283-脱出
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どれくらいの時間が経っただろうか?
とにかく僕は移動を続けていた。
アロウトはほぼ完全に崩壊し、僕は満身創痍の状態で逃げる手段を探していた。
エリスたちは逃げられただろうか?
僕やエリスなら、ルナティラノスならポッド部分にさえ入れれば逃げられるが...
『人間用のランチなどと便利なものは置いていないからな...』
呟く。
答えてくれる人はもういない。
僕は崩壊した回廊を伝いつつ、壁面のパネルを見つけた。
緊急用の物資箱が入っていそうだったので、開ける。
内部のものは殆ど経年劣化で駄目だったが、エネルギーブロックだけは生きていた。
衝撃でヒビが入ったそれを噛み砕く。
不味い...不味いが...
エネルギーブロックがあれば、活動時間を長らえられる。
もう身体を修復するだけの余裕はない。
ナノマシンは大きな欠損は修復できないからだ。
『......勝ったはずなんだがな』
最後の命令で敵を殲滅するようにエクスティラノスには伝えてあるが...
まだ戦闘は終わっていないらしく、時折ビームがアロウトの残骸に当たって消える。
『Ve‘zの歴史も、ここで終わりか』
僕にとっては重要ではない。
だが、エリアスにとっては重要だったかもしれないものだ。
僕は溜息を吐くふりをする。
真空でやってもしょうがない事だが。
『ここも駄目か...』
僕はつい瞑目する。
アテにしていた格納庫は、爆縮していた。
潰れた空き缶のようになり、当然利用できるわけがない。
アロウトの脱出艇は今はここに集められているので、僕が逃げる手段は無い。
そうだと思って真上に跳んでみるが、アドアステラ...彼らが乗って来た船は真ん中から真っ二つに折れていた。
壮絶な戦闘があったらしく、周囲には夥しい数の残骸が転がっているのが遠目からでもわかる。
『まいったな』
この世界に来てから、ここまで不安になったことはない。
全てには解決策が提示されており、時間さえかければ解決可能だった。
だが今はそうでは無い。
この体で出来ることは少なく、僕はまるで見知らぬ街で道に迷う少年のようだった。
『こういう時、どうすれば良いか...』
なんだかんだで、僕はエリアスに頼っていたな。
こういう時になると、一人で解決策が思いつかない。
とりあえず、庭園にでも行って時間を潰すかと思い、振り返った時。
『探したわ』
『え...エリス! どうして...』
アロウトのコアが露出し、眩い光が差し込んでいた。
それを背にし、一人の人間が立っていた。
誰が間違えるものか、エリスだった。
『言ったでしょ、探しに来たのよ。』
『だが、危ないだろう』
『その状態で言われても、エリアスの方が危ないと思うけど?』
『それはそうだが...』
戦闘でボロボロになったが、身体機能に問題はない。
もとより内臓が必要な身体ではないからだ。
『行こう』
『ええ』
彼女は今、宇宙服に身を包んでいる。
何かあったら、彼女は簡単に死ぬ。
『ところで、この状況でよく船があったな』
『あ、それはね....』
その時。
僕たちの眼前に、巨大な船が現れた。
『エリガードだと.....!?』
『そうみたい』
その時、僕は気付く。
そうだった、エリアランツェに辿り着いたとき、エリガードは不要になり、ついでだからとタッティラにエリガードを旅客船仕様に改造するように言っていたのだった。
平和になってから、ソレで宇宙を旅するのも悪くは無いだろうと。
以前の銀色の船体は、オレンジから茶色のグラデーションに塗装され、武装が付いていない。
コンシールドによる偽装装備ではなく、本当に載っていない。
ビットが主武装だからだ。
『乗りな! 直ぐ遮蔽して逃げるよ!』
『ああ、分かった!』
小さなハッチが開き、タラップが降りる。
船内にはディオナが立っており、僕らはスロープを伝って船内へ移動する。
『緊急遮蔽コーティング展開中』
システム音声が響き、ハッチが閉じて気圧調整が即座に行われた。
僕らはブリッジに向けて移動する。
その最中、ティニアに会う。
「戦闘見てたよ! 凄かったね.....」
『ああ、ギリギリだった』
「説得力あるね.....」
エリアスと二つの力を合わせ、連携を尽くして戦ったから勝った。
それだけだ。
三人でエレベーターに乗り、ブリッジに上がった。
そこには、誰一人欠けることなく全員が揃っていた。
それから、タッティラも。
義体の下半身が損壊している事を除けば、無事だった。
「その......逃げてる途中にタッティラと会って、工房が崩壊する前にエリガードを持ちだせたの」
『そうか.........よくやった、タッティラ』
『光栄です』
『修理を受けてこい』
『はい』
修理には数時間かかる。
僕が帰ってくるまでは待っているつもりだったのだろう。
『誰が操縦してる?』
『今はアディナ様が』
『分かった、アディナ』
『はい』
『進路を今から送信するポイントに定めろ。そこに、廃棄されたゲートがある。まだ動くので起動し、その先の星系で暫く待機しろ』
『了解』
アロウトは周囲に七つの星系群を持ち、今回使うのは隠されたもう一つの星系群....コジャスラへのゲートだ。
ここはアルティノスの逃亡ルートとして使用される事を想定した場所で、古代から一度も使用されなかったものだ。
恐らくまだインフラが生きている。
『じゃあ、エリス』
「ええ」
僕はエリスと共に、クローン室へ向かう。
僕の状態を保存すれば、クローンへの転送が利用できる。
『これが終わるまでは、僕は動けない』
「分かってるわ」
『留守を頼む』
「ええ」
僕は暫く立ち尽くす。
エリスが何かを求めていると思ったからだ。
だから、顔を近づける。
『いいのか?』
「来なさいよ、初めてでしょ」
『ああ』
僕は彼女の唇に、自らの唇を重ねた。
短く終えるつもりが、意外と長く続いた。
『..........』
「...........」
『もう行く』
「気を付けてね」
エリスは顔を真っ赤にしていた。
あんな顔が見れるのなら、何度でも出来るな....
『状態保存を開始します。範囲外から離脱しないでください』
機材が作動し、僕は目を閉じる。
とりあえずの危機は脱したな.....
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