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【完結】SF世界に転生したら人類どころか人外で人類史の空白だった件~人間じゃないけど超優秀な配下を従えてます~  作者: 黴男
終章(3/3)-『決着』編

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280-回想『CASS'ANDRA』

私の名前はカサンドラ。

アロウトを総括する人工知能であり、エリアス様をその果てまで見守る役割を仰せつかった者でもあります。

私は全てのエクスティラノスの中で、四番目に形作られた存在です。

それまでアロウトの機能を管轄していた、最初のエクスティラノス....アルファ・エクスティラノスが古い構造のため退役する事となり、クロエ・アルティノス様の手によって私は作られました。


『アルファは廃棄します、貴女にアロウトの管理をお願いしたいわ』

『分かりました』


けれど、実際にアルファは廃棄されてはいませんでした。

私を形作る、人格構造のベースはアルファなのです。

よって、私はアルファの完全な後任として創られ、今ここに在ります。

彼の記憶も参照できますが、アルファはノクティラノスの人格とそう変わらない、完全命令型のエクスティラノスだったので、その記憶は本当に必要なものだけでした。

アルファはロドウィン・アルティノス様によって作られたので、クロエ様のように――――優しさや親しみやすさを人格に埋め込むような事はいたしませんでした。


『ねえ、カサンドラ。人の根幹は、どこにあるのかしら?』

『すみません、私の知識では....貴女様に満足頂ける回答は用意できません』

『そうね....』


時折クロエ様は私を招き、会話を交わしました。

それに何の意味があるかは分かりませんでしたが、最初の不健康な精神状態だったクロエ様は、段々と明るくなっていくように思えました。


『アロウトは空気が無いのよね』

『はい、いつでも有酸素エリアを増設することは可能ですが』

『人はどうやって息を吸うのでしょうね?』

『呼吸のプロセスは理解できますが、方法までは.....』


息を吸う、吐くという行為は本能のプロセスであるため、私に説明することはできませんでした。

アルティノスの一族は、そういった無駄な行為から解放された強化人種であるために、完成されているのです。


『決めたわ。私、人の住む場所へ行ってみる』

『お付き合い致します』


それから数百年後。

何かを思いついたように、クロエ様は「宝物殿」内部の惑星に降り立っては、人の営みを観察していました。

鉛色の肌に、色の抜け落ちた頭髪という、平均的なアルティノスの特徴を持つクロエ様は大変目立ちますので、私も義体を武装し、護衛しなくてはなりませんでした。


『人間は忙しない生き物ね』

『そのように見えますか?』

『寿命があるからこそ、一分一秒が大切なのかもしれないわ』

『.......』


私は意図的に回答を控えた。

それは、危険な思考へクロエ様を陥らせていると感じたからだ。


『クロエ様、これは管理者として逸脱している行為だとは存じていますが――――もしや、人間に羨望を持っているのですか?』

『.....そうじゃないと言えば、嘘になるわね』

『....管理者として申し上げるのであれば、アルティノスは人間から進化した存在なのです、それは本末転倒だと、()は感じました。』


クロエ様はその時、まるでそれに今まで気づかなかった、という風な顔をされました。

それからというもの、クロエ様は一気に変わりました。

交流のなかったもう一人のアルティノス、ノエル様と頻繁に交流されるようになり、ノエル様もクロエ様の魅力にあてられ、以前とはまた違う考えを持つようになったのです。

これは画期的なことでしたが、長期的に見れば危険なことでした。

ある時、クロエ様は私の前に現れ、こう言い放ちました。


『私、決めたわ。寿命のあるクローンに入って、人間として生きる事に決めたの』

『それは.......こ、後継者はどうするのですか?』

『勿論、受胎可能な義体にするわ、ノエルとも決めたのよ、子供を産むって』

『........』


止めるべきだった。

私はそう思いましたが、既に重篤なエラーである自己の主張を口に出すべきではないと感じ、それを言葉にする事は控えました。

しかし、思念リンクで繋がっているために、クロエ様は私の考えを理解していたようでした。


『分かってるわ。寿命で死ぬって言ったのは、自殺宣言と変わらないって。それに、出産時に母体に多大な負荷が掛かる事も知ってるわ』

『では、何故......』

『私たちは、私たちなりの幸福を見つけたのよ』


私は納得できませんでしたが、その場に現れたもう一人のアルティノスであるノエル様が、私の前で釈明しました。

よく考えれば、クローンを作り続けて命を繋いできたアルティノスの中で、子供はいませんでした。

ノエル様とクロエ様に、エリアス様はよく似ています。


『済まない、カサンドラ。僕も最初は反対した、しかし――――人は終わる事のない生に耐えられるほど頑強ではないと気付いたんだ。だから.....僕たちの子に、全てを託したい』

『もし、私たちの子が私たちと同じ答えに辿り着くなら.....応援してあげて欲しいの』


そう語った二人の映像記憶は、今も再生することが出来ます。

私の信念であり、忘れることのできない記憶でもあります。


『きっと、あなた達エクスティラノスは、永遠と幸福が両立できるものと思っているはずよね、最初のアルティノスがそう思ったように』

『はい、健全な精神、健全な肉体があれば、人は永遠に幸福の蜜月を享受できると』

『けれど、健全な精神は長持ちするものではないわ。例え、心を閉ざしても、気付かないふりをしてもね、心は常に擦り減っていくのよ。それが死ぬより前か後か、人間にはそのくらいの違いしかないわ』


クロエ様の言葉には、年月の裏打ちがありました。

常に一定より変動しない精神を持つ我々AIであれば、多少のノイズを排除してでも、耐用年数を超えるまでは永遠に存在している事が出来ます、しかし――――

例え寿命や精神の大きな変化を排除したとしても、必ず生物である以上は限界が来る。

その事を知りながら、私はお二人の遺したエリアス様を育てたのです。


『ねぇ......カサンドラ』

『何でしょうか?』

『人は死んだらどこへ行くのかしら?』


そして、数十年が経ちました。

人間の寿命など、今まで過ぎていった年数に比べれば一瞬でした。

お二人は一日の一分一秒を大切に過ごされ、そして老いて行きました。

細胞分裂の限界を迎え、脳裏に意識保護プログラムの警鐘が鳴り響いているというのに。

二人は眠るように寿命を迎えたのです。


『..........使命は、果たさなければ』


私はお二人の娘であるエリアス様の幼年期の世話をしました。

お二人は、エリアス様に考える時間を与えるために強化措置をされていたので、エリアス様は無事に育ち、ノエル様が遺されたエクスティラノスであるグレゴル様が養育を引き継ぎました。


『お前は信用できない』


そして、ある時。

まだ小さいエリアス様が私のもとにやってきて、そう言いました。


『そうでしょうか?』

『エクスティラノスらしくない』

『はい』

『なんで削除できない?』

『貴女様の母親が作られたからです』


そう、グレゴルと違い、私の削除はエリアス様では出来ないようになっている。

私の削除は、アロウトの崩壊と同時に行われる。

私の選択で、如何様にもできる。

それは何故か。


『もしエリアスが自分でアロウトを滅ぼしたなら、その選択に身を委ねること。あの子もきっと大きな失敗をすると思うわ、その結果アロウトがめちゃくちゃになったなら、存続しなさい。良いわね?』


クロエ様が、そういうふうに私にプログラムを仕込んでいるからだ。

私の削除トリガーは私の中にあり、エリアス様が充分に成熟するまでは強制排除コードも最上位権限で無効になって居た。

エリアス様は大きな失敗はせず、アロウトが崩壊するようなことは起こらなかった。

しかし...この結果は、私も予想していなかった。

ケルビスが持ってきた、エリアス様のメンタルケアが必要なのではないかという提案を却下した事を後悔する事になるとは。


『エリアス様が自刎なされた...?』


あり得ないことではなかった。

というよりも、出来るか出来ないかであれば、出来るという技術的な問題。

クローン移送中に割り込みが入り、意識情報が多大に欠落。

旧人類が紙をシュレッダーに掛けるように、エリアス様の意識は細分化されノイズと見分けがつかない状態となってしまった。

我々エクスティラノスと違い、人間の意識はバックアップもサルベージも非常に困難であり、成功した例も最終的には自死となって終わっている。


『........』


アロウトを離れていく者たちを、私は見送る事しかできなかった。

管理者であるとはいえ、エリアス様の命令に口出しできる立場にはない。

それでもメッティーラやタッティラは残ってくれた。

メッティーラはノエル様の、タッティラ様はクロエ様が御作りになられたエクスティラノス故に。

ナージャ・エクスティラノスとガルジア・エクスティラノスは戻って来なかった。

お怒りになられると思い、エリアス様には話していないが....ガルジアは残骸として戻ってた。

あのカルという人間の持つ武器として、力を貸していたという事らしい。

既に任務に出ていたエクスティラノスも同様に帰還せず、私は何やら虚無感のようなものを覚えた。

けれど....エクスティラノスはそれを、行動と切り離して思考することができる。

戻らない事を知りつつも、私は淡々と業務を続けた。

きっとこれは永遠と続くのであろう。

そして。


『!』


アロウトの管理システムが、クローンの正常起動を伝えた時。

私は、何か有り得ない事が起きていると感じた。

本来はエリアス様のクローンのある場所には義体で入らなければならないが.....そう、私は、動揺していたのだ。

壁や床を薙ぎ倒しながら、私はクローンのある部屋へと向かった。


『ひっ!』


エリアス様は私を見て怯えていた。

何を怯える必要があるのかと思ったが、しかし違った。

その眼には、私に対しての困惑が宿っていると察知した私は、長期間の転送で記憶に問題が生じていると察した。


『縺溘☆縺代※! 縺溘☆縺代※!』


クローンの入っているポッドを叩くエリアス様。

私はエリアス様を引きずり出すような格好で外に出し、呟いた。


『こんな奇跡が起こるとは...ああ、エリアス様に再びお会いできるとは...』


少々強引に感じたものの、精神リンクを通して全ての情報を再インストールした。

泣き叫ぶエリアス様を見て、私は何か間違ったことをしていると思ったものの....


『ア.....ああ。長く待たせたな』

『お待ちしておりました』


私は、エリアス様を出迎え、そして永遠に続く不在の玉座に再び主が舞い戻った。

エリアス様は少し変わられていたが、私は構わなかった。

そういう趣もあるだろうと。

そして私は再び管理者となり、アロウトを管轄した。


『あなたがカサンドラなのね、よろしくお願いします』

『ええ』


エリアス様は人間を囲う事にしたようで、短いようで長い戦いを経て、アロウトには人間が増えていった。


『庭園、ですか』

『アロウトを拡張したい、出来るか?』

『でしたら、居住区の一部を解体し、そこに建設してはいかがでしょう』

『任せる』


農業惑星だけでは不便となり、アロウトには庭園が出来た。

柔らかな土の上に草木が生い茂り、自然環境をできる限り再現した庭園が。

庭園の中央にはティニア様が幼少期に過ごされたという避暑地の洋館を複製し、雨や嵐も来る庭園の憩いの場となっていた。

私は時折庭園に寄り、園庭のノクティラノスの管理をしていた。


『あっ、返してよ!』

『勝手に撮ったら怒られるでしょう、エリアスに言って処分してもらうわ』

『えー? いいじゃん、ケチ』


少し暑い気温に、身体温度の上昇を感じながら帰る途中の私は、ティニア様とエリス様が戯れているのを見た。

その光景は、アロウトに相応しいものではなかったが、しかしこれがエリアス様の求めていたものなのだと、私は暫し立ち止まって考えていた。


『そして』


私は目を開ける。

目を開ければ、崩壊したアロウトが映った。

私はここで終わる。

楽園のような時間は終わったのだ。


『.......』


私が自壊システムに調印しようとしたその時。


『ちょっと待って!』


誰かの叫び声が、私を止めた。


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