ帝国のアルゴギル公爵家まで遡る。
当時の皇帝が、公爵令嬢である彼女と、ヴァンデタッタ南部星系の支配のために政略結婚をしたのだ。
だが当時7歳ほどだった彼女は、その後数年間放置され、その後にキロマイア皇国へと追いやられた。
皇帝はサーシャを娶って以来女性を囲っておらず、女性に興味がなかったと、メッティーラは考えた。
『そうなると、このまま帰すのはまずいですね』
相当の貴人である。
冷遇されていたとはいえ、彼女を残すと新生ヴァンデッタ帝国の形成を許容する事となる。
だが、エリアスの許可なく殺害すれば、エリスの制裁を受けることとなる。
かといってエリスに直接尋ねる事は、エリアスの怒りを招いてしまう。
『難しい判断が求められますね』
メッティーラは、エリアスとの連絡が取れるまでの間を、ケルビスとカサンドラに任せる形で乗り切ることにした。
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