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【完結】SF世界に転生したら人類どころか人外で人類史の空白だった件~人間じゃないけど超優秀な配下を従えてます~  作者: 黴男
終章(3/3)-『決着』編

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290/295

290-バカンス

「..........」


耳に届くのは、打ち寄せる波の音。

鼻腔をくすぐるのは、淡い潮の香り。

肌を日光が容赦なく突き刺し、僅かに涼しい風が吹く。


「エリアス、泳がないの?」

『ああ』

「せっかく海に来たのに....」


僕は今、海辺に置かれたビーチベッドの上に寝そべっている。

隣に立つのは、浮き輪装備のティニアだ。

泳げないのかとも思ったが、普通に海で遊ぶために付けているようだ。


『カニマは......いい所だな』

「でしょ? 私、よく休暇はここで過ごしてたんだ。」

『そういえば、女王だったか?』

「昔は、普通の女の子だったもの」


何があったのかは知らないが.....

少なくとも、思い出の地である事は確かなようだな。

ここはティニアのプライベートビーチであり、行ける筈もないのに長年維持費を払ってきたところを見ると、相当のお気に入りだったのだろう。


「エリアス、遊びましょうよ」


その時、エリスがやってくる。

花柄の水着を着ていて、とても似合っている。


『僕はいい』

「そんな事言わずに、ね?」

『....分かった』


エリスに言われれば仕方ない。

僕は砂浜を数歩歩き、波打ち際に足を踏み出す。

最初に海に来た時、懐かしい感覚に戸惑った。

きめ細かい砂が足の裏に触れ、予想外に冷たい海水が緩やかに足の上に登ってくる。


「新鮮だ」

『そうなのか?』

「うむ。吾輩の故郷に海はない」

『そうか.....』


ニトも楽しんでいるようで何よりだ。

僕は一気に海の中へと入り、深く深く潜る。

エリス達を置き去りにして、沖合の深度まで潜った。

目を開いたまま上を見て、光が静かに降り注ぐ海底で暫し滞在する。

ここまで来れるのは、アディナくらいのものだ。

そのアディナとはいうと、前世で見たようなリゾートの子供預り所のような場所で、キシナとニトのクローンたちを世話している。

テレビを見たり、お遊戯を.....という具合に。

海面に上がった僕は、体内に入った海水を吐き出す。

そのさなかに、エリスが泳いで近づいてくる。


「酷いじゃない、置いて行くなんて」

『悪かった、一人になりたくて』

「......そうね、ごめんなさい」


エリスは、アロウトを失ったことを僕が悲しんでいると思っているだろう。

だが、違う。

エリアスが......居なくなったことが寂しいだけだ。

死んだとは思いたくない。

彼女は僕を――――うわっ!?


『何をするんだ』

「水鉄砲よ、こうやると水が飛ぶの」

『はぁ.....仕方ない、報復だ』


僕は両手を合わせて海水を掬うと、エリスに向けて投げ飛ばす。

海水は掬った時より総量が遥かに少ない状態で、エリスの顔面に当たってはじけ飛ぶ。

きゅっと目をつぶった彼女は、半目でこちらを認識して水鉄砲で反撃してくる。


『くっ、ターボ・シールドでは防げないか』


周囲の水まで曲げてしまう。

仕方なく、海水を受けて後退する僕。


「あっ、そういえば」

『何だ?』

「私があげた水着、着なかったのね」


僕は自分の身体を見下ろす。

Ve’z基準の、若干サイズに余裕のある水着だ。

エリスのは....


『サイズが合わなかったんだ』

「.....どっちの?」

『胸』


この義体というより、エリアスに胸はない。

だから、エリスの水着はブカブカだ。

こう思ったら、彼女はどう思っただろうか?

興味深いが.....それももう叶わない。


「はっきり言うわね、気に入らないわ」

『どうも』

「気休めだけど、エリアスは可愛いわよ」

『....ああ』


僕もそう思う。

美を突き詰めたような顔であるのは間違いないだろう。

しかし、美しさとは何も均整だけにあるものではない。

綺麗な事を前提として、遊びや余裕、多少の汚点すら吞み込んで、それが美しさになる。

エリスの顔のように。


「....まじまじと見ないで、恥ずかしいじゃない」

『わ、悪い』

「私に夢中でよかったわ。次々別の女の子を連れ込むんだもの」

「駄目だった? ごめんね~」


その時、唐突に海中からティニアが顔を出す。

ティニアがここに居るなら、サーシャとニトはどうしたんだ?

そう思って砂浜に目を向けると、レジャーシートの上でサングラスを付けた二人が寝転がっていた。

日光浴中のようだ。


『...平和だな』

「そうね」

「そうだね!」


その時、沖合から強い風が吹き、僕らの前髪を揺らした。

水にたっぷり浸かった髪は揺れなかったが。

見上げた紺碧の空には、大きく、分厚く白い雲が浮かんでいた。

横から見れば、入道雲に見えるのだろうか。

大きすぎる物事は、あらゆる面から見なければ俯瞰できないことも多々ある。

それに気付けただけ、此度の生に意味はあったな....。


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