294-故郷への帰還
一か月後。
僕らはエリガードに乗り込み、出発する準備を整えていた。
カニマで思いっきり楽しんだ後、アルクレイスと合流。
アルクレイスを収容し、エリガードでアラースへと戻る算段だ。
『現在アロウト....アラースは建造中で、皆には庭園の方に移動してもらう』
『分かってるわ』
修復....は無理なので新築された庭園は、暫くはそこに留まってもらい、アラースの完全完成と同時に移動。
庭園はアラースの防御拠点となり、余裕が出来た後は軌道上に浮遊大陸群が形成されるそうだ。
更に、アラースの表面構造の維持の為に外周にはリングが二つ設置されるようだ。
『.....でも、どういう風の吹き回しなの?』
『気分転換だ』
エリスが尋ねてくるが、これはアラースの構造についてではない。
僕が......
『気分転換で、寿命を定めちゃうの?』
『ああ、アルティノスも人間になる時が来たというだけだ』
僕の義体はこれから同一の特徴を持つことになる。
200年という、不変の寿命。
ニトやアディナのような寿命が”強化”されている人間に似合わせたものだ。
あとは、ニトのクローン達.....今はα~κと1~10の番号で管理している彼女たちが、それぞれ好きな道に進めるように。
キシナも、徐々に廃人状態から立ち直りつつあるらしい。
『よし、航路設定に問題なしだ、オートパイロットにして離脱する』
僕はコックピットブロックから抜け出して、ブリッジに移動する。
面白い事だが、エリガード(客船仕様)はコックピットブロックとブリッジが別々に存在している。
展望デッキもあるが、機械的な意味でのブリッジは、主にエリスやアディナが利用するものだ。
『飽きないのか?』
『ええ、星々を眺めるのは楽しいわよ』
エリガードは指定の地点までワープで移動し、そこからワームホール経由でアラースまで帰還する。
そのために今は回頭中であった。
『ティニアはどうした?』
「昨日激しかったでしょ? それで疲れて寝てるわよ」
『ああ....』
僕は昨夜を思い出す。
彼女はやたら積極的な割に、ムードを重視するので中々機会が無い。
いくつか下世話な話をしながら、僕らは暫し時間を過ごす。
そして、あまり時間が経っていない事に気づき、互いに笑い合う。
『ワーププロトコル、開始まで残り300秒』
「始まったわね」
『ああ』
乗員の安全を考慮するため、緊急ワープ以外では猶予時間を設けるのが、このエリガードの機構でもある。
超光速ワープのために、ゆっくりと質量を減らすのにも必要な時間だ。
「ワームホールにさえ入れば、そこからは三時間以内なのよね?」
『ああ』
ワームホール同士は通常空間同士の距離は関係ないので、経由地点でしかない。
Ve’zやエミドの繁栄を支えた技術だ。
『エリアス様、8時方向に艦影多数』
『来たな』
エリガードの後方に敵がワープアウトする。
出発は伝えてあるので、大方国内の反乱者達だろう。
『ワープ中止、ビット全機展開』
『了解、私が戦闘を指揮します!』
結局、戦争は終わったが.....
怨恨と憎悪をばらまいてきたVe’zは、少数とはいえ多くの人間に対しての復讐相手となった。
既にTRINITY.亡き後の国家群は空中分解し、商業連合という一つの国家としてまとまりつつある。
それに従えないのは、先ほどのような復讐者たちと、それに乗じて自治や支配を企む愚者たち。
そのどちらも、Ve’zは許容する。
逆らえば潰すだけなのだから、関わらなければいい。
その程度のことにも気づけないのであれば、苦しみながら虚空の中で凍り付いて死ね。
『敵、損耗率89%』
『質量減少を続行しろ』
僕は指示を出し続けるのであった。
四時間後。
エリガードは通常空間へと表出する。
既にブリッジには、全員が集まっていた。
『凄い.....のか?』
『概ね設計図通りですが、まだ未完成ですね』
かつて大陸のようだったアロウトは、現在は惑星のようになっている。
ただ、資材不足と労働力不足が祟って、まだ骨組みが露出している部分が多々ある。
「これ程の構造物を...やはりVe‘zは凄まじい技術力ですね」
「もう慣れたわ」
「突っ込む気も湧かないよね〜」
新鮮な反応を見せるアルクレイスだが、他の面々は慣れた様子だ。
僕も驚かされることが多いが、Ve‘zの技術力はそこまでは高くない。
アルケーシアやラー・ゼソルに比べればまだまだだ。
だが、それを目指すのは最早無駄な事だ。
Ve‘zを支配する人間は僕一人。
僕の決定で、死後1年以内にVe’zは完全に解体され歴史から姿を消す事になるだろう。
エリガードは少しずつ速度を落とし、アラースの軌道上を周回する『庭園』へと近づいて行く。
惑星フィオや農業惑星も、ヴェリアノスに持ってきて配置する予定である。
人工太陽も設置する計画が出ている。
これからが楽しみだ。
『さあ、帰ろう...A‘Rearthへ』
僕は窓の向こうに映った、第二の故郷へ向けて静かに呼びかけたのだった。
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