295-新たなる未来
620年後。
カサンドラは一人、空を見上げていた。
場所はアラースの中央都市、エリアサイン。
完成したアラースの首都として、エリアスが築いた都市である。
『色々な事がありましたね....』
カサンドラはこうして、時折ここで星を見る。
エリアスが生涯をかけてヴェリアノスの復興事業に勤しみ、今では星がヴェリアノスの空に瞬いている。
カサンドラが目を閉じれば記録が再生され、新生Ve’zが辿ってきた様々な苦難が彼女の脳裏に浮かぶ。
『最初は.....』
アラースに住み始めたエリアス達だったものの、惑星を無理に再現している状態では動植物が上手く定着せず、品種改良を繰り返して今に至る。
次に、ルナティラノスを解体。
アルクティラノスとして新たなシリーズが開発され、現在もヴェリアノスの空を守っている。
『あの時は....大変でしたね』
突然未知領域より攻め込んできたバルディ・ジアール帝国との戦い。
残った国々と手を組み、共同で反攻作戦に出たのだ。
結果、バルディ・ジアール帝国は滅亡。
しかしながら、現在も各地に散った部族が海賊行為を行っている。
『宇宙怪獣との戦いも......』
バルディ・ジアール帝国との戦争につられてやってきた、銀河を飲み込むほど巨大な規模を持つ無酸素生命体群。
恒星のエネルギーを吸収し短細胞分裂を繰り返す彼らを前に、Ve’zも苦戦を強いられた。
『.........』
そして。
長きに渡った蜜月の時は終わり、エリアスは子孫を残した。
エリスが年老いて、そこで初めて、若い時の遺伝子を使い、双方の遺伝子を合わせたクローンを作ったのだ。
誰ともそんな事はしなかったエリアスの行動に、カサンドラは何ら合理性を見出せなかったが――――
『しかし、そういう事もあるのでしょうね.....何でしょう、ララーナ様?』
カサンドラは空を見上げるのをやめ、振り返る。
そこには、10歳ほどに見える少女が立っていた。
『カサンドラ、また空を見ていたの?』
『ええ』
『少し手伝って欲しい事があるの』
『オメガではいけませんか?』
『ううん、中枢部のメンテナンス、オメガじゃできない。...設計に携わったエクスティラノスが必要』
『では、行きましょうか』
カサンドラは既にエクスティラノスとしての任を解かれている。
後任はオメガ・エクスティラノス。
エリアスが作った最後のエクスティラノスである。
大半の古参エクスティラノスは、エリアスを二度と待つことが無い様にとエリアスと共に虚無の世界へ旅立った。
だが、カサンドラとグレゴルだけは残った。
まだ未熟な新生エクスティラノス達を導き、両親を早くに亡くしたララーナ・アルティノスの父母となるべく。
ララーナの寿命は1000年に設定されており、本人も受け入れている。
寿命が来る前に子供を作るか、誰かとクローンを作るかが推奨されており、そうやって失いながら紡いでいくのだ。
『それが、人間というものだろう』
結局初志を曲げてしまったエリアスは、カサンドラに誤魔化すように口にした。
だが、カサンドラはこれでよいとも思っていた。
アルティノスの宿命に終止符を打ったVe’zが、たった200年で潰えるのは歯がゆいと感じたからである。
どんな形態でも、どんな名前でも。
存続し、記録し、遺すことが重要だ。
カサンドラはそんな結論を出した。
『オメガ、カサンドラを連れてきた』
『ええ、こちらへどうぞ』
オメガは男性型のエクスティラノスであり、四角い眼鏡をかけていた。
彼はアラースの中央部のリムに歪みが生じており、このままでは崩壊すると述べた。
『分かりました、私の記録とオリシアの記録を統合し、ライナックに依頼して修理します』
オリシア・エクスティラノスはシーシャの、ライナック・エクスティラノスはタッティラの後任である。
そこにいた、イサ(η-3)と呼ばれる少女に、カサンドラは目を向ける。
ニトのクローンである。
ニト達は老化せず長寿であるため、ニト自身はエリアスの死と共に自死を選んだ。
だがクローン達はこのアラースを支える自覚を持ち、今も毎日働いている。
「はっ、直ちに呼んでまいります」
『ええ、お願いします』
カサンドラはイサにオリシアとライナックを中央会議場に呼ぶように言いつけ、自分は宮殿から出る。
エリシウム宮殿の前には、今もエリアスとエリス、二人の像が立っている。
クロペル共和国とオルダモン合衆国でも、エリアスのモニュメントが設置されているが.....
カサンドラはここを通ると、いつも錯覚に襲われるのだ。
まるで二人がここに居て、ますます輝きを増す空を見上げているのではないか――――と。
『エリアス様、あなたには救いを頂きました。Ve’zは存続を選び、これからです――――どうか、見守っていてください』
すっかり人間らしくなったものだ、とカサンドラは自嘲する。
そして、改めて前を向き.....その場を後にするのだった。
完
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